元福岡ソフトバンクホークス・攝津正氏が長崎県対馬市と活発な交流を図っている。野球イベント参加はもちろん、病院訪問や島が進めるSDGs計画にも大いに関心があるという。 「野球だけで人生を完結するのではなく、さまざまなことに興味を持って多くの人…

元福岡ソフトバンクホークス・攝津正氏が長崎県対馬市と活発な交流を図っている。野球イベント参加はもちろん、病院訪問や島が進めるSDGs計画にも大いに関心があるという。

 

「野球だけで人生を完結するのではなく、さまざまなことに興味を持って多くの人々と関わっていきたい」

 

攝津氏は野球以外の世界へ広く目を向け、実際に行動することを大事にしている。以前から興味があった長崎県対馬市(以下対馬)とは縁があり、昨年から交流が始まっている。

攝津氏が現役時代さながらのコントロールを披露すると歓声が上がった。

~対馬へは大型フェリーに揺られて釣りに来たこともある

「プライベートでも訪れたことがあるのですが本当に素晴らしい場所です」と対馬に対する思いを率直に口にする。

 

「対馬は国境付近にある自然豊かで、猫がいる島という印象を持っていました。『良く釣れる』とも聞いていたので、コロナ禍が明けたくらいに友人と訪れました。大好きな釣りと美味しいものを食べた、完全にプライベートの観光旅行でした」

 

「大きなフェリーの夜行便で5時間くらいかけて到着。小さな島が多く独特のリアス式の地形、山と海が本当に美しかった。海の透明度も素晴らしく、防波堤で釣りをしていると野生のイルカがやってくる。本当に貴重な時間を過ごしました」

 

「故郷・秋田にも海や自然がありますが、全く異なる世界が広がっていました」と当時を思い出して笑顔を浮かべる。

 

「少し前に縁ができて対馬の野球関係者の方々とお話をする機会がありました。地元の長所や短所、そして課題を聞くことができた。また実際に高校へ行き施設や練習も見させてもらった。改めて素晴らしい環境だし、可能性をたくさん秘めた場所だと感じました」

 

「アスリートや著名人との接点がなくて何から動いて良いのか悩んでいる」という話も聞き、対馬の現状を少しずつ把握できるようになり協力への思いを強めていった。

 

「この素晴らしい島のため、できることは可能な限り何でもやりたいと思いました。『最初のきっかけを作ることで今後のイベント等が増えれば』と思い、対馬ベースボールフェスタに参加することを即決しました」

対馬との縁ができて、まずは野球を通じて島を盛り上げることに協力する。

~対馬ベースボールフェスタへの参加で最初の一歩が始まった

9月14、15日の2日間、「対馬ベースボールフェスタ」(市教育委員会など主催)が開催された。攝津氏はホークスでチームメートだった内川聖一氏とともに野球イベントとトークショーを盛り上げた。

 

「野球イベントには経験者のみでなく未経験者も来てくれるなど、熱気を感じました。野球教室というよりは、グラウンドでやる島のお祭りのようなイメージ。ボランティアでたくさんの方々が手伝ってくれ、町全体で盛り上がる集いのような感じ。普段の野球教室とは違った雰囲気でした」

 

野球イベントには約150名の小中学生が集まって笑顔で白球を追いかけた。

 

「技術が備わった子、身体が強そうな子、そして未経験者など、多くの子供たちが集まってくれた。『野球が好き』という純粋な思いが伝わってきた。上手くなりたい気持ちはどこでも変わらないな、と改めて実感しました」

 

「ストラックアウトが体験できるブースで、まず最初に自分のコントロールを披露したら、『おっ』という感じになった。そういう感じで元プロ選手のパフォーマンスを披露した方が喜んでくれるのかもしれません。また子供たちと実際に対戦するなど、直接的に触れ合う機会も今後は増やしたいです」

 

ホークス黄金時代を支えた同級生コンビのトークショーには約110名が聞き入った。

 

「ホークス・ファンなど多くの人たちが集まってくれた。『野球は実際にやってはいないけど見るのは大好き』という子供もいて嬉しかった。内川も『対馬には初めて来たけど本当に楽しかった』と言っていた。参加した皆さんにとって最高の2日間になったと思います」

ソフトバンク黄金時代を支えた攝津正氏と内川聖一氏の来島で、島中がお祭りのように盛り上がった。

~対馬市の未来を真剣に見据えた行政方針に賛同

今回の訪島のもう1つの目的は、長崎県対馬病院を訪れることだった。攝津氏は2021年1月に自身のSNSを通じ、「慢性骨髄性白血病」を患っていることを公表。現在も病気と向き合い続けている中、離島の医療体制に興味を持った。

 

「離島の病院というとドラマや映画の印象しかなかったですが、対馬には大きな病院があります。以前は離島ということもあり『働き手が見つからない』と言う課題があったそうです。しかし、前向きに多くの取り組みを行なった結果、『日本有数の働きやすい離島の病院』に選ばれたことを知り、大きな興味がありました」

 

「ドラマや映画のような孤立していたり逼迫していたりするようなことは全く感じませんでした。例えば、僕の病気(慢性骨髄性白血病)にも対応可能ということ。福岡との距離も近いので連携を取り、さまざまなケースに対応できるそうです。病院と患者さんの距離が近く寄り添っている感じも受けました」

 

大病を患った経験があるからこそ感じることがある。「病院はいつも側にいてくれる、と感じられるのが一番安心できるし心強い」としみじみ語る。

 

「対馬は住民が幸せに暮らせる環境整備に真剣に向き合っています。病院もそうですがSDGsに対しても行政が先導役となり取り組んでいる。僕ができることは主に野球を通じたことになると思いますが、できることがあれば何でもやりたいと思います」

 

対馬市が掲げるのは、「誰一人取り残すことなく、いつまでも安心安全に暮らせる持続可能なしま社会の実現」。2022年時点で全国154都市が選定されているSDGs未来都市の1つ。未来を見据えた壮大な理念に攝津氏は心から共感している。

長崎県対馬病院を訪れ、離島における医療体制の現状についても学んだ。

~対馬は離島だが福岡からすぐの場所にある

「対馬市は日本本土から147㎞、朝鮮半島から49.5㎞に位置しており、全体の約90%が山林で覆われている島・対馬の自治体」(ながさき経済web)という。

 

「離島ということもあり、行くのが難しい印象がある。でも福岡から飛行機だと約30分で行けるので、むしろ近い場所にあります。そういう部分を理解してもらえれば、観光やスポーツといった多くの文化的交流ができると思います」

 

「野球ができるグラウンドも多くあります。今はプロ野球ができるレベルのものはないですが、アマチュアの合宿等は十分にできる。体育館や宿泊施設もあるので、そういうものをうまく活かせれば九州における野球のメッカ的存在にもなれるのではないでしょうか」

対馬の良さを多くの人に知ってもらい島内のスポーツがさらに盛り上がって欲しい。

12月7日には、平成国際大学女子硬式野球部と折尾愛真高校女子硬式野球部(福岡)の親善試合が開催されることも決定した。

 

「イチローさん(元マリナーズ他)が中心となり女子野球を盛り上げようとしています。でも、それ以外でも女子野球はいろいろな場所で行われていますので、もう少し話題になって注目されて欲しい。今年の全国高校女子硬式野球選手権大会決勝戦も甲子園でしたから」

 

「対馬で野球イベントをできることが広く知られれば、この先に大会や合宿等が開催される可能性も出てきます。野球を通じて足を運んだ人は対馬の素晴らしさを絶対に体感できるはずです。そういった人を1人でも増やせれば嬉しいです」

「対馬には野球をできる素晴らしい環境があるのでどんどん活用して欲しい」と語る。

「対馬に対してさらに大きな興味が出ました。プライベートでもまた行きたいです」と攝津氏は語る。社会へ向け常にアンテナを張り続けている中で出会った対馬という場所は、攝津氏に神様が授けてくれた宝物の1つかもしれない。そのような素晴らしい場所を1人でも多くの人たちに知ってもらい、共有するための活動をこれからも続けていく。

 

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・攝津正、鴛海秀幸)