ルヴァンカップ準決勝で川崎フロンターレを下して決勝へ駒を進めたアルビレックス新潟 photo by Yamazoe Toshio アルビレックス新潟がクラブ史上初となる、ルヴァンカップ決勝進出を果たした。それは同時に、クラブ史上初となるタイ…


ルヴァンカップ準決勝で川崎フロンターレを下して決勝へ駒を進めたアルビレックス新潟

 photo by Yamazoe Toshio

 アルビレックス新潟がクラブ史上初となる、ルヴァンカップ決勝進出を果たした。それは同時に、クラブ史上初となるタイトル獲得への王手でもある。

 J2の"オリジナル10"である新潟が、初めてJ1に昇格したのは2004年シーズンのこと。以来21年の間には、再びJ2へ逆戻りとなり、雌伏の時を過ごすこともあったが、J1通算16年目のシーズンで臨む初のタイトルマッチは、クラブにとって歴史的一戦と呼んでもいいのだろう。

 もちろん、現在のチームに、21年前のJ1初昇格当時を知る現役選手はいない。当時20歳だった選手でも41歳になっているのだから、すっかり顔ぶれが入れ替わるのも当たり前のことだろう。

 しかし、オレンジのユニフォームを身にまとう現役選手のなかにも、貴重な"目撃者"は存在する。

「僕は小学生でしたけど、まだ(新潟は)J2で、それこそここ(デンカビッグスワンスタジアム)じゃなくて新潟市陸上競技場で(ホームゲームを)やっていて......。そこから2002年にワールドカップが開催されて、なんかこう、新潟のサッカー熱が高まっていくのを感じていました」

 そう振り返るのは、ジュニアユースから新潟のアカデミーで育ち、現在も新潟のDFとしてプレーする早川史哉である。

 2003年にJ1昇格が決まった試合もスタジアムで見ていたという当時9歳のサッカー少年は、「はっきりとは覚えてないんですけど、本当に人がいっぱいいるなかで見ていた記憶はあります」。

 それどころか、「その前の何年か、ギリギリで(J1に)上がれず、悔しい思いをしているのも見ていた」という早川は、「そういう歴史のなかで、反骨心じゃないですけど、何かそういうものが新潟のサッカーにはきっとあると、僕は思っている」と言い、こう続ける。

「サッカー不毛の地って言われていた新潟で、そこからいろんな人たちが一個一個歴史を積み重ねてきてくれたからこそ、今こうやって僕たちにチャンスがあるわけで。そこに対して、やっぱり新潟出身の選手として、本当に自分の持っている力というか、できるものを全部出しきりたいなっていうのはあります」

 今季ルヴァンカップで新潟が見せた快進撃は、痛快なものだった。

 準々決勝ではJ1リーグで首位を走っていた町田ゼルビアを1勝1敗ながら2戦合計スコア5-2で下すと、準決勝は川崎フロンターレに2連勝。それも2戦合計スコアで6-1と圧倒した。初の決勝進出とはいえ、堂々たる勝ち上がりである。

 過去J1リーグでの最高順位が6位の新潟は、天皇杯でも決勝進出の経験はなく、つまり、これに勝てば優勝という試合に臨むこと自体が初めてとなる。

 新潟がルヴァンカップで決勝進出を決めて以降、上越新幹線の臨時便や新潟発のバスツアーが発売からほどなく満席になったなど、景気のいいニュースが次々に伝わってくるのも不思議なことではないのだろう。早川が語る。

「ルヴァンの決勝で、クラブとしての新しい歴史をまた塗り替えられるというか、"星"をつけられるチャンスがあるのは本当にうれしいことなので、みんなで手にしたい。いろんな人が積み重ねてくれてきた歴史の上に、また新たなページを記したいなっていう思いはあります」

 ただしその一方で、ようやくたどりついた晴れの舞台も、新潟には多少なりとも集中しにくい事情があるのは確かである。

 というのも、新潟は終盤戦を迎えているJ1リーグでは16位に沈んでおり、J2降格圏となる18位とは勝ち点5差。ルヴァンカップ決勝前最後の試合となったJ1第35節でも東京ヴェルディに0-2の完敗を喫したのをはじめ、最近6試合で勝利なし(5敗1分け)と、厳しい状況が続いているからだ。

 いかにクラブ史上初のタイトルを獲得しようと、同じシーズンでJ2に降格してしまったのでは、その価値は半減してしまいかねない。それ以前に、何よりリーグ戦の不安に支配され、せっかくの大舞台に集中できなくなってしまったのではもったいない。

 だからこそ、早川は「僕たちも、もちろん(気持ちは)高まってはいますけど、今のこのリーグ戦は状況的になかなか難しいとも思っているんで、気持ちの折り合い次第で、その(ルヴァンカップ決勝の)当日はすごく変わってくる部分はあるなと思う」と言い、こう続ける。

「本当にポジティブなエネルギーを最後まで維持できるかっていうのが、もしかしたら大切な部分になってくるのかな、と。そこをしっかりチーム一丸となってやりたい。このチャンスに全部の力を出したいなって思います」

 新潟にとって初のJ1昇格から20周年の今季、はたしてどんなエンディングが待っているのか。

 ルヴァンカップ初制覇を果たし、その勢いで残りのJ1リーグも一気に勝ちきる――。それが成し遂げられれば理想的な結末である。