5位に10ゲーム以上の差をつけられ、3年ぶりのパ・リーグ最下位でシーズンを終えた西武。西口文也新監督が就任し、鳥越裕介氏がヘッドコーチに、仁志敏久氏が野手チーフ兼打撃コーチに就任するなど、来季以降の巻き返しに向けて動き始めている。 198…

 5位に10ゲーム以上の差をつけられ、3年ぶりのパ・リーグ最下位でシーズンを終えた西武。西口文也新監督が就任し、鳥越裕介氏がヘッドコーチに、仁志敏久氏が野手チーフ兼打撃コーチに就任するなど、来季以降の巻き返しに向けて動き始めている。

 1980年代中盤~1990年代中盤の西武黄金時代、長らくチームリーダーとして常勝軍団を牽引した石毛宏典氏に、今季を振り返ってもらいつつ、今後の課題などを聞いた。


西武の新監督に就任した西口文也氏

 photo by Sankei Visual

【選手が伸びるための起用法とは?】

――今季のチーム打率.212はリーグワースト。西口文也新監督が就任会見で言われていたように、やはり打てなかったことが低迷した大きな要因と考えられます。

石毛宏典(以下:石毛) ここ数年、どんぐりの背比べのような感じでレギュラーが固定化できていないことも大きいと思いますよ。

――伸び悩んでいる選手たちが成長していくためには?

石毛 たとえば日本ハムの万波中正。4番を打たせたり、1番を打たせたり、時には下位を打たせたりしていますよね。何番を打たせようが起用を続けたことで彼は成長したと思うんです。西武の、特に外野のレギュラーが固定できていないのは、起用し続けていないことも一因ではないでしょうか。

 個々に一長一短があり、現段階で比べたらセールスポイントがどんぐりの背比べなのかもしれません。そのせいか、その時々で調子がいい選手を使っているようですが、「この選手を育てる」と決めたら腹をくくってしばらく使い続けてみたらどうなのかと。

――調子の良し悪しに関わらず、ある程度は出場機会を与えるべき?

石毛 期間は3カ月でもいいし、シーズンの前半、後半だけでもいい。でも、調子のよし悪しを基準にしていたら、使っても1、2試合ぐらいしかもたないわけですよね。とっかえひっかえいろいろな選手を起用してみても、結局どっちつかずで終わってしまうんです。

 そこを見極めるのが一軍、二軍のコーチの役目ですし、「彼を使い続けたらこうなるんじゃないか」という眼力が求められます。その点、万波は「使い続けたらホームラン20本は打つんじゃないの」という可能性を感じさせてくれるわけです。

【今後に期待の野手2人】

――石毛さんは、かねてから佐藤龍世選手のバッティングを評価されていますね。目にとまったのはどんな部分ですか?

石毛 トップの位置がよくて、バットの出し方がいい。身長は高くない(174cm)ですし、体もあまり大きいほうではないのですが、バットにうまく力を伝える技術があります。使い続ければ20本ぐらい打つ可能性はあると思いますし、そういう期待感を持てるバッターだと思います。

 DeNAの牧秀悟もそれほど体は大きくない(178cm)と思います。それでも打ち方がいいから、あれだけの成績が残せる。バットにうまく力を伝えられる選手には可能性を感じますよね。持論を言えば、パワーはどうでもいいと思っていて、やはり一番大切なのはバットの使い方でありタイミングです。

――ほかに、西武で使い続けたほうがいいと思われる選手はいますか?

石毛 西川愛也です。外野の守備で安定感が出てきたという話は聞いていましたが、足がありますし、落下地点に到達するのが早い。課題はバッティングですね。トップの位置はいいと思いますが、振り出しからインパクトにかけて、グリップがちょっと体の右側に下がってくる傾向がある。

 ここを改善し、大谷翔平のように下から上へ振り上げていけば、可能性を感じるバッターなんですけどね。チーム事情を考えれば、打てばレギュラーが近いという状況ですからチャンスをつかんでほしいですね。

――石毛さんは常々、「野球は技術のスポーツだ」と言われていますね。

石毛 そうですね。なので、コーチ陣が確固たる理論を持って指導できることが前提条件です。誰も10割を打てるわけではないですし、「こうすれば完ぺきに打てる」なんてことは言えませんが、コーチがしっかりと技術を伝えながら選手と議論をしていくべきです。

【同じ過ちを繰り返さないために】

―― 一方のピッチャー陣は、髙橋光成投手が勝てなかった(0勝11敗)ことが大きな誤算でした。前年まで3年連続で二桁勝っていた投手が1勝もできずに低迷した要因として何が考えられますか?

石毛 精神的なものは二の次、三の次です。勝てなかったというよりも、打てなかったというほうが適切かもしれません。やはりチームで戦うわけなので、勝ち星に関しては髙橋だけの責任ではないと思います。それより気になるのは、彼が肉体改造して体を大きくしたことですね。

 筋トレをして食事の管理もしているのでしょうが、ボテッとしてしまって、ちょっと大きくしすぎたんじゃないかなと。その分、体のキレが鈍ってしまった部分もあるんじゃないかと思うんです。本来は二桁勝利を計算できるピッチャーですから、今季の反省を生かして復調してほしいですね。

――成績不振の責任をとる形で、渡辺久信GМ兼監督代行と、5月末から休養中だった松井稼頭央監督は、今季限りでの退団が決まりました。

石毛 プロの世界は結果がすべてですし、責任をとらなければいけない結果だったということですね。勝てなかった要因として、勝つための戦力を現場に与えられなかったのか、監督やコーチの能力が足りなかったのか、さまざまな要因があると思うのですが、そのあたりは組閣を新しくして終わりではなく、今後、同じ過ちを繰り返さないように球団がしっかり検証しなければいけないと思います。

――渡辺久信GМ兼監督は、選手時代から長年にわたって西武のために尽力されてきました。石毛さんとは現役時代に黄金時代を築き、苦楽を共にされた仲でもありますね。

石毛 選手としても監督としてもリーグ優勝、日本一。西武のために本当に頑張ってくれたと思います。「長い間、ご苦労さまでした」と伝えたいですね。

【プロフィール】
石毛宏典(いしげ・ひろみち)

1956年 9月22日生まれ、千葉県出身。駒澤大学、プリンスホテルを経て1980年ドラフト1位で西武に入団。黄金時代のチームリーダーとして活躍する。1994年にFA権を行使してダイエーに移籍。1996年限りで引退し、ダイエーの2軍監督、オリックスの監督を歴任する。2004年には独立リーグの四国アイランドリーグを創設。同リーグコミッショナーを経て、2008年より四国・九州アイランド リーグの「愛媛マンダリンパイレーツ」のシニア・チームアドバイザーを務めた。そのほか、指導者やプロ野球解説者など幅広く活躍している。