箱根駅伝予選会をトップ通過し、本戦出場を決めた立教大学 photo by スポニチ/アフロ「今シーズンは箱根のシード権を獲るのが目標なので、その通過点として、予選会をトップ通過できてよかったなと思います」 キャプテンの安藤圭佑(4年)は、ホ…


箱根駅伝予選会をトップ通過し、本戦出場を決めた立教大学

 photo by スポニチ/アフロ

「今シーズンは箱根のシード権を獲るのが目標なので、その通過点として、予選会をトップ通過できてよかったなと思います」

 キャプテンの安藤圭佑(4年)は、ホッとした表情で、そう語った。

「全日本大学駅伝出場」

「箱根駅伝シード権獲得」

 今季の立教大はそのふたつを大きな目標として掲げ、それを達成するために練習に取り組んできた。

 一昨年の箱根駅伝は55年ぶりの出場を決めたが出るだけに終わり、総合18位と結果を残すことができなかった。昨年の箱根駅伝は2年連続での出場だったが、総合14位に終わった。ただ一度も繰り上げスタートにならず、一本の襷を繋ぎ続けることができた。今年は出場を継続するのはもちろん、10位内を狙えるレベルまでにチーム力を押し上げていくことを念頭にふたつの目標を立てた。

 その目標を達成するべく、チームを引っ張ってきたのがキャプテンの安藤だ。

 100回大会の箱根が終わったあと、高校時代にキャプテンだった経験を活かして「キャプテンをやりたい」と挙手し、数名候補がいたなかで選ばれた。その頃、昨年10月に上野裕一郎監督が解任されて以来、監督が不在のままだった。ふたつの目標に向けて、どんな練習をして、どうアプローチしていけばいいのか、なかなか定まらないなか、安藤は前監督の練習をベースにメニューを作った。全員の練習が終わるまで安藤はグラウンドから離れなかった。

「監督がいない期間は監督の代わりとはまではいかないですけど、監督がしていたことと同じようなことをできたらいいなって思っていました。大したことはしていないんですけど、学生の意見をミーティングで聞いたり、練習メニューを作ったりしていました。自分のことは二の次にしていたせいか、いろんな疲れを感じて、春先は調子がなかなか上がらなかったんです。でも、監督が来て、『自分の競技に集中していいよ』と声をかけていただいてからは練習に集中できて、徐々に走れるようになってきました」

 今年の4月、髙林祐介が監督に就任した。

 髙林監督は、3冠を獲得した世代の駒澤大学をコーチした経験と、大八木弘明監督(現総監督)からの学びで得たもの存分に生かすべく、指導を始めた。最初に選手の実力を把握すべく5000mを走る選手の状態を見た。前半はいい走りをするも、後半に失速する選手が続出した。選手の強化のポイントを後半のスタミナ作りに置き、練習メニューに反映させた。

 強化のなかで、積極的に取り組んだのが距離走だった。

 ただ、一概に距離を増やすことはしなかった。選手の力に応じて、個別に走る量を調整していった。

「監督は自分たちに合った形で練習量や距離を調整してくれていました。わりとスピードが得意な選手が多いので、そこにうまく距離を合わせていく形で進めてくださったことで故障者が減り、しっかりと練習を積めるようになったんです」

 安藤はそう語る。

 スピード系が多いのは、前任者のスカウティングのポイントであり、練習もスピード強化のメニューが多かった。その能力が高いことを把握した髙林監督は、距離走をかみ合わせることで選手たちのパフォーマンスを向上させた。

 その最初の結果が全日本大学駅伝予選会の突破だった。

 安藤は、短期間ながらいろんなものが噛み合ってきたと感じた。

「監督が来られて、走力がかなり上がりました。みんな、練習を消化していくごとに自信をつけていくことができましたし、それが全日本の予選会にも出たかなと思います。ここまでみんなが順調に伸びてこられたのは、もちろん監督の指導が大きいですが、上野(裕一郎・前監督)さんがいろいろやってくれたことも今の強さに繋がっています。僕はこの4年間があっての予選会トップ通過だと思っています」

 今回の箱根駅伝の予選会は4年間で「強くなった」ところを見せつけた。順調な走りだしを見せ、10キロ、15キロ、17.4キロと各観測地点を1位で通過した。継続してトップを走ることは力がないとできない。立教大の力強い走りをみれば、これまでのベースに上積みした髙林監督の指導で選手がさらにスケールアップしているのが見て取れた。

 安藤は言う。

「予選会の目標は3位内でした。そのくらいじゃないとシード権は獲れないと思ったのでそこをひとつの目安にしていました。実際はレースを前半からいい感じで進められて、後半もペースを維持できました。昨年の予選会で自分は後半落ちてしまったのですが、今回は粘ることができました。自分を含め、みんな距離を増やしてきたことで、後半も維持できる走力がついてきたなと思いますし、ベースとして選手個々の力がすごく高いなというのをあらためて思いました」

 立教大は選手の個人記録でトップが馬場賢人(3年)で15位。林虎大朗(4年)が25位、國安広人(3年)が30位、安藤が43位と50番内に4人が入り、100番内も8人と出走した選手が安定して力を発揮した。

 この結果に髙林監督も笑顔を見せた。

「3、4年生を含めて、全員が最後まで崩れずにいけたのがトップ通過に繋がりました。私自身初めての予選会だったので、ホッとしました」

 安藤はチームの成長をしみじみと感じたという。

「僕が入学してきた時は箱根を目指すと言っていたけど、正直、どうなるんだろうっていう不安しかなかったです。最初の予選会は16番に終わって本戦に出場できなくて10位内のチームとの差を感じました。でも、2年目に6番、3年目も6番、そして今回1番で行けたというのは驚きでもありますし、チーム全体の成長を感じました」

 キャプテンになった頃は、ここまでの成長を想像できなかっただろう。監督不在で、今後についていろんな不安を抱えていた。その時、支えになってくれたのが前キャプテンの宮沢徹だった。昨年、波乱に満ちたなか、キャプテンとして難しい舵取りを任されたが、チームの先頭に立ち、監督不在の予選会を6位で通過させた。

 最終的に箱根のエントリーメンバーからは外れたが、それでも腐らず、後方支援に尽力した。おそらく宮澤がいなければ、あそこまで立教大は一枚岩になって戦うことができなかっただろう。その姿を見てきただけに、安藤は宮沢を理想的なキャプテンの在り方として見ていた。

「宮沢さんには本当にお世話になりました。自分がキャプテンになった時は監督不在で難しい時期だったんですが、そういう状況を経験してきた宮沢さんからは常日頃から声をかけていただき、いろいろなお話をさせていただきました。その後も『困ったことがあったらなんでも相談して』と言ってくださいましたし、目立たないところでいろいろやってくださって、本当に感謝しかありません」

 安藤は箱根で宮沢たちが勝ち取れなかったシード権を獲得して恩を返し、次の代に繋ぎたいと考えている。

 前々回の箱根、安藤は10区15位、前回の箱根は9区18位だったが、シード権を獲るべく今年はどの区間を狙っているのだろうか。

「自分は9区も10区も結果が出ていないので、どちらかの区間でリベンジをして区間一桁を狙いたいと思っています。そうしてシード権獲得に貢献して、みんなで笑わって終わりたいですね」

 髙林監督は、箱根本戦について楽観視はしていないが、やる気がみなぎっている。

「今年は箱根のシード権を獲るんだと目標を掲げてきましたが、予選会を突破したことでそれが現実的な目標になりました。シード権を獲るといっても箱根に出場しないと挑戦できないわけで、予選会は何が起こるかわからないですからね。いろんな不安を抱えたなかで、今回トップ通過できたので、箱根では安心してシード権を目標にチャレンジしたいと思います」

 予選会では他校をあっと言わせたが、101回大会の箱根駅伝本戦で立教大はどこまでシード校に喰らいついていけるのだろうか。安藤にとっては総決算となるが、予選会でのトップ通過と同じような強さと驚きを見せてくれるに違いない。