5日のJ1第33節・アルビレックス新潟戦で4-0と圧勝し、リーグ7試合ぶりの白星を飾った鹿島アントラーズ。その翌6日の夕方、「ランコ・ポポヴィッチ監督とミラン・ミリッチ・コーチを解任し、吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)も双方合意の…

 5日のJ1第33節・アルビレックス新潟戦で4-0と圧勝し、リーグ7試合ぶりの白星を飾った鹿島アントラーズ。その翌6日の夕方、「ランコ・ポポヴィッチ監督とミラン・ミリッチ・コーチを解任し、吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)も双方合意のもと退任することになった」という公式リリースが一斉に流れ、日本サッカー界に激震が走った。

 33試合を終えた時点で鹿島は勝ち点53の4位。首位を走るサンフレッチェ広島とは13ポイント差で、残り6という試合数を考えると、リーグタイトル獲得はかなり険しくなった。
 すでにYBCルヴァンカップ天皇杯を落としている彼らにとって、J1リーグ戦は最後の砦だった。それも難しくなったことで、「国内タイトル8年無冠」が現実になりつつある。今季就任したポポヴィッチ監督と吉岡FDに求められたのはタイトルという結果だけ。その目標達成が困難になり、一気に責任問題が表面化したのだろう。
 今季のここまでの戦いを振り返ってみると、序盤は柴崎岳の長期離脱というアクシデントに見舞われながら、知念慶のボランチコンバートという新たな試みが成功。大卒新人の濃野公人のブレイク、昨季まで出たり出なかったりだった名古新太郎、師岡柊生らの成長も追い風になり、19試合終了時点では勝ち点37の2位につけていた。

 トップの町田ゼルビアとは2ポイント差。折り返しの段階では十分に優勝を狙える位置にいた。吉岡FDも「2位というのは今後の伸びしろを含めてまずまずというところ。監督が変わり、新体制でスタートしたチームとしては悪くない位置にいると考えている」と前向きに語っていた。
「攻撃面では(鈴木)優磨1人だけに頼ることなく、いろんな選手が関わってゴールできる集団になってきた。一方でゲームコントロールという課題に直面した。勝てる試合を勝ち切れないのはチームとして大きな課題」とも指摘。勝負強さを磨き上げていけば、後半戦により一層、勝ち点を上積みして、最終的には頂点に立てるという目算がある様子だった。

■選手から出た「相手に戦い方を研究されている」

 ところが、佐野海舟(マインツ)が移籍し、8月に知念が約1か月間離脱したことで、中盤の守備力が目に見えて低下した。加えて、鈴木優磨に代わる得点源として期待されていたチャヴリッチも長期離脱。8月以降の鹿島は同じような陣容が続き、代わり映えのしないゲームを繰り返すことになった。
 早川、濃野、植田直通関川郁万安西幸輝の守備陣は固定で、連戦になると疲労困憊に。「相手に戦い方を研究されている」と多くの選手が口を揃えたように、濃野も前半戦のようにゴールが奪えなくなった。鈴木優磨へのマークも厳しくなり、得点の形を作るのが容易ではなくなった。

 それ以外にも、選手層の薄さ、チャヴリッチとターレス・ブレ―ネル以外の外国人が適応の遅れ、柴崎岳の不調といった問題点も散見され、ポポヴィッチ監督も有効な策を見いだせないまま、時間だけが過ぎていく形になってしまった。
 彼らにとってダメージが大きかったのは、J2降格危機に瀕しているジュビロ磐田湘南ベルマーレ、今季昇格組の東京ヴェルディに苦杯を喫し、苦境に瀕している浦和レッズ柏レイソルにもドローとポイントを稼げなかったこと。9月25日の天皇杯準々決勝では神戸戦に力の差を見せつけられ、0-3で完敗。これも指揮官解任・FD更迭の流れに拍車をかけたではないか。

■発表された新人事

 さらに追い打ちをかけるように、濃野が右ひざを負傷。今季絶望と見られる大ケガを負った。そこでポポヴィッチ監督は前日の新潟戦で鹿島伝統の4バックではなく3バックを採用。新たな活路を見出したと思われた。そんなタイミングだったからこそ、指揮官とFDの更迭というのはショッキング。多くの関係者やサポーターも「なぜ今なんだ」という疑問を抱いたことだろう。クラブ側にその説明責任があるのは間違いない。
 ただ、いずれにしても、今の鹿島はまだAFCチャンピオンズリーグACL)出場圏内の3位以内を狙える位置にいる。3位・町田との差は6で、12月8日に最終節に直接対決が残っていることを考えると、まだまだ目標が完全になくなったわけではない。
 クラブは10月の代表ウイーク期間中に新たな人事を発表。中田浩二強化担当の新FD抜擢、中後雅喜コーチの監督就任、本山雅志アカデミースカウトと羽田憲司・パリ五輪代表コーチのコーチ就任が決まった。これが選手・サポーターの動揺を最小限にとどめる道筋になるのか。まずはそこに注目したいものである。
(取材・文/元川悦子)
(後編へつづく)

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