久保にとって2024年は飛躍のシーズンに photo by Tsutomu Kishimoto久保凛にとって2024年は、大きな飛躍を遂げた1年となった。今年1月に16歳となった久保は、春先からシニア選手と戦う日本グランプリシリーズにも継続…


久保にとって2024年は飛躍のシーズンに

 photo by Tsutomu Kishimoto

久保凛にとって2024年は、大きな飛躍を遂げた1年となった。今年1月に16歳となった久保は、春先からシニア選手と戦う日本グランプリシリーズにも継続して出場し、6月の日本選手権800mで優勝。7月には同種目の日本記録を19年ぶりに更新し、8月にはインターハイ連覇、そしてU20世界選手権6位入賞と、日本のトップシーンに躍り出た。

目指すは来年、東京で行なわれる世界陸上選手権の出場。この冬は個人のレベルアップも含めて、高校の仲間と共に駅伝に臨む予定だが、今シーズンの成長を久保の言葉を中心に振り返る。 *本文中のレースラップは著者計測

【19年ぶりの日本記録更新に初の世界大会】

 10月12日の国民スポーツ大会陸上競技、少年A女子800m決勝。同世代の高校生を相手にした800m日本記録保持者の久保凜(大阪・東大阪大敬愛高)は、圧倒的な力の差を見せつけた。

 前日の予選は強い風が吹くなか、最初の400mを1分00秒で通過すると、以降は余裕をもった走りで2番手の選手に3秒以上の差をつける2分05秒65で1位通過。この日の決勝は風があるなかでもスタートから積極的に飛び出すと早々に2位以下を置き去りにした攻めの走りを実践。最初の400mを58秒とハイペースで通過する。だがその後は「思ったように足を動かせなかった」と言うように、独走状態のなか、いつもならギアを切り替えられるラスト100mも自身でスピードを上げられず。2位以下を5秒以上突き放しながら2分02秒09の大会記録更新だけに止まった。

 もっとも、久保にとって2024年は、大きく飛躍したシーズンとなった。6月末の日本選手権で優勝し、7月15日の奈良県で行なわれた記録会で日本女子初の2分切りとなる1分59秒93をマーク、19年ぶりに日本記録を更新した。その後のインターハイでも2連覇を果たす。8月下旬にはU20世界選手権(ペルー・リマ)に初出場し、格上の選手もいるなかで予選、準決勝とも組1位で通過し、決勝に進出。決勝では先手を取れず5~6番手で外側のレーンを走らなければいけない不利な状況もあるなか、2分03秒31で走り、日本勢過去最高順位タイ6位入賞という結果を残した。

「自分が先頭で走ったとしてもラストまでついてこられる。決勝では『自分はまだ世界に通用する力ではないな』と思い、そこからもう一度練習を積んで次の試合に合わせようと思えたので、U20世界選手権はすごくいい経験になったと思います」

 こう話す久保は、9月29日、シニア選手たちとの今季最後の戦いとなった日本グランプリシリーズ「Yogibo Athletics Challenge Cup 2024」(新潟・デンカビッグスワンスタジアム)でも、「最初の1周は58秒で入らなければ来年の世界選手権の参加標準記録(1分59秒00)は切れないと思う」と攻めのレースを展開した。1周目は前高校記録保持者で7月に2分01秒93の自己ベストを出していた塩見綾乃(岩谷産業)にしっかりつかれるプレッシャーもありながら58秒で通過。そこから一気に後続を突き放すケタ違いの強さを見せ、自己サードベストの2分01秒26で日本GPシリーズ4連勝を決めた。

「前のレースは2分3秒台が続いていたので、1秒台を出した自分を褒めたい」と話した久保だが、続いたのは反省の言葉だった。

「昨日の前日練習も納得のいく結果で調子も上がっていたので、『今回は(世界選手権参加標準記録を)狙えるかもしれない』と思ったが、うまくはいかなかった。今日は400mから600mの部分をあまり落ちないようにすることを意識して走り、そこの部分の課題はクリアできたが、ラスト200mでいけるかもしれないと思ってしまい、少し力んで走ってしまった。やっぱり焦らず走らないといけないというのを思いました」

【来年の東京世界選手権出場を目指して】


初出場となった8月のU20世界選手権800mでは6位入賞を果たした

 photo by Tsutomu Kishimoto

 6月の日本選手権までは2分3分台の記録に止まり、「なかなか(当時の)高校記録の2分2秒台にいけない」と話していた久保だが、その殻を一気に破ったのは「1周目を速く入って最後を粘る練習として参加した」という、チームで参加した7月13日の4×800mリレーだった。

 実施回数の少ない特殊種目ゆえ、それまでの日本記録を8秒近く更新する結果だったが、4走を務めた久保は、(バトンパスの引き継ぎと走り出しのある)リレーとはいえ最初の400mを56秒台で入り、2分01秒台で走りきったという。「リレーはひとりじゃないので、チームのためにと思って1周目を速く通過することができた。2周目は落ちてしまったけど、1周目を速く通過できたのが、2日後の日本記録につながったかなと思います」と振り返る。

 殻を破れたからこそ見えてきた、来年の東京世界選手権参加標準記録(1分59秒00)突破。そこへ向けて「自分のなかでは、まだ少し遠いかなという気持ちもあるが、できないことはないと思っているので、もう少し持久力もスピードも、つけていきたい」と話す。

 ただ、3月から走り続けてきた疲労もあるなか、「1周目で1分を切って入らないと絶対に2分は切れないので、1分を切って入るレースを継続しつつ、もう少しリラックスして走れるようにしたい」という思いで攻め続けた。その結果、シーズン最後の2レースを2分2秒前後でまとめられたのは地力がアップした証しと言えるだろう。

「今シーズンは日本記録を出した部分では大きな成長ができた気持ちはあるが、まだ1回しか2分を切れてない。成長はできているけど、まだもう少し成長しないといけないシーズンだったと思います」

 久保は飛躍した今シーズンについて、こう総括した。国内ではなかなか競り合うレースができない現状もあるが、世界での戦いを見据えた高い意識は芽生えている。

「誰かに引っ張ってもらったほうが記録は出やすいと思うけど、自分で出せる力をつけていかないといけないと思います。人に頼っているようではダメなので、自分で走って何本でも1分59秒を切れるようにしたい。高い壁だけど、そう思っています」

 快進撃を続ける久保の強さの秘訣には、「中学の頃からあまりケガをしていない」ということもある。サッカーをやっていたことで体の使い方がうまくなり、ケガを避けられるのかもしれないと笑顔を見せる。

 これから目指すのは、チームで挑戦する駅伝。

「11月にはまず大阪府の高校駅伝があるので、そこで優勝して近畿大会、全国大会に繋げられるようにしたい。いつもチームに支えられているので、次は駅伝で自分が活躍してみんなで喜び合いたいと思っています」

 そのなかでも、来年への意欲も見せる。今季、U20世界選手権で同世代の世界トップランナーと戦って必要だと感じたのは、高いレベルでの持久力である。

「今年は前半からいい流れを作れたけど、ラストの部分で納得いかないレースも多かった。やっぱりラストの100mで足が動かない状態になっていては話にならないので、そこでもうひとつギアを上げられるようにならないといけないと感じています。

(駅伝シーズンに向けて)長い距離も走れるようにするための持久力が必要だけど、そのなかでもスピード面も落とすことなく、という練習ができたらと思います」

 視線は、来季へのさらなる飛躍に向いている。