星野伸之が語る今季と今後のオリックス 前編 今季の最終戦の後、退任を表明したオリックスの中嶋聡監督。長らくオリックスのエースとして活躍し、現役時代には中嶋監督と長年バッテリーを組むなど苦楽を共にした星野伸之氏に、今回の退任や今季チームが低迷…
星野伸之が語る今季と今後のオリックス 前編
今季の最終戦の後、退任を表明したオリックスの中嶋聡監督。長らくオリックスのエースとして活躍し、現役時代には中嶋監督と長年バッテリーを組むなど苦楽を共にした星野伸之氏に、今回の退任や今季チームが低迷した理由について語ってもらった。
今季限りでの退任を発表したオリックスの中嶋聡監督 photo by Sankei Visual
【中嶋監督が退任時、珍しく苦言を発した理由】
――中嶋聡監督が今季限りで退任と知った時の、率直な感想をお聞かせください。
星野伸之(以下:星野) 続けるものだと思っていましたから、聞いたときは「まさか......」という感じでしたね。今季は非常に苦労していましたし、リーグ4連覇を期待されたプレッシャーもあったと思います。「山本由伸(ロサンゼルス・ドジャース)や山崎福也(日本ハム)が移籍でいなくなったから」というのも、理由にならないと思っていたはずですしね。
――退任の理由として、チーム内に悪い意味での "慣れ"が生じていたことが報道されました。中嶋監督は攻守交代時や走塁の面での"緩み"を指摘されていましたね。
星野 それがすべてではないと思いますけどね。ただ、普段は報道陣に対してそういうことを言わない監督でしたから、中嶋監督が感じていた今季の一番悪い部分だったんでしょう。最低限のことをさせられなかった、という思いがあるのかもしれません。
――星野さんが現役時代のオリックスもしばらく強い時期がありましたが、チームが強くなると気の緩みはどこかで生じてしまうものですか?
星野 普通は自信になっていくものだと思うんですけど。僕がいた頃は2連覇止まりでしたが、チームには3連覇できそうな雰囲気はあったんです。仰木彬監督がレギュラーの世代交代を試みていた時期でしたが、うまくいかなかったのかなと。
今季のオリックスでいえば、昨季にダントツでリーグ優勝(2位のロッテに15.5ゲーム差)したことがひょっとしたら緩みにつながったのかもしれません。たとえば「由伸がいなくても大丈夫」という危機感が欠けたような部分がどこかにあったり......あくまで、僕の憶測ですけどね。
【試合に勝つために必要な"顔ぶれ"】
――星野さんは、中嶋監督が指揮を執られている間に顔を合わせることもあったと思いますが、印象に残っているお話などはありますか?
星野 ここ4年間で、2回程度しか会っていないんですよ。それでも印象的だったのは、若手を起用する際のポイントについてです。ファームから「この選手が今こんな感じで」などと報告を受け、「今が使い時かな」と頭に置いていておくなど、起用のタイミングは常に見はからっていると。3連覇している時は、そういった選手起用がことごとくハマりましたからね。
特に最後まで混戦だったシーズン(2021年、2022年)はファームから上がってきたばかりの選手の起用が勝負所で効いて、大事な1勝を手にしていきました。そのあたりの見極めはすごかったですね。
――今季はいろいろな部分で歯車が合わなかった?
星野 頓宮裕真や杉本裕太郎ら、主軸として期待していた選手の不振も響きました。頓宮は昨季に首位打者を獲って、今季はその自信をベースにさらに成績を伸ばせる可能性もあったと思うのですが、なかなかうまくいかなかった。
実績のあるバッターが不振で若手にチャンスを与える機会が多く、それはそれで悪いことではないのですが、試合に勝っていく上で"顔ぶれ"というのは非常に大事だとあらためて感じました。実績のある選手たちがオーダーにどっしりといてくれると相手にとって脅威なわけですから。
――今季はチーム打率、本塁打、得点がリーグ5位と低迷。星野さんはシーズン前、山本投手らが抜けたピッチャー陣を打線でカバーすることも期待されていました。
星野 今年、特に感じたのは「相手ピッチャーに球数を投げさせられていない」ということ。3連覇していた時は点数が取れないなりに球数を投げさせることができていて、疲労がたまってきた試合後半にワンチャンスを活かして逆転する試合も多かったんです。
とにかく点が取れませんでしたね。宮城大弥は防御率1点台(1.91)でしたが、20試合に登板して7勝(9敗)。やるべきことをやって結果につながらなかったのはすごく厳しい。ローテーションで回るピッチャーのなかで、打線の援護がなかなかもらえないピッチャーってシーズンにひとりぐらいは出てくるものなんですが、それが大黒柱の宮城というのが、投打の歯車が噛み合わなかった今季を物語っています。
【星野氏から見た中嶋監督の信念】
――パ・リーグでの3連覇は久しぶりで、その前の3連覇(以上)となると、森祇晶監督が率いた黄金時代の西武(1990~1994年に5連覇)までさかのぼります。星野さんから見た中嶋監督のすごさとは?
星野 今季は点が取れず勝ててなかったので、采配の面でもっと動くかなと思ったのですが、そんなに動かなかった。動きそうで動かなかった。つまり、試合の進め方に対する信念は絶対に曲げないなと。ピッチャーを2連投以上させないこともそうですしね。
それは他チームにも影響を与えた選手起用だったと思います。リリーフはこういうふうにしても使っていけるんだと。ブルペンで待機しているピッチャーたちは「投げても2連投まで」とわかっているので、2試合に集中して力を注ぎ込めます。肩の作り方や気持ちの持っていき方がすごくやりやすかったんじゃないでしょうか。
――中嶋監督は球団に大きな財産を残しましたね。
星野 オリックスの歴史をまた新しく作り上げたわけですし、功績は計り知れません。バトンを受けた岸田護新監督が、中嶋監督が築き上げてきたものを受け継ぎつつ、そのなかでどのように自分のカラーを出していくか、楽しみですね。
――中嶋監督が退任されたことが、選手たちに対する強烈なメッセージになったと思いますが、いかがですか?
星野 公に発信したということは、ファンの方々に対する「しっかり見守ってくださいね」というメッセージも込められているのかなと。当然、選手個々には中嶋監督の思いが伝わったと思いますし、来季以降の巻き返しを期待しています。
(後編:新監督の岸田護に期待「自分のカラーを打ち出していってほしい」>>)
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。