今年のワールドシリーズはジャッジ(左)、大谷という最高の役者同士の対決にもなる photo by Getty Imagesドジャース・大谷翔平vs.ヤンキース・ジャッジ 前編メジャーリーグにおいて、これ以上ない対戦カードとなった今年のワール…
今年のワールドシリーズはジャッジ(左)、大谷という最高の役者同士の対決にもなる
photo by Getty Images
ドジャース・大谷翔平vs.ヤンキース・ジャッジ 前編
メジャーリーグにおいて、これ以上ない対戦カードとなった今年のワールドシリーズ。大谷翔平とアーロン・ジャッジの両リーグMVP&本塁打王は、どのような活躍を見せるのか? 公式戦1位どおりにポストシーズンを勝ち抜いたロサンゼルス・ドジャースとニューヨーク・ヤンキースの戦いはどのような流れになるのか?
第1戦は10月25日(日本時間26日)、ドジャースタジアムから始まる。
【シーズンMVPのいる公式戦1位同士の対決は48年ぶり】
今年のワールドシリーズは、夢のような対決が実現した。両リーグで公式戦最高成績を誇るロサンゼルス・ドジャース(ナ・リーグ)とニューヨーク・ヤンキース(ア・リーグ)が、第1シードのままポストシーズンを勝ち上がり頂上決戦へ。両チームには、その年のリーグMVPが確実視され圧倒的な活躍を見せた大谷翔平とアーロン・ジャッジがいて、まさに"真の頂点"を賭けた戦いとなる。これほどの完璧なシナリオは、めったに見られない。
直近のワールドシリーズでのMVP対決は、2012年でサンフランシスコ・ジャイアンツのバスター・ポージー捕手と三冠王に輝いたデトロイト・タイガースのミゲル・カブレラ一塁手。ただし両チームとも地区優勝はしたものの、ジャイアンツは公式戦94勝68敗でナ・リーグ3番目の成績、タイガースは中地区優勝を果たしたものの88勝74敗でア・リーグ7番目の成績で、ともに10月に勢いに乗って勝ち上がった。
その前となると、1988年のドジャースのカーク・ギブソン外野手とオークランド・アスレチックスのホセ・カンセコ外野手。ア・リーグのアスレチックスは公式戦MLBトップの104勝56敗だったが、ドジャースはナ・リーグではニューヨーク・メッツに次ぐ2番目の成績で94勝67敗だった。
シーズンMVPが率いる公式戦最高成績チーム同士の対決となると、今から48年前の1976年。ジョー・モーガン二塁手のシンシナティ・レッズ(公式戦102勝60敗)とサーマン・マンソン捕手のヤンキース(同97勝62敗)。シリーズはレッズがヤンキースを圧倒し、4連勝とスイープしている。
【「夢の対決」と呼べる理由】
もっとも、こういった過去のMVP対決と比べても、大谷とジャッジの顔合せは別格だ。今のメジャーリーグで、実力・人気ともにこのふたりに匹敵する選手はいない。ジャッジはOPS(出塁率+長打率)で1.159を記録しMLB全体で1位、大谷は1.036で2位だったし、本塁打で50本の大台に乗せたのもこのふたりだけだった。さらに打点も130を超え、他を圧倒した。大谷は2023年と2024年に最もユニフォームが売れた選手であり、ジャッジも2017年から2019年までトップを独占し、今年も3位にランクイン。このふたりが人気と実力でリーグを支配していると見なしてもいい。
野手同士のこれほどのスター対決となると、1962年のジャイアンツのウィリー・メイズ対ヤンキースのミッキー・マントルまでさかのぼる必要があるのかもしれない。その年、メイズは49本塁打、データサイト『ファングラフス』のWAR(Wins Above Replacement/容易に獲得可能な代替選手=Replacementに比べて、どれだけ勝利数を上積みしたかを統計的に推計した指標)で計算すると10.5になるが、6本塁打、WAR5.3のモーリー・ウィルス(ドジャース)にMVPを奪われていた。ウィルスが104盗塁を記録し、盗塁でMLB史上初めて3ケタに達していたからだ。一方、マントルは30本塁打、OPS1.091を叩き出し、3度目のMVPに輝いた。
それでもふたりが1950年代半ばから球界の最大のスターであったことに疑いはなく、名門球団の看板選手同士のワールドシリーズ対決は特別だった。マントルのヤンキースが4勝3敗でシリーズを制している。
加えて、ドジャース対ヤンキースの対戦は、野球界最大のブランド同士の顔合わせと言っても過言ではない。アメリカを代表する2大都市、ロサンゼルスとニューヨークのチームであり、世界的にも知名度が高く、圧倒的なファンベースを誇る。
1941年から1981年の41シーズンの間にワールドシリーズで11回も対戦し、特に1978年の対戦はアメリカで4430万人の視聴者を記録、史上最多となった。81年のシリーズも4140万人が視聴し、歴代3位である。そしてそれ以降の42シーズンで、この2強が相まみえることはなかった。近年、ワールドシリーズのテレビ視聴者数は減少しており、過去22年間で最も多かったのは2004年のボストン・レッドソックス対セントルイス・カージナルスで1580万人にとどまった。MLBの人気復活を願う多くの関係者が、この夢の対決の再来を待ち望んでいたのである。
【周囲からの厳しい指摘に対する大谷とジャッジの答えは?】
果たして大谷とジャッジは、膨らむ期待のなか、最高の舞台でその実力を存分に発揮できるのか?
大谷はサンディエゴ・パドレスとの地区シリーズで打率2割、1本塁打、OPS.623と低調だったため、メッツとの優勝決定シリーズ中に「バリー・ボンズ、アレックス・ロドリゲス、ジャッジといった選手は公式戦では結果を残したが、ポストシーズンでは打てず苦しんだ。自分にプレッシャーをかけすぎていると思うか」と質問を受けた。
それに対し大谷は、こう答えている。
「どうなんですかね。そういう選手たちと自分がまず一緒かどうかわからないですし、僕は初めてのポストシーズンで、多く語ることはないですけど......。当然、相手の投手もそのチームのなかでトップクラスで、チーム自体もリーグのなかでトップクラス。それだけレベルが高い投手から安打、本塁打を勝ち取っていくのは難しい。なおかつそういう打者は、必ず一番ケア(警戒)されるポジションにいますし、難しいとは思う。
僕は今年が初めてなので、今のところは自分のやれることを精一杯やりたいなという気持ちです」
そして優勝決定シリーズでは6試合で打率.364、2本塁打、OPS1.184と盛り返して見せた。
一方でジャッジは2017年から2024年まで、1シーズンを除いて7度ポストシーズンに進出。53試合で打率.203、15本塁打、31打点、OPSは.761と結果は芳しくない。今年もここまで31打数5安打、打率.161だ。クリーブランド・ガーディアンズとのア・リーグ優勝決定シリーズでは、厳しい質問が飛んだ。
それに対して、ジャッジは次のように説明している。
「毎年公式戦の162試合をプレーし、打撃で浮き沈みを経験するなかで、よい時を維持し続けることはできないと学んだ。打つことは難しいし、ゆえにいつも謙虚にさせられる。すべての瞬間を大切にし、できることをする。
悪い結果を引きずらないことが重要。試合に負け、4打数0安打だったとしても、次の打席や次の試合に持ち越さない。逆にホームランを打っても、その瞬間は終わったことなので、次に集中する。ヤンキースタジアムでブーイングを受けたことはたくさんあるし、ここでプレーした多くのレジェンドたちもブーイングを受けた。そこは気にしない。ファンはチームが勝ち、選手が活躍するのを見たいが、私がコントロールできるのは、打席での自分の行動だけだ」
ジャッジは、ヤンキースのキャプテンだ。ちなみに前キャプテン、デレク・ジーターはポストシーズンに強いと賞賛され、7度のワールドシリーズで38試合にプレーし、打率.321、3本塁打、OPSは.832だった。ジャッジはすでにMLB史に名を残す強打者だが、もしワールドシリーズでもその実力を発揮すれば、彼の歴史的評価は一層高まり、ジーターに勝るとも劣らぬ存在となるだろう。