松岡修造氏や錦織圭選手、西岡良仁選手など、日本テニス界では多くの選手たちが世界レベルで活躍してきた。そうした選手たちに憧れ、テニスを始めた金の卵と言える選手たちも数多で、一部の選手はすでに世界に羽ばたき、技を磨いている。 「将来は全仏オー…
松岡修造氏や錦織圭選手、西岡良仁選手など、日本テニス界では多くの選手たちが世界レベルで活躍してきた。そうした選手たちに憧れ、テニスを始めた金の卵と言える選手たちも数多で、一部の選手はすでに世界に羽ばたき、技を磨いている。
「将来は全仏オープンで優勝することが目標です」と意気込む田畑遼選手も将来を嘱望される選手の一人。国内のジュニアランキングは16歳以下で2位、18歳以下でも6位と、ジュニア世代では国内トップクラスだ(ランキングは9月末日時点)。
海外でしか経験できないレベルの高さを得るべく、16歳ながらすでに1年の半分を海外で過ごしている。
未来のテニス界を背負う存在になり得る田畑選手の今とはーー。
コート内外の積極性が奏功し 中学生でプレースタイルを確立
田畑選手は2008年1月6日生まれの16歳。北海道で幼少期を過ごし、仙台で小学校6年間を過ごした後、関東に移り住んでいる。
元々両親がテニスをやっていた流れで物心付いたときにはすでにラケットを握っており、小学1年生のときに本格的に競技を始めた。両親からの強制はなく、「楽しくてやっていました」と振り返る。
転機となったのは小学5年生のころ。現在も師事している武正真一コーチが所属するむさしの村ローンテニスクラブがある埼玉県加須市へ仙台から週1、2回通い始めた。「テニスはもちろんですが、体作りやコーディネーショントレーニングも自分からやりたいと言ってくる。いろんなことに興味があり、プロの選手を見ながら様々なことを練習で試して、試合でも少しずつアイディアを出していける選手でした」と武正コーチは振り返る。
積極的にチャレンジし、コート内外で常に“攻め”の姿勢で技術を身に付けていった。
こうした積み重ねをすることで、同年代の選手よりもプレースタイルが確立されるのが早く、中学生になるとネットプレーを得意とするように。同年代はラリーを軸にゲームを進めていく選手が多い中、駆け引きで相手を崩しながら隙があれば前に出ていくテニスで頭角を現していった。
プレースタイルは今も不変で、「パワーがあるわけでも、背が高いわけでもない。いろんなボールを使って相手を動かし、最後はネット付近で決め切ることが一番の強みです」と田畑選手は話し、現在は課題を克服するよりも、その個性をさらに伸ばしていくことに重きを置いている。
海外での武者修行の中で 持ち味と課題の両面にアプローチ
個性を伸ばしていくために練習に励んでいるが、それだけで勝てるほど世界は甘くない。劣勢時に守りの時間が長くなってしまうと、精神的にも体力的にも崩れてしまうのが課題だ。
どのスポーツでも高い攻撃力だけでは試合に勝つことは難しく、自身の強みが勝敗においては諸刃の剣になってしまう面もある。だからこそ1年のうち半分は海外に行き、様々な選手と対峙することで、持ち味を大事にしながらも課題に向き合うことも意識している。
日本で実戦感覚を養うことはできるが、小柄な選手が多い日本人はどうしても同じようなプレースタイルになってしまう。一方海外に出れば、1人1人の選手の個性は異なり、日本では経験できない選手たちとの対戦から得られるものは多い。「個性のある選手たちと対峙して、それに適応しながら試合で勝っていくことは自分の成長につながります」と田畑選手。
特に体格が恵まれている海外選手からしか感じられない力強いボール、日本には少ないクレーコートでのプレーは、課題を克服するために大きな経験値になっている。
また目下勉強中なのが英語だ。生活面などコート外でのストレスが軽減されるほか、海外の選手たちとの意見交換を英語でできるようになりたい。練習中に海外選手たちの“テニス感”を聞くことで考えの幅が広がる可能性があるとの思いからだ。
田畑選手がこうした考えを持っている上で、武正コーチは「1人1人プレースタイルが違うので、武器を明確にすることで自信につながる。海外でももっと自信をつけていってほしいです」とさらなる成長に向け、海外での経験に期待している。
目指すは世界で通用する 応援される選手に
テニスの四大大会のうち、全仏オープンは唯一クレーコート(赤土)で試合が行われる。田畑選手はクレーコートでのプレーに憧れを抱いており、まずは18歳までが出場できるジュニアの部での優勝を見据えている。16歳の田畑選手はあと2回、ジュニアの部に出場できる。「ジュニアで出られる最後の年代になってきている。自分のゲーム性を出しながら、結果が求められてきます」と武正コーチ。心身ともに成長過程にあるジュニア世代では年齢が上になるほど優位になることから、周囲の期待も当然高まっていく。
それでも田畑選手は海外で多くの実戦を経験したことで、「どの大会も大事ですが、いつも通りのプレーをすること心がけています」とメンタル面の成長が著しい。どんな状況でも大好きなテニスを練習通りするという心の余裕が持てるようになった。
目に見える結果として目標は全仏オープンの優勝だが、1人のテニスプレーヤーとして目指しているのは「応援される選手」だ。「いろんな人と出会い、応援されるとうれしい気持ちになる」と田畑選手が言えば、二人三脚で挑戦してきた武正コーチも「テニスを知らない方でも見ていて面白い選手になってほしい」と期待を込める。
その上で憧れの選手としてあげるのは、スペインのカルロス・アルカラス選手。21歳ながら世界ランキング2位(ランキングは9月末日時点)で、コート外でも世界一稼ぐテニスプレーヤーとして知られている。
「21歳と年齢がそこまで変わらない。若い頃から勝っている選手といつか対戦してみたい」と田畑選手は目を輝かせる。
国内ではトップクラスでも、世界を見渡せばもっと上はいる。先を見据え、目標の全仏オープン優勝に向け、田畑選手は今日もラケットを振り続ける。
(取材/文/吉田大貴、写真・田畑遼選手)