スペイン・マドリッドで開催されている「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000/5月1~8日/賞金総額477万1360ユーロ/クレーコート)のディフェンディング・チャンピオン、アンディ・マレー(イギリス)が、大会と『ザ・マガジン…

 スペイン・マドリッドで開催されている「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000/5月1~8日/賞金総額477万1360ユーロ/クレーコート)のディフェンディング・チャンピオン、アンディ・マレー(イギリス)が、大会と『ザ・マガジン』に対してインタビューに応じ、昨年大会での勝利の秘密から将来の展望、そして父親となった心境などについて語った。昨年のマレーは、準決勝で錦織圭(日清食品)を、決勝でラファエル・ナダル(スペイン)を倒し、クレーコート上で初めてのマスターズ1000大会優勝を決めていた。

※大会の協力を得て、以下にそのインタビューの一部を掲載します。    ◇   ◇   ◇

――昨年のマドリッドの大会で、あなたはクレーコートのマスターズ1000大会で初タイトルを獲得しました。それを、クレーの王者ナダルを彼のホームグラウンドで倒すことによって成し遂げましたが、あなたにとってこのタイトルの意味するところはどういうものですか?

 「クレーコートの大会で優勝するというのは、僕が非常に長い間、ものすごく困難であると感じていたことだった。だから2015年にその壁を破って飛躍できたことは、僕にとって、とても特別なことだったんだ。ラファはもっとも偉大なクレーコート・プレーヤーだから、このサーフェスでもっとも優秀な選手のひとりを倒して、僕の最初の(クレーでの)マスターズ優勝を遂げることができたのは、本当に誇らしい瞬間だった」 ――何がどう変わって、何年もの長い待ち時間のあとに、優勝を遂げることが可能になったのでしょうか?

 「昨年の僕の準備は、クレーのための準備としては、たぶんこれまでで最良のものだった。僕はバルセロナで2週間を費やしてクレーコート上で練習を積み、おかげでクレーでの動きや戦略に、しっかりと磨きをかけることができた。また、マドリッドの前週にミュンヘンで、僕にとって(その年)最初の優勝を遂げたから、大きな自信を胸にマドリッドに臨むことになったんだ」 ――アレックス・コレチャは常に、あなたは素晴らしいクレーコート・プレーヤーになるためのすべての資質を持っている、と主張していました。それを実現するのに、2015年まで待たなければならなかったのは、なぜだと思いますか?

 「昨年の僕は、それ以前の年よりもずっと徹底的に、非常にしっかりと大会の準備を行った。そのサーフェス(クレー)への準備万端となるために、できるすべてのことをやったから、それにより自信を得ることになった。僕が昨年やったほど、多くの時間をクレーコートのための準備に費やした選手は、そんなにいなかったと思うが、自分が誰よりもしっかり準備をしてきたという自覚は、特に心理的に大きな助けとなった」 ――ナダルは今でも、クレー上では最大のチャレンジ――つまり、もっとも倒し難い選手だと思いますか?

 「すべての選手が、必ずしも以前やっていたほどいいプレーができなくなる時期というものを経験する。でも、重要なのは、そのスランプにいかに対応し、奮起するかなんだよ。僕の意見では、ラファは変わらずクレー上で最強の選手の一角だし、彼は変わらず、コート内外で可能な限りハードな練習と努力を積んでいる。(昨季の)彼は、以前にやったほど多くの大会で優勝しはしなかったが、それでも変わらず競争力の高い、非常に手強い存在だった。彼は昨年から、問題があった部分を改善するため猛練習を積んできているに違いない。彼がかつての状態に戻るか否かを言い当てるのは難しいけれど、それは今後起こることを待って、様子を見てみるしかないんじゃないかな」 ――世界ナンバーワンになることは、あなたの目標ですか?

 「僕のスポーツのトップに至ることができたら、それは本当に信じられないほど素晴らしいことだ。それは、より若かったとき、子供のときなんかに夢見ることだね。僕の兄は、ちょうどダブルスで世界一になったばかりだ。兄弟として、僕らはふたりとも、キャリアの一時期に世界ナンバーワンになることができたんだ、と言えるようになるのは、途方もなく素敵なことだけど、でもそれは、僕がそれだけに集中して切望するようなことではない。世界ナンバーワンになるには、出る大会、出る大会で、一貫して非常によい成績を挙げ続けなければならないから、僕はただ、一大会毎に集中し、すべての大会で勝つために精一杯努力し、頑張り続けるよう、しっかり意識してやっていくつもりだよ」 ――マドリッド・オープンとほかの大会の違いは?

 「際立った違いのひとつは、標高だね。カハ・マジカ(マドリッド・オープン会場)は、おそらく海抜何mという高度、標高という意味で、ツアーでももっとも高い場所にある試合会場のひとつだ。だから、そのための準備をした上で臨むようにしなければならない。標高が高く、空気が薄いと、ボールの動きも少し変わることがあり、それに慣れるのに少し時間がかかりかねないんだ」 ――町としてマドリッドを際立たせている点は?

 「バルセロナやバレンシアと比べ、より伝統的なスペインの都市だ。歴史豊かな町であり、僕はいつも、辺りを少し見て回ることを楽しんでいるよ。サッカー・スタジアムをちょっと見に行くにしろ、主要な広場などをぶらつくにしろ、やることはいろいろある。食べ物も、かなり特別だよね。イベリア産のハムがあらゆるところに出ていて、食べ歩くにもいい。タパスが好きな人は、マドリッドが大好きになるだろうね」 ――カハ・マジカでの最良の思い出は?

 「優勝した昨年の思い出を超えるものを探すのは、難しいだろう。僕の最初の、クレーでのマスターズ・タイトルを獲得したというのは、本当に特別な感慨だ。僕はそのために、非常に長いこと努力してきた。マドリッドの観客たちは、いつもすごく賑やかで、昨年の対ラファの決勝の雰囲気は、本当に素晴らしかった。あの経験は、今後も決して忘れることはないだろう」 ――ノバク・ジョコビッチ(セルビア)を止めるにはどうしたらいいと思いますか? 彼と対戦する際の最良の策は?

 「すべての選手、誰もが、倒しうる相手だが、現時点のノバクは、そのパフォーマンスの安定性ゆえ、倒すのがより難しい選手となっている。彼はベースラインからプレーするのが好きで、非常に安定したグラウンドストロークの持ち主だから、どちらかというと長いポイントを好む。今、通常より早めにネットに出るなどして、プレッシャーをかけ、彼に対してはポイント(にかける時間)をより短くしようと努める選手が増えつつあるように思うが、ジョコビッチはコート上のどこからでもいいショットを打つ能力を持っているから、その作戦も、常にうまくいくわけではない。彼に対しては、複数のゲームプランを持って戦うのがいいと思うよ。もしひとつの作戦がうまくいかなかったら、別の作戦に切り替えればいい。次はどんな手でくるかと、彼に推測させ続けるような状況をつくり、できるだけ彼が心地よい状態でプレーできないようにすることが、重要なんだ」 ――あなたはごく最近、父親になりましたが、全豪オープンの決勝に至ったにも関わらず、もしも大会中に子供が生まれることになったら、大会を途中棄権していただろうと言いました。親になったことで、最優先事項は変わりましたか?

 「人生の環境が変わるにつれ、優先事項が変わるのは、ごく自然なことだ。ソフィアが生まれて以来、テニスはもはや、僕にとって最優先事項ではなくなった。もちろん、コート上にいるときには、テニスに100%集中しているけれど、コート外にいるときには、父親であることと並行してことを行いながら、いかにしていいバランスを保っていったらいいかを、学ばなければならない。でもここまでのところ、僕は父であることに大きな喜びを感じ、父としての生活を心から楽しんでいる」 ――あなたは限界を次から次へと破っています。母国のオリンピックで金メダルを獲り、ウィンブルドン・チャンピオンとなり、デビスカップで優勝しました。あとは、何が残っているでしょうか?

 「たくさんのことがあるよ。僕のキャリアは、まだ何年も先があるし、僕の最良の年はこれからやってくると信じている。もっとグランドスラム大会で優勝したい、と言うのは簡単かもしれないけど、現実には、4大大会で優勝するのは非常に難しいんだ。僕は、すべての大会で優勝を目指して精一杯戦うことができるよう、出場するすべての大会のために、可能な限り最良の形で準備をし続けるつもりだよ」 ――上記の勝利がまだなく、イギリスの国民の期待を一身に背負っていたときには、安眠できていましたか?

 「僕にとっては、大して違いはなかったよ。僕をもっとも厳しく批判する者は、常に僕自身だったから、数年前に僕にかかっていた、ブレークしなければというプレッシャーには、正直言って、これといった影響は受けてはいなかった。僕は、プレッシャーにはむしろモティベーションをかきたてられる、と感じる性質だし、ああも多くの人々が、僕が活躍をすることを切望してくれているというのは、素晴らしいことでもあった。イギリスの観衆はテニスを愛している。そして僕は、大きな大会で勝ち、彼らに応援する対象を与えることのできる選手であり続けてきたことを、この上なく誇らしく思っている」

(テニスマガジン/翻訳◎木村かや子、構成◎編集部)