10月5日のアルビレックス新潟戦を4-0で勝利した翌日、ランコ・ポポヴィッチ監督と吉岡宗重フットボールダイレクター(F…

 10月5日のアルビレックス新潟戦を4-0で勝利した翌日、ランコ・ポポヴィッチ監督と吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)の退任という大ナタを振るった鹿島アントラーズ。10月9日の再始動時からは中後雅喜コーチが監督に昇格。クラブOBの本山雅志、羽田憲司両コーチもスタッフ入り。さらに中田浩二強化担当がFDに就任する形で新たなスタートを切った。

 ラスト6試合を残した段階で、鹿島は勝ち点53の4位。首位・サンフレッチェ広島とは12差だが、鹿島の方が1試合消化が少ない状態だ。3位・町田とは同じ条件で6差。ACL圏内は十分に狙える状況だっただけに、ここから白星を積み重ねていく必要があった。
 迎えた19日のホーム・アビスパ福岡戦。新潟戦の鹿島は3-4-2-1の新布陣を採用したが、今回は伝統の4バックに戻した。長期離脱中の濃野公人の代役右サイドバック(SB)には須貝英大が入り、ボランチは柴崎岳知念慶のコンビで、三竿健斗は控えに回った。
 そしてアタッカー陣は、トップ下の名古新太郎こそ前任者時代と同じだったが、右MFの藤井智也、左MFの鈴木優磨、1トップの師岡柊生という配置はサプライズ。中後監督も「優磨にとっては新たなチャレンジ」と語ったが、右の藤井がお膳立てして左の鈴木優磨が仕留めるという狙いがあった模様だ。

■鈴木優磨「思った以上に前半は機能しなかった」

 しかしながら、試合が始まってみると、新たな攻撃陣が思うように機能せず、攻撃面がノッキングしてしまったのだ。
「今週(ケガから復帰して)右だったんでちょっと驚いた部分もありました。特徴を出そうという気持ちで入ったんですけど、どうしたらいいのか分からなかったですね」と藤井は戸惑いを口にする。左の鈴木優磨も「右で起点を作って俺が仕留める形かなと思っていたけど、思った以上に前半は機能しなかった」と不完全燃焼感を吐露。3バック相手に懸命に体を張った師岡も「相手が硬くて厳しかった」と顔を曇らせた。
 そういう状況だから、前半のシュート数が3本にとどまるのもやむを得ない。決定機と言えるのは、前半40分に名古のFKに知念が反応し、ゴール前でヘッドをお見舞いしたシーンだけ。このシュートはGK永石拓海の正面。惜しくも得点には至らなかった。
 スコアレスのまま迎えた後半。中後監督は藤井と樋口雄太をスイッチ。これで流れが変わらないと見るや、今度は須貝と柴崎を下げ、三竿と徳田誉を投入する。徳田が最前線に入り、師岡が右へ移動するのは想定内だったが、三竿が右SBに入ったのは意外な形。守備力のある彼に右サイドの守りを託して、師岡に広いスペースを打開してもらおうという意図があったのだろう。
 それでも得点機を作れないと判断すると、ラスト15分を切ったところで最後のカードを切る。師岡と名古を下げ、ターレス・ブレーネルと舩橋佑を起用。舩橋と知念をボランチに並べ、再び樋口を右MFに上げ、ターレスを左MFに配置する前任者時代には見られなかった形にトライしたのだ。

■新スタイルを実践する難しさ

 このようにさまざまなチャレンジを繰り返した結果、最終的には樋口と関川郁万が1本ずつシュートを放ったが、後半もその2本のみでタイムアップの笛。守備の方は安定感を増したものの、攻撃の推進力や迫力が感じられない内容に終わり、スコアレスドローが御の字と言っても過言ではなかっただろう。
「思った以上に右で深い位置を取れなかったっていうのが練習との大きな違いですね。練習だとトップ下の名古が流れて、それに相手がついていくかどうかという問題があったんだけど、その前段階として右サイドで植田(直通)君、ヒデ(須貝)、藤井のところでノッキングしてた部分があった。
 きついボールが何個か連鎖しちゃうと前線で受ける選手は難しくなる。もうちょい間や中盤の選手を使いながらタテパス入れて背後という部分が足りなかった。もしくは、左からドリブルで押し込んで右を取る動きがあってもよかった。全員の反省点ですね」と鈴木優磨は新スタイルを実践する難しさを痛感した様子だった。
 現状では指導経験の長い羽田コーチが戦術的なディテールを選手に伝えているという。羽田コーチはご存じの通り、大岩剛監督の下でパリ五輪代表コーチを務めており、厳しい要求を突きつけられる人材だ。それは鈴木優磨や植田直通ら年長者にとって、いい刺激になっているようだ。
「ハネさんはすごい僕に求めてきますし、ハッパもかけられている。もっともっと(自分たち)上の選手が見せていかないと下はついてこない。自分がもう1つ上がれるチャンス」と鈴木優磨は前向きに語っていた。
 そんなポジティブなムードが生まれた点はプラス要素。それを追い風にして、鹿島は残り5試合でいかにして点を取れる形を構築していくのか…。今の彼らはJ1制覇は難しいにしても、ACL圏内はまだ手が届く。それを死守するためにも、ここからギアを上げていくしかない。
(取材・文/元川悦子)
(後編へ続く)

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