スポーツ競技で勝つためには、心身の充実が必要だ。フィジカル、メンタルともに相手を上回ってこそ、勝利を手にできる。もしも…
スポーツ競技で勝つためには、心身の充実が必要だ。フィジカル、メンタルともに相手を上回ってこそ、勝利を手にできる。もしも、どちらかが欠けていたなら、諸刃の剣となって自分に襲いかかってくることもある。そうした厳しい現実を突きつけられた「サッカー秋の陣」について、サッカージャーナリスト後藤健生が考察する。
■徹底した守備を特徴とする町田が「大苦戦」
FC町田ゼルビアは、徹底した守備を特徴としたチームだ。リトリート(相手にボールを奪われた場合、すぐに自陣に戻って、守備ブロックを形成して守ること)した守備とハイプレスを使い分け、高い位置でボールを奪ってショートカウンターを仕掛ける。そして、勝つためには何でもする。
一方の川崎フロンターレは、ボール・ポゼッションにこだわるチームだ。ショートパスを使って、ボールを握り続けることによって相手陣内にスペースを作り、そのスペースに選手たちが次々と入り込んで攻撃を続ける。
だが、町田戦では川崎がオールコートでプレッシャーをかけ続け、町田のパスを分断した。
川崎が押し込んだ展開の中、町田はサイドバックの杉岡大暉からのボールを藤本一輝が追って、落としたボールをベテランの中島裕希が叩き込んで13分に先制した。見事なカウンターだった。そして、その後、しばらく町田がボールを握る時間ができたが、20分を過ぎると再び川崎が流れをつかみ、川崎の勢いは試合終了まで続いた。
■ポゼッション型の川崎に対する敗戦の「意味」
28分には左サイドでマルシーニョにボールが渡った瞬間にSBの三浦颯太がボックス内に走り込んで、マルシーニョからのボールをそのまま決めて同点とする。さらに、38分には町田のGK谷晃生のミスキックを脇坂泰斗がワンタッチで山田新にパス。受けた山田がボックス外からループシュートを決めて川崎がリードした。
後半に入っても、48分に走り込んだエリソンがGKの谷に倒されて得たPKをエリソンが自分で決めて3対0とし、さらに71分にも三浦からの縦パスに合わせた山本悠樹のクロスにマルシーニョが合わせて4対1とした。
相手のミス絡みの得点もあったが、これも川崎のハイプレスがもたらしたもの。
町田としては、自分たちのストロングポイントであるハイプレスを、逆に川崎にやられてしまったもので、結果も内容も完敗というゲームだった。
町田にとって、ポゼッション型の川崎に対する敗戦は、カウンタープレス型の広島に敗れた試合とは異なった意味を持つように感じた。
こうして、黒田剛監督就任後、初めての連敗を喫した町田は、首位の広島との勝点差が6に開いてしまった。自慢の守備が攻略される試合も増えてきているのも心配だ。
そんなチーム状況について、試合後の記者会見で黒田監督が質問に答えて語った。
「夏の移籍で選手が補強されたが、ケガ人も出てメンバーが変わってきたこともあって、チーム・コンセプトが徹底されていない」と言うのだ。
黒田監督のコメントには計算づくでなされるものが多い。そんな中で、この発言は、もちろんぼやきのような物ではなかったが、かなり本音が出ているように感じた。
■「ウノ・ゼロ」を目指す戦い方ではなくなった?
昨シーズン、J2リーグを戦っているときから、今シーズンの前半までは町田は挑戦者として必死に戦っていた。最優先は守備の意識を高く持って失点をしないこと。そして、強力なFWを使ったカウンターで、あるいは、ロングスローを含むセットプレーを工夫して点を取って「ウノ・ゼロ」を狙った勝負をする。危険な状況になれば、割り切ってファウルでも止める……。
その勝負にこだわった戦い方に対して批判の声もあったが、とにかく「勝利のために」という哲学の下で戦い続けた。それが、町田を首位に引き上げることになった。
だが、最近の町田は、「ウノ・ゼロ」を目指す戦い方ではなくなっている。
もちろん、守備意識は高いが、攻めるときにはしっかりボールを握ってビルドアップもする。
町田が首位を維持できたのは、的確な補強によるものでもあった。
10月のワールドカップ予選には負傷中の中山雄太は呼ばれていないが、それでも町田からはGKの谷とDFの望月ヘンリー海輝の2人が招集されている。複数人が呼ばれたのは、Jリーグでは町田だけだ。
さらに、今回は招集外だったが相馬勇紀もいるし、呉世勲(オ・セフン)は韓国代表、ミッチェル・デュークはオーストラリア代表だ。
つまり、今の町田は戦力的にもJリーグ最強と言ってもいい。
しかし、戦力が充実すればするほど「守って勝つ」というチーム・コンセプトだけで戦うわけにはいかなくなる。より攻撃的にプレーすることが可能になってきたのだ。当然、選手たちの意識も変わってくるだろう。