心身ともにシーズンを通して成長を続けてきた早大・伊藤 photo by Wada Satoshi駅伝シーズンの開幕を前にじわじわ調子を上げてきた早稲田大学。その中心選手のひとりとして存在感を発揮してきたのが駅伝主将を務める伊藤大志だ。前回の…
心身ともにシーズンを通して成長を続けてきた早大・伊藤
photo by Wada Satoshi
駅伝シーズンの開幕を前にじわじわ調子を上げてきた早稲田大学。その中心選手のひとりとして存在感を発揮してきたのが駅伝主将を務める伊藤大志だ。
前回の箱根駅伝は体調不良のため不出場となったが、その悔しさを胸に、春先から好調を維持。主将としてチームを引っ張る役割を果たすことで、成長を遂げきた。三大駅伝3位以内の目標に向けた自信は、十分に備えている。
【5000mで早大歴代4位に】
大学駅伝シーズンの開幕が近づくなか、9月下旬に各地で行なわれた競技会では、夏合宿明けの各大学の戦力が少しずつ見えてきた。そのなかでじわじわと評価が高まりつつあるのが早稲田大学だろう。
9月29日の早稲田大学競技会(The Road of WASEDA)5kmでは、エースの山口智規(3年)が13分43秒の好記録をマークし、日本記録に迫った。前回の箱根駅伝5区で好走した"山の名探偵"こと工藤慎作(2年)やルーキーの山口竣平も力を見せた。さらに、これまで三大駅伝で出番のなかった3年生の藤本進次郎が好走するなど、新たな戦力も台頭してきた。また、中間層の底上げが大きな課題だったが、夏をBチームで過ごした選手たちにも好記録が相次いだ。
「上のほうの選手がある程度走れるのは、練習ができていたのでわかっていました。それよりも下のほうの選手が思った以上によかった。
ここまでは本当に出来すぎなぐらい。うまく練習ができていると思うので、ここからはできる限り勝つための調整をしていかなきゃいけません」
この日、レースには出場せずに仲間に声援を送り続けた駅伝主将の伊藤大志(4年)は、仲間の力走に手応えを口にしていた。
昨年度は伊藤、石塚陽士(4年)、山口智の3人が早稲田のエース格と見られていたが、昨年度の後半からは山口が頭ひとつ抜け出す活躍を見せるようになった。山口智は今年の箱根駅伝では花の2区で1時間6分31秒(早大の2区歴代最高記録)と好走し、クロスカントリー日本選手権では日本一にも輝いている。
「昨年シーズンや今年の上半期を見ていると(山口智から)少し遅れをとってしまいましたが、チーム内で張り合わなければいけないライバルだと思っています」
伊藤も、山口の強さを認めている。
山口が学生の枠を超えた活躍を見せる一方で、伊藤も着実に力をつけてきた。大きなトピックとなるような活躍こそ少ないものの、シーズンを通して安定して高いレベルでパフォーマンスを発揮し続けている。
そのなかでも伊藤にとってハイライトとなったのは、4月の織田記念5000m。これまでの記録を一気に約7秒も塗り替え、2年ぶりに自己記録を更新した(13分28秒67)。
「大学2年生以来の自己ベストを更新することができたので、そこは一番評価できる」
花田勝彦駅伝監督の学生時代の記録をも抜いて早大歴代4位にランクイン。ちなみに歴代トップ5に名前を連ねているのは、竹澤健介、大迫傑、渡辺康幸、伊藤、花田と、伊藤を除いて全員がオリンピアンになっている。もちろんシューズの進化もあるので単純な比較はできないが、価値のあるタイムと言っていい。
「今年のレースは厳しいコンディションのなかでもうまくまとめることができたし、これまで以上にラストスパートのキレを出すことができた。タイムがあまり出なかったレースでも、次につながる走りになったのはすごく大きかったと思っています」
伊藤はこう、今季の前半戦を振り返る。
決して状態がよい時ばかりではなかったが、どんな状況でも大崩れすることなく、きっちりとまとめた。ただ、安定感が増した一方で、「最後に競り負けてしまう場面が何回かあった」と課題も口にしている。そこはなかなか修正できなかったが、今後も引き続き、課題克服に取り組んでいく。
とはいえ、伊藤のような安定感のある選手がいるからこそ、駅伝ではエース山口智の爆発力が生きてくるだろう。
【駅伝主将としての責務を果たして】
駅伝主将としての責任を強く意識し、チームを鼓舞してきた
「今年は伊藤がすごくいい」と指導する花田駅伝監督も伊藤を高く評価している。
特筆すべきは、そのキャプテンシーだ。
集団走やポイント練習(強度の高い重要な練習)では積極的に先頭を引っ張った。また、自身が出場していないレースでも、声を張り上げてチームメイトに声援を送った。
「キャプテンだからこそ、やらなきゃいけない部分、自分の姿勢を見せなきゃいけない部分は絶対にある」と言い、強烈なキャプテンシーでチームを鼓舞し続けた。
そして、9月の日本インカレに出場したことも、駅伝主将としての責務を果たすためだった。
日本インカレは学生日本一を決める大会だが、こと長距離種目に関しては、近年、強豪校の主力選手は回避する傾向にある。駅伝シーズン開幕直前で、どの大学も夏合宿明けということもあり、万全なコンディションで大会に臨めないという事情があるからだ。伊藤もしかり。合宿が続いている最中だった。
それでも、この大会に出場する決断をした。
「競走部として、トラックでも勝たないといけないと思っていました。花田さんと(日本インカレに出場するか)相談した時から、僕は出るつもりでした。日本インカレに調子を合わせるわけではなく、夏合宿では練習を積んできましたが、しっかりと戦わなきゃいけないと思っていました」
レースは、3000mすぎから創価大学のスティーブン・ムチーニ(2年)との一騎打ちになった。3500mすぎからじりじりとスティーブンに遅れをとったものの、草刈恭弓(東海大学3年)らの猛追から逃げきって、2位でフィニッシュし、日本人トップの座は守った。
「表彰台と日本選手トップは確実に取っていかなきゃいけないと思っていたので、それができてひと安心。第一目標はクリアできました」
100%と言えるコンディションではなかったものの、"最低限"の結果は示した。だが、ムチーニについていけなかったことについては「残り1500mぐらいで離れたのはもったいなかった。もうちょっとつかなきゃいけないレースだったと思います」と反省を口にしていた。これもまた、駅伝シーズンに持ち越す課題だ。
昨年度は、出雲駅伝1区4位、全日本大学駅伝7区6位と主要区間で堅実な走りを見せながらも、箱根駅伝は直前にインフルエンザを発症し走ることができなかった。チームは総合7位に入り、2年連続のシード権を獲得したが、伊藤自身は悔しさを味わった。学生ラストシーズンの駅伝は、その雪辱を果たす舞台になる。
「僕個人としても、4年間のなかで一番いい夏を過ごせた。満足した練習が積めています。チーム全体を見ても、僕が早稲田に入ってから一番よい仕上がりのチームになっていると断言できる。駅伝シーズンはいつも以上に戦っていけるという期待というか、自信があります」
伊藤自身もチームも、充実した夏を経て、いよいよ駅伝シーズンを迎える。
今季の早大は大学三大駅伝で3位以内を目標に掲げている。早大は、学生駅伝三冠を成し遂げた2010年度シーズンから駅伝での優勝から遠ざかっているが、再び頂点に立つための足がかかりを築くつもりだ。