「どういうことだ!? なぜこんなことになっているのか、教えてくれ!」 36周目にピットインした僚友リアム・ローソンが自分の目の前に現われた時、角田裕毅(RB)は声を荒げた。 第19戦アメリカGPは角田にとって、最悪の結果になってしまった。 …
「どういうことだ!? なぜこんなことになっているのか、教えてくれ!」
36周目にピットインした僚友リアム・ローソンが自分の目の前に現われた時、角田裕毅(RB)は声を荒げた。
第19戦アメリカGPは角田にとって、最悪の結果になってしまった。
10番グリッドから好スタートを決めて8位に浮上。しかし戦略がハマらず、14位まで後退してレースを終えることになってしまった。
ローソン(左)と角田裕毅(右)の戦いは始まったばかり
photo by BOOZY
レース後、角田は憮然とした表情で、しかし怒りを押し殺しながら語った。
「僕はスタート直後に8位にいたのに、15位にいた彼が前にいたわけですからね。なぜ彼が僕の前で戻って来られたのか、まだよくわかっていません。
間違いなく今回のレースは、第1スティントを引っ張ったドライバーがうまくいったのは明らかですけど、僕らよりもうしろにいたヒュルケンベルグ(ハース)が引っ張ってオーバーカットできたり、後方からハードタイヤでスタートした連中が前に行ったのがなぜだったのか、まだよく理解できていません」
レースを終えた直後の角田は、まだ何が起きたのかわからずに混乱していた。
端的に言えば、ミディアムでスタートした角田の戦略はハズレで、ハードでスタートしたローソンの戦略はアタリだった(9位フィニッシュ)。その時点で角田にとって、かなり不利な状況だったことは確かだ。
今年のアメリカGPは、サーキットの約3分の2が再舗装されたことでグリップレベルが上がり、タイヤのデグラデーション(性能低下)は予想よりも大幅に小さかった。
その結果、多くのチームが「プランC」としていた1ストップ作戦で走りきれるという異例の状況になり、第1スティントは可能なかぎり長く引っ張るのが有利という展開になった。
ということは当然、ミディアムよりもハードのほうが有利だった。
だが、後退の理由はそれだけではなかった。
17周目にピットインした前のケビン・マグヌッセン(ハース)につられるようにして、角田は翌18周目にピットイン。これが傷口をさらに広げる結果になってしまった。
【最も中途半端でダメなタイミング】
「急に『ピットインしろ』と言われたので、こちらから(タイヤの状況などを)フィードバックすることもできませんでした。なぜあんなに早くピットインする必要があったのか、エンジニアとしっかりとコミュニケーションを取ることができなかったし、お互いにうまくフィードバックができていなかったと思います」(角田)
結局、マグヌッセンをアンダーカットすることはできず、タイヤの差がないため、その後も追撃のチャンスはなかった。
そのせいで第1スティントはマグヌッセンの背後を走り続け、第2スティントはピエール・ガスリー(アルピーヌ)の背後を走り続けることになってしまった。
角田裕毅に何の責任もなかったのだが...
photo by BOOZY
先に入るか、さもなくば長く引っ張るか──。今のレース戦略の基本中の基本と言える、そのどちらでもなく、最も中途半端でダメなタイミングで角田をピットインさせてしまったのが、このレースでのRBだった。
ずっとダーティエア(※)のなかを走った角田に対し、ハードタイヤで36周目まで引っ張ったローソンはレースの大半をフリーエアで走行し、本来の速さを十分に生かすことができた。その結果が、冒頭の逆転だ。
※ダーティエア=前方を走るマシンの影響で乱気流が生じ、後続車の空力性能が低下すること。
コンストラクターズランキング6位を争うハースを意識したレースをするのは間違ったことではない。だが、結果としては2ストップ作戦のマグヌッセンにつられてピットインし、ヒュルケンベルグにフリーエアを与えてしまった。そのおかげでヒュルケンベルグは8位入賞を果たし、RBはハズレ戦略でさらに自分たちのダメージを大きくしてしまった。
チームCEOのピーター・バイエルはこう説明する。
「我々が予想していたよりも、かなりオーバーカットが強力だった。だからリアムにとって有利な展開になった。彼はフリーエアだったから長く引っ張ることができたし、彼自身もすばらしい走りをした。
裕毅もすばらしいスタートを決めて、8位にポジションを上げたあとは非常にいい形でレースを進めていたが、ピットストップを遅らせすぎたかもしれない。その後も(後方からの追い上げが必要で)プレッシャーのかかる展開になってしまった」
【スピンが"敗者"のイメージを強くした】
角田が入賞できなかったのは、ハズレ戦略の不運と、チームの戦略ミスのせいだ。角田には何の責任もない。
ただし、41周目のターン1でスピンを喫したことは、明らかに角田のミスだった。それによって入賞を失ったわけではないが、ガスリーを抜いて12位に上がることはできたかもしれない。
19番グリッドからスタートしたチームメイトのローソンに戦略で逆転され、そのローソンが易々とガスリーを抜き去っていった直後だけに、やるせない思いと焦りもあったのだろう。
だが、それは言い訳にはならない。そういう状況下でこそミスを犯さず、最大限の結果を持ち帰ることが、角田に課された使命だったはずだ。それができていれば、敗因はすべてチームの戦略であり、角田の評価を下げる要素は何もなかったのだから。あのスピンが"敗者"のイメージを強くしてしまったのは間違いない。
レッドブルのヘルムート・マルコはこう語る。
「裕毅はスピンをしたが、ふたりのいい比較になると思う。どちらのドライバーにとってもチャレンジになるだろうね。もちろん、裕毅はここから立ち直らなければならない。F1の世界に残りたいのならね」
チームとして見直すべきところは見直し、再発防止を図る。角田自身も走りを見つめ直し、ドライビングのみならずチームとのコミュニケーション、そして精神面でもあらためて改善すべき点を磨かなければならない。
苦しみのなかでもがき、立ち上がることで、人はまた成長していく。その成果は、1週間後のメキシコシティで発揮しなければならない。