「仕留めてこい」 ピッチ横で、2人の選手が鬼木達監督から言葉をかけられた。スコアでは1点を追いかけている立場である。それ…

「仕留めてこい」

 ピッチ横で、2人の選手が鬼木達監督から言葉をかけられた。スコアでは1点を追いかけている立場である。それでも、上海申花には徐々に隙が見えていた。だんだんとボールも持てるようになってきている。開始5分で崩れたゲームプランを、選手も監督もなんとか勝利に結びつけようとしていた――。

 川崎フロンターレが中国・上海に乗り込んで迎えたACLE第3戦は、開始直後から数的不利で戦った。開始5分でマルシーニョが退場したからで、鬼木達監督は「ギリギリまで我慢しながら」という表現を用いて、反撃に出た。
 その狼煙の一つが、後半19分の河原創の投入だった。そしてこれを機に、川崎は“らしい”ボール回しで保持する時間を作り、相手守備を攻略する糸口を探す。そして、同24分に瀬川祐輔とエリソンを投入。さらに同34分に小林悠遠野大弥をピッチに送り出す。
 2回に分けた交代策についての意図を指揮官に聞けば、「一気に行く選択もありましたけれども、少しまだ時間的に、もう少ししっかりと自分たちの攻撃でも守備でもというところで、最初に河原を入れました。その後、最終的には(遠野)大弥と悠で仕留めに行きました」と説明する。

■「アドレナリンが出ていた」

 その小林悠は、試合中にウォーミングアップしながらスタジアムの巨大モニターで戦況を分析していた。何を感じていたのか聞いてみれば、「1人少ない中でパワーが必要だったので最初にエリソンだなと思ってましたし、最後の時間で投入されるなって予想はしてたので、試合を見ながらしっかり準備することと、入ったらゴールに絡むように狙っていました」と話す。
 苦しい状況でまずはパワーを注入して押し返し、そのうえで最後の一撃を放つ。長年、鬼木達監督とやってきたベテランストライカーは、その意図を理解していた。
 ピッチでのプレー時間は11分。その間に、2つのポジションでプレーした。4-4-1の左サイドと、4-3-2の2トップの位置においてだ。
「(最初は)左サイドで入って、逆サイドからのクロスとかに入っていくイメージだったんですけど、そういうシーンもあんまりなくて、最後ツートップになってからは少し絡めたので、左で入ったときももっと中に入っていけばよかった」
 そう悔やんだが、ピッチの中でギラギラした気持ちはあふれ出ていた。高い位置で前進しようとするプレーをファールで止められると、大きな声を出して怒りを露わにした。
 珍しい場面だっただけに振り返ってもらうと、「時間がなかったので早くやりたかったですし、点が欲しかったので……」と唇をかむ。
 さらに、「すごい集中していて、アドレナリンが出ていたので、ああいうふうになりましたけど……」と続けるも、再び間を置く。そして、うつむいた顔を上に向けて、「やっぱり決めたかったですね。短い時間でしたけど、やっぱり決めたかったなって」と絞り出した。声は小さかったが、その目はピッチにいるかのように、ギラギラとしていた。

丸山祐市「最低限、引き分けぐらいには」

 川崎フロンターレはこれでACLEの成績を1勝2敗に。グループステージ突破を目指す中で、3戦目ではあるが負け越すものとなっている。
 それでも選手は次なる勝利を見据えている。最終ラインで奮闘した丸山祐市は、「最低限、引き分けぐらいには持っていきたかったなっていう本音があります」としながらも、「もう終わってしまったことなので、次の試合で勝っていくしか考えていない。次のステージに進むために、切り替えてやっていくしかない」と前を向く。
 海を渡った敵地で苦しい戦いを糧にできるかどうか。鬼木フロンターレが、このまま終わるわけにはいかない。
(取材・文/中地拓也)

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