苦手・川崎フロンターレに今季リーグ戦2勝という大きな成果を収めたことで、優勝圏内に踏みとどまった鹿島アントラーズ。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)圏内の3位・町田とは同じ試合消化数で3ポイント差ということで、ACL出場権が見えてきたの…

 苦手・川崎フロンターレに今季リーグ戦2勝という大きな成果を収めたことで、優勝圏内に踏みとどまった鹿島アントラーズ。AFCチャンピオンズリーグACL)圏内の3位・町田とは同じ試合消化数で3ポイント差ということで、ACL出場権が見えてきたのも事実。中後雅喜監督率いる新体制へ移行した鹿島は堅守とスピーディーな攻めというベースに立ち戻っている印象だ。それも今はいい方向に行っていると言っていいだろう。

 ランコ・ポポヴィッチ監督が率いていた時は「メンバー・ポジション固定」の傾向があまりにも強かった。GK早川友基、DF濃野公人、植田直通関川郁万安西幸輝の守備陣は不動で、攻撃陣も1トップ・鈴木優磨が絶対的エースという状況は変わることがなかった。
 しかしながら、10月以降は鈴木を左サイドにトライさせたり、師岡柊生をトップ、三竿健斗を右サイドバック(SB)に置いたりと、これまでになかった柔軟な起用が見て取れる。もちろん新たな役割を全員がすぐに完璧に実践できるわけではないし、鈴木優磨の左サイドに関しては成功したとは言えないが、チームに新たな風がもたらされているのは確かだ。

■三竿健斗が語る「チームに還元するプレーは変わらない」

「どこで出ても自分がチームに還元するプレーは変わらない。右SBはボランチの時より全体を外側から見れるんで、相手の立ち位置だったりっていうところは仲間に伝えることができる。また新たな角度からサッカーを見れるんで、面白いっちゃ面白いです」と三竿も前向きにコメントしていたが、それぞれが新たな意欲を持って取り組む環境が生まれたことで、チームを取り巻いていた沈滞したムードが払拭されつつあるのではないか。
 加えて言うと、ポポヴィッチ体制で出番が激減していた樋口雄太がスタメン抜擢でイキイキと躍動し、ほぼ構想外のような扱いになっていた津久井佳祐、舩橋佑ら若手もピッチに立つチャンスを与えられるなど、新たな競争も生まれている。それも前任者時代との大きな違いである。
「(3月9日の)町田(ゼルビア)戦で先発して負けた後、課題を自分でしっかり見つめ直して自主練とかで対策を立てようとしていたんですけど、なかなか試合に絡めなくなった。郁万君とかが疲労してるのに自分の力不足で出られなくて本当に申し訳ないと思いながら、できることをやっていました」と津久井はリーグ戦から遠ざかった8か月間をしみじみと述懐する。

■津久井「ずっと望んでた場面」

 その間も中後監督はコーチとして近い距離で彼らに接し、アドバイスをしてきた。中後監督自身も2007~2009年の鹿島3連覇時代は小笠原満男(現アカデミー・アドバイザー)や野沢拓也らの控え要員としてベンチにいることが多かったから、津久井や舩橋のような選手の気持ちがよく分かるのだろう。人の心に寄りそう彼らしいサポートも、重要な終盤で若手を戦力にできた一員なのかもしれない。
「こういう予期にチャンスが来て、少しでも試合に絡めるようになったのは正直、超嬉しい。ずっと望んでた場面だったんで」と津久井も大きな喜びを感じながらクローザーとしての役割を果たした。
 鈴木優磨と交代した徳田誉にしてもそうだが、若い力が積極果敢に向かっていけば、チームに新たな活力が生まれる。そういう意味でも、フレッシュな人材の登場は大きかったのだ。
 改めて一体感を取り戻した鹿島に残されたゲームは4試合。名古屋グランパス、京都サンガ、セレッソ大阪、町田という難敵ばかりだ。優勝争いは他力本願だが、ミラクルを起こすためには全ての試合に勝つことが必要不可欠である。ここから先はまさにトーナメント戦。ある意味、鹿島というクラブにとっては得意な状況かもしれない。逆転の可能性は極めて低いが、最後まで諦めることなく、全力を注ぎ続けていくべき。それが常勝軍団復活の大きな一歩になるはずだ。
(取材・文/元川悦子)

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