ドラフト前になると、「右の大砲がほしい」や「右の大砲がいない」という願望や嘆きが、あちこちから聞こえてくる。 以前は「…
ドラフト前になると、「右の大砲がほしい」や「右の大砲がいない」という願望や嘆きが、あちこちから聞こえてくる。
以前は「左腕がほしい」「使えるサウスポーがいない」というのが、スカウトたちの決まり文句だったが、そうした声はいくらか小さくなったものの、その代わりに「右の大砲」の需要が高まっている。
もともと、右の大砲はいた。いるにはいたのだが、彼にも脚力や高い守備力を求めるものだから"ドラフト対象外"となり、結果、プロ野球界に右の大砲が不足するという事態に陥った。

富士大の長距離砲・渡邉悠斗
photo by Sankei Visual
【3年春から不動の4番として活躍】
今年のドラフトなら、青山学院大の西川史礁(外野手)がその筆頭候補なのだろうが、「では2番手は?」となった時に、なかなか名前が出てこない。
大阪商業大の渡部聖弥(外野手)、青山学院大の佐々木泰(三塁手)、JR東日本東北の大西蓮(一塁手)......ポチポチ名前は挙がっても、プロで「右の大砲」となるとちょっと違う。
「じゃあ、いないのか......」となりそうな時に、東北の大学球界に「山﨑武司」を見つけた。山﨑は中日、オリックス、楽天と27年のプロ野球生活で、通算403本のアーチを放った屈強な「和製大砲」である。
「高校、大学の7年間で一度もケガをしたことがないんです」
ボソッと、そう当たり前のような顔で語ったのが、「東北の山﨑武司」こと富士大の渡邉悠斗(一塁手/181センチ・87キロ/右投右打)だ。
いまリーグ戦で一塁を守っているからそう表記したが、三塁もできて、堀越高校時代はレギュラー捕手としてマスクを被っていた。
「疲れとか、痛みとか、あんまり感じたことがなくて、記憶にあるのは、大学2年の時にコロナにかかって、その復帰の頃にちょっと肩が張ったぐらいで......」
ケガや故障で離脱する選手が増えているなか、頼りになるのはいつも元気にグラウンドにやって来て、野球に取り組むヤツだ。そういう意味で、渡邉は正真正銘の屈強な心身の持ち主である。
高校時代は強肩・強打の捕手としてならし、無死一塁でも送りバントのサインは一切出ず、追い込まれてから進塁打で戻ってくると、「よくやった」どころか、「ホームランを狙わんかい!」と怒られていたという。
富士大に進んで、3年春のリーグ戦から4番に定着すると、猛烈なスイングスピードから長打を連発。
3年秋には首位打者、ベストナインを獲得。今年の春は4本塁打で本塁打王、さらに打点王、ベストナインに輝いた。この秋のリーグ戦でも二塁打を量産し、昨春以来のリーグ戦優勝の原動力となった。
「打球が飛ぶようになったきっかけって、とくに『これ!』っていうのもなかったんですけど......」
飾り気がなく、実直......なんとも言えない大物感が漂う。
「去年の春の沖縄キャンプからオープン戦にかけて、完全なすり足だったタイミングの取り方を、軽く左足を上げてからですかねぇ。あと、スイング軌道をうしろから前に大きく振り抜くスタイルに直し、それが体に馴染んできたんだと思うんです」
とにかく打球のスピードがとんでもない。あっという間に、ライナーで外野フェンスを直撃、もしくは超えていく。
「長打はレフト方向が多くなっているんですけど、自分としては右中間の二塁打、三塁打が好調のバロメーターなんです。やっぱり、バッターとして売り出したいんで、プロで働くにはセンターから右中間へ長打が打てないと厳しいと思うんです」
必要なことだけを、訥々と話す。
「誘い球っていうんですか、際どいボールに手を出してしまうことがあるんで......。自分としてはヒットや長打になりそうなボールだけを打つ努力をしているんですが、なかなか難しいです」
【どんな環境でもコンスタントに結果を出す】
"バットマン"という認識があるのか、話題はどうしてもバッティングのことに偏りがちだが、守備力もなかなかのものだと見ている。
扱いが難しいファーストミットを、地面を滑らせるようにしてゴロを捕球し、直後のスナップスローに移る動きが柔軟で、右腕が送球方向へしなやかに伸びる。膝、足首も弾力性十分で、これなら三塁手としてもやっていけるし、捕手での二塁送球も低い姿勢のままフィニッシュまで持っていける。
「50m走は6秒5、遠投は120mぐらいです......はい、ホームベースから投げて、外野スタンドに入りますから。握力はたぶん55キロくらいですけど、ベンチプレスが125キロ、背筋力は280キロぐらいだったかな」
ものすごい数値を、淡々と記録していく。
「3年春からバッティングに波がなくなって、すごく安定してきました。右投手、左投手、オーバーハンド、サイドハンド、春、秋......いつもコンスタントに打ってくれます」
就任4年目の安田慎太郎監督は、辛口一辺倒ではなく、是々非々を明確に話してくれる新進気鋭の指導者である。
「どれだけ追い込んだ練習をしても、試合が続いても、悠斗は疲れて(調子が)落ちる......ってことがない。夏のオープン戦で、ファーストでひと試合使ったあとに、2試合目はキャッチャーでフル出場してもケロッとしていますから」
安田監督があきれるように笑いながら語る。
「ケガをしない体、疲れに強い体......リーグ戦期間中、気温がどんどん高くなっていくなかで、悠斗みたいな選手はほんとに頼りになるし、ありがたい。野球のほうも間違いなく伸びていますけど、最大の長所はやっぱりあの屈強さですね。最近はプロの練習についていけないルーキーが多いという話を聞いたことがありますけど、悠斗だけはそういう心配がないですね」
そんな渡邉の進路は、プロ一本。"育成"でも厭わずの姿勢を示している。
今年、富士大はチームメイト7人がプロ志望届を提出した。この秋のリーグ戦で優勝の立役者となり、MVPを獲得した左腕エース・佐藤柳之介の1位指名がささやかれているが、その次に名前が挙がるのは、はたして──。今秋、本塁打王と盗塁王に輝いた麦谷祐介か、それとも屈強なハードパンチャー・渡邉なのか。運命の瞬間が、刻一刻と迫っている。