サッカーは世界中で愛されているスポーツである。日本から世界へと羽ばたく選手がいる一方で、近年は世界が日本のクラブに興味を示すことも。近年、世界的な大資本が複数のクラブを保有する「マルチオーナーシップ」が流行しているが、その波が日本に到達し…
■チェルシー、ドジャーズ、レイカーズも…
NHKの過剰な報道もあり、2024年は日本中が「大谷熱(大谷フィーバー)」に冒されてしまった観がある。その大谷翔平選手が所属するアメリカ大リーグの「ロサンゼルス・ドジャーズ」が、サッカーのイングランド・プレミアリーグ「チェルシーFC」と兄弟のような関係にあるのをご存じだろうか。
チェルシーは2022年にアメリカの投資家トッド・ボーリーに約7000億円で買収されたが、彼はドジャーズやアメリカ・バスケットボールの「ロサンゼルス・レイカーズ」などの共同オーナーになっているのだ。もちろん、大谷選手がチェルシーに移籍するわけではないが…。ボーリーは、今年6月にはフランス・リーグ1の「RCストラスブール」も買収し、サッカー界での事業を広げている。
さて、日本では、NTTが主要株主であったJリーグの大宮アルディージャが、9月に「レッドブル・グループ」に買収されたことが話題になっている。今季J3リーグで戦っていた大宮だが、圧倒的な強さで10月に早々と優勝とJ2昇格を決め、さらに来季からのクラブ名称を「RB大宮アルディージャ」とすることも発表された。
「レッドブル・グループ」はオーストリアのザルツブルクに本社を置く国際企業である。エナジードリンク「レッドブル」のメーカーとして、さまざまなスポーツのスポンサーになって知名度を高め、現在では世界のエナジードリンクでは最大のシェアを誇っている。そしてシェア拡大とともにF1をはじめとしたスポーツチームやサッカーのクラブを傘下に収め、世界のスポーツ界に影響を与え始めている。
■サポーターの「大反発」を押し切って
サッカー界では、2005年にオーストリアで破産の危機にあった名門クラブ「SVオーストリア・ザルツブルク」を買収し、多額の投資をして選手をそろえ、またたく間にオーストリアを代表するクラブに育て上げた。買収にあたってクラブ名を「レッドブル・ザルツブルク」と改称、ユニフォームカラーも、伝統の紫から、エナジードリンクのイメージである赤い雄牛の赤と白に改めた。当然、サポーターからの大反発があったが、レッドブルはそれを押し切った。
2009年、レッドブルはドイツのライプツィヒ郊外にある人口1万5000人の町で活動していた「SVVマルクアンシュテット」というクラブのオーベルリーガ・ノルトエスト(ドイツ5部にあたる)の地位を買収した(マルクアンシュテット自体は、1年後に6部リーグから再出発している)。
ドイツでは企業名をクラブ名に入れることが禁止されている。そのため、レッドブルは新しいクラブの名称を「RBライプツィヒ」とした。そして「RB」はレッドブルではなく、「RasenBallsport(芝生ボール競技)」の略と説明し、登録を認められた。レッドブルの投資によってこのクラブは目覚ましい成長を見せ、わずか7年でブンデスリーガ1部に昇格、昇格1年目の2016/17シーズンではいきなり2位(優勝は当然バイエルン・ミュンヘン)となって、翌年のUEFAチャンピオンズリーグ出場を果たしたのである。
■大宮とVENTUSの株式「100%取得」
ドイツでのクラブ買収に先立って、2006年には、アメリカMLSの「ニューヨーク/ニュージャージー・メトロスターズ」を買収、「ニューヨーク・レッドブルズ」と改称し、ここでもユニフォームカラーを変えた。
2007年にはブラジルで「レッドブル・ブラジル」を設立したがうまくいかず、2020年に「アトレチコ・ブラガンチーノ」を買収し、クラブ名を「レッドブル・ブラガンチーノ」に改称するとともに、ザルツブルクと同様、クラブエンブレムやユニフォームカラーを変更した。
現在、田中碧選手が在籍するイングランド・チャンピオンシップ(2部にあたる)の「リーズ・ユナイテッド」は、今季からユニフォームの胸にレッドブルのマークをつけているが、株式の取得割合が低いため、ユニフォーム・スポンサーにとどまっている。
そして今年8月、「大宮アルディージャ」とともにWEリーグの「大宮アルディージャVENTUS」の株式を、100%「レッドブル」が取得したことが発表された。報道によれば買収金額はわずか3億円。「純資産」から計算された額というが、大宮地域でのサポーター層の厚さや熱意などの「無形」の資産を計算に入れていないのは、どうしたことなのだろう。
ともあれ、新名称「RB大宮アルディージャ」の「RB」は、ライプツィヒの場合と同様、「芝生ボール競技」と説明されている。クラブカラーやエンブレム、マスコットの変更は10月末時点では発表されていないが、今後どうなるか―。