羽田空港にあるANAのラウンジで、筆者の隣に座るサラリーマンと思しきスーツ姿の男性2人組は、偶然にも上海出張について声…

 羽田空港にあるANAのラウンジで、筆者の隣に座るサラリーマンと思しきスーツ姿の男性2人組は、偶然にも上海出張について声を弾ませていた。

「シンガポールみたいにおいしい店がいっぱいあるんだよ」と、先輩が後輩に話す。
「1回だけ旅行で行ったことがあるんですけど、楽しみです」と、後輩は先輩に返す。
 中国屈指の大都市は、2人の気持ちを高揚させていた。仕事以外の時間はわずかかもしれないが、その心を躍らせるものがこの街にはあった。
 一方で、時を同じく上海に駆け付ける川崎フロンターレサポーターはどうだろうか。ACLE第3戦の、上海申花との一戦。勝ちたいという気持ちと、勝たせたいという気持ちがいつも以上に大きいのではないか。今回駆け付けるとされるサポーターは170人。その気持ちはそれぞれ違うだろうが、いつもと違った感情がその素地にあるはずだ。
 では、選手はどんな気持ちなのか。前日会見での小林悠は、「鬼さんの退任が決まったから頑張るというのは選手としては違う」とまずは言いきる。小林は入団以来、鬼木監督とずっとこのチームで時間を過ごしてきた関係だ。ガンバ大阪戦のあとには、涙をぬぐうような姿も見せている。
 だからこそ、「今まで通り全力を尽くすことが、自分のやれることだと思う。ただ、やれる試合が少なくなることをかみしめながら、自分の中でベストを尽くす」と、自身を振るい立たせるように言葉をつないだ。

家長昭博「いろいろありますね、長いんで」

 同じく鬼木達監督と長くやってきた一人が、家長昭博だ。鬼木体制では最も試合に出た選手であり、鬼木フロンターレを具現化してきた選手である。
 指揮官も、家長について語ることは多かった。試合前のトレーニングや、入念な準備などについて、「アキはすごい」「すごいプレッシャーも引き受けて、それを引きずらない」などと、言葉を変えてその姿勢やプレーを絶賛してきた。
 その家長に、鬼木監督と迎えるACLについて聞けば、「いい終わり方ができればいい」と短く言葉にする。
鬼木監督の下で最も試合に出た選手であるからこそ、感じることもあるのでは――
 その質問には、「いろいろありますけども、ここじゃ時間が足らないし……」と話したところで視線を投げ、「いろいろありますね、長いんで」と言葉を振り絞った。
 他方、
「どんな試合でも勝つことは常に鬼さんは強く求めてきてましたし、そこは変わらず勝負にこだわって勝点3を持って帰りたい」
 気丈にこう話したのは、橘田健人。昨年はキャプテンにも指名された選手だ。
「残りのできる試合も限られているので、少しでも多く成長したい」
 そう心情を表すと、「全部勝つ気持ちで、全勝したいと思っているので、そこは個人としてもチームとしても大事な試合になる」と力強く言い切る。
 その橘田は、「スカウティングの映像で見たりした感じでは、前線の外国人選手がパワーを持っているので気をつけたい」と話し、警戒しなければいけない相手の10番に対し、「自由にやらせたら本当に質が高いので、そこで止めれるかどうかが勝敗に大きく関わってくる」とイメージを膨らませていた。

■山田新「突破しても一緒に戦うことはできないので、本当に最後ですし……」

「メンタル的にじゃないですけど、感情的にいろいろ動いている時間ではあったので、難しさを感じますけど、体的にはうまくいけてると思います」
 試合前の気持ちをこう口にしたのは、山田新である。大学を卒業して今季がプロ2年目。昨季は出場機会も限られていたが、今季はここまで15得点。先発の座を掴みつつある。
 力強いイメージが先行する選手だが、「メンタル的に難しい……感情的に難しいいろんなことがあったので」と言葉を重ねると、「結局は勝つことがいろんな意味で一番、重要だと思う。みんないろんな思いがあって難しさを感じてると思うんですけど、勝ちへの思いを一つにできればいい」と心情を吐露する。
「このグループを突破しても一緒に戦うことはできないので、本当に最後ですし……」
 退任が決まっている鬼木監督とは、この大会の途中で別れることとなる。だからこそ、こう話して残り試合に視線を向ける。
「期待してくれていると思うので、起用や期待に全力で応えることが大事」
 こうも話す山田は、恩師の退任を聞いたときの感情をこう説明する。
「本当に細かくプレーを教えてくれましたし、プロ1年目の監督が鬼さんで本当によかったと思いました。今年と去年であんまりチームとしては、うまくいったシーズンではなかったし、個人としても、もっと起用に応えられたらなって思いがあったので……」
 今季の得点数は先述したように15得点。得点ランキングでは4位に入る数字だが、それでも足りないのか、改めて尋ねれば、「点は去年よりは取れてますけど、もっとやれることはあった。すべての試合が全部うまくいくわけではないですけど、うまく行かせたかった」と歯がゆさを表す。

■すでに固めているイメージ

 そのために必要とな上海戦の勝利に向けて、すでにイメージをしっかりと固めている。
「首位を走ってるチームで、失点も少ないですけど、握られる展開は国内リーグではあまりないので、しっかりまずボールを握るところで、心理的にいつもと違う感覚を引き出したい」
 こう話すと、「試合終盤に得点が多く、入りに失点が多い」とデータを引き出す。そして、「全員の力で、90分を通しての試合のマネジメント、チームで合わせてやっていくことが必要になる」と説く。
「単純なクロスにはかなり強いですけど、負けている試合を見ると、中盤3枚の緩さだったり、ニアゾーンに走られたときの対応だったりに、スキはある。そこを突いていければいい」
※       ※
 重要な試合を翌日に控え、それぞれがそれぞれの思いを胸に秘めていた。すべてが本心ではないだろう。あえて奮い立たせている部分もあるかもしれないし、揺れる気持ちをピッチにぶつけようとしている選手もいる。
 そんな気持ちが上海のピッチの上でどのようなプレーとなって表れるのか。キックオフは、日本時間で10月23日21時だ。
(取材・文/中地拓也)

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