試合後の公式会見場に入室してきた清水エスパルスの秋葉忠宏監督は、会場を埋めた大勢のメディアに「おお、集まっていますね」とまず声をあげた。 ホームのIAIスタジアム日本平にモンテディオ山形を迎えた、20日のJ2リーグ第35節。勝った瞬間に自…

 試合後の公式会見場に入室してきた清水エスパルス秋葉忠宏監督は、会場を埋めた大勢のメディアに「おお、集まっていますね」とまず声をあげた。

 ホームのIAIスタジアム日本平にモンテディオ山形を迎えた、20日のJ2リーグ第35節。勝った瞬間に自動的に3シーズンぶりのJ1昇格が決まる注目の大一番で、75分にキャプテンのFW北川航也のゴールで先制しながら、80分と87分に喫した連続失点で敗れた心境を、指揮官は第一声で覆い隠さずに切り出した。
「やはりフットボールは甘くない、ひと筋縄ではいかない、簡単に昇格はさせてもらえないと痛感させられるゲームでした。ただ、われわれは何も失っていないし、終わったわけではない。下を向く必要はないし、今日で悪いものはすべて出たと思っている。ホーム(のアイスタ)で今シーズン初めて負けたし、先制した後に初めてひっくり返されたし、いろいろな悪いものが出たと思っています」

■「子どもたちは次の栃木には来られないかもしれない、ということを考えたら……」

 メディアからは「山形戦へ向けた練習からは緩さや、あるいは重圧の類は見られなかったが」と質問が飛んだ。秋葉監督は「私もそういう見立てです」と同意するとともに、試合展開に対して苦言を呈することも忘れなかった。
「先制するまでは本当に素晴らしい内容でした。ただ、そこから得点してから5分以内、失点してからまた10分以内に失点している。気をつけようと、1年を通して言ってきたなかで取られてしまったので、またネジを巻き直したい。この痛みをエネルギーに変える、痛みから学ぶということをいつも通りやり続けていきたい」
 破竹の5連勝で順位を7位にあげ、J1昇格プレーオフ進出を視野にとらえて乗り込んできた山形の前に、最終ラインからの縦パス一本で右サイドを崩れた末に同点とされ、直接フリーキックからファーでヘディング弾を喫して逆転された。
 いずれもニアの狭いスペースを撃ち抜かれた失点。栃木SCのホームに乗り込む、27日の次節で勝てば今度こそ昇格が決まる状況を受けながらも、守護神の権田修一は「やはりここ(ホーム)で勝てないのが……」と切り出した。
「今日、子どもたちがたくさん来ていましたよね。子どもたちは次の栃木には来られないかもしれない、ということを考えたら……という思いはすごくありますけど、ただもう終わってしまったことなので、切り替えていきます」

■敵地・水戸戦での4500人

 アイスタに駆けつけた、今シーズン最多となる1万8284人のファン・サポーターのなかには、数多くの少年少女も含まれていた。目の前で昇格を決めた至福の喜びを共有できれば、感動の瞬間は静岡サッカー界の未来へとつながっていく。これが心残りだと振り返った権田に、秋葉監督も思いをシンクロさせる。
「今シーズンのアイスタで最多のサポーターファミリーが、われわれとともに昇格するんだという雰囲気を作ってくれて、昇格の機運を高めてくれた。最後の最後まで、この空気感やわれわれの絆は揺るがないと思っている。全員で戦う姿勢こそが清水エスパルスの伝統と歴史であり、素晴らしい部分だと思っている。アウェイとなる次節を含めて、これはなくさずにあと3試合、しっかりと戦っていきたい」
 水戸ホーリーホックと2-2で引き分けた前節でも、敵地・ケーズデンキスタジアム水戸には4500人を超える清水のファン・サポーターが駆けつけた。同じ光景は間違いなく次節でも生まれる。敵地のゴール裏から間断なく発せられる熱量と、ホームタウンから届けられるエールを力に変えながら、清水は2位以内を確定させる勝利だけを追い求めてカンセキスタジアムとちぎのピッチに立つ。
(取材・文/藤江直人)

いま一番読まれている記事を読む