9月のスプリンターズSを皮切りに、今週から秋華賞、菊花賞、天皇賞・秋と3週連続GIが行われる。その後も、エリザベス女王杯…

9月のスプリンターズSを皮切りに、今週から秋華賞、菊花賞、天皇賞・秋と3週連続GIが行われる。その後も、エリザベス女王杯から年末のホープフルSまでノンストップだ。上半期のGIを振り返ると、トレンドは“GI初制覇”だろう。岡田稲男厩舎のGI初制覇、ダノックス・野田順弘オーナーのダービー初制覇および安田翔伍厩舎はGI初勝利で、日本ダービー最年少優勝。さらに全てのGIレースで異なる騎手が勝利し、“GIジョッキー”の仲間入りを果たした騎手も少なくない。

ここでは、秋のGIシリーズを「メモリアル・記録」から読み解いていく。

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■スプリンターズSも“GI初制覇”

秋のGIシリーズは開幕戦のスプリンターズSから贅沢すぎた。前年覇者、春の王者、サマースプリント王、さらにセントウルSの勝ち馬に香港勢と考えうる最高ランクに近いメンバー構成。制したのは高松宮記念で1番人気だったルガル。ピューロマジックがつくる前後半600m32秒1-34秒9の猛ペースを3番手から抜け出した。

そのルガルの勝利は高松宮記念以来となる中26週でのもの。これより長い間隔でのGI制覇は6例のみ。

1987年菊花賞・サクラスターオー(中28週)、1993年有馬記念・トウカイテイオー(中51週)、2001年エリザベス女王杯・トゥザヴィクトリー(中32週)、2021年安田記念・ダノンキングリー(中30週)。ほかにJRAの競馬場で行われたというくくりで、2011年マイルCS南部杯のトランセンド(中27週)、障害では2018年中山大障害のニホンピロバロン(中35週)。

以上6例のうち、前走10着以下だったのはルガルを含め3頭。大敗後の長期休養明けでも、あえてGIにぶつける実績馬は甘くみるべきではない。

そして下半期GI初戦でも、西村淳也騎手がGI初制覇を果たした。この流れは秋も続きそうだ。

■ダービー・菊の2冠は半世紀なし

トレンドから見ると、秋華賞はステレンボッシュ、チェルヴィニア以外が勝つことになる。騎手はキャリア初制覇となると、コガネノソラの丹内祐次、チルカーノの鮫島克駿、ラヴァンダの岩田望来(JpnIあり)の3名が候補だ。

ステレンボッシュが勝てば、桜花賞との二冠達成。秋華賞創設以降では、1998年ファレノプシス、2001年テイエムオーシャン、07年ダイワスカーレットに次ぐ4頭目となる。三冠完走となると、ファレノプシス以来26年ぶりだ。チェルヴィニアが勝つと、オークスとの二冠だが、これは1997年メジロドーベル、2006年カワカミプリンセス、13年メイショウマンボ、15年ミッキークイーン以来5頭目。三冠完走は3頭目となる。

菊花賞ではダノンデサイルがダービーとの二冠をかける。三冠の歴史は古いが、ダービーとの二冠は1943年クリフジ、73年タケホープの2頭だけ。ダノンデサイルは51年ぶりの記録に挑む。昨年はタスティエーラがこの記録がかかる中、2着に敗れたが、実は二冠を決めた2頭は皐月賞に出走していない。ゲート入り寸前で除外になったダノンデサイルはこの法則に合致する。また、ここを勝てばダノックス・野田順弘オーナーは菊も初タイトル。横山典弘騎手は、自身が保持する「中央競馬GI最年長勝利記録」を更新することになる。

一方、ダービーを取り消したメイショウタバルは神戸新聞杯を逃げ切り、クラシック最終戦へ弾みをつけた。菊花賞を逃げ切ったのは1959年ハククラマ、98年セイウンスカイ、2021年タイトルホルダーの3頭のみ。ハククラマとセイウンスカイは保田隆芳元騎手と保田一隆調元教師の親子、セイウンスカイとタイトルホルダーは横山典弘騎手と武史騎手の親子と、菊花賞逃げ切りには不思議な血のつながりがある。

同馬を管理する石橋守調教師は騎手時代、メイショウサムソンで三冠に挑み、4着に敗れた。調教師として忘れ物をとりにいく。もちろん、メイショウタバルが逃げないという展開もあり得るが、父ゴールドシップは菊花賞で3コーナーから一気にマクって抜け出した。荒っぽいレースに強いのは父譲りで、血の再現なるか注目したい。

■古馬GIはマイルCSで“史上初”の可能性

天皇賞・秋はドウデュース、リバティアイランド、タスティエーラ、ソールオリエンス、ジャスティンミラノが出走予定で、3世代クラシックホースが激突する。過去10年では5歳5勝、4歳3勝、3歳2勝。5歳馬はGI初制覇だったスピルバーグを除く4頭全てが、その年にGIを勝っていた。今年未勝利のドウデュースは秋緒戦から正念場だろう。

牝馬は2000mになった1984年以降、6勝。このうち4歳は4勝。エアグルーヴ、ウオッカ、ブエナビスタ、アーモンドアイとすべて東京芝2400mのクラシックを制していた。リバティアイランドもその資格があり、王手をかける存在になるか。また、牝馬三冠馬で牡馬相手にGIを勝つとなると、ジェンティルドンナ、アーモンドアイに続く3頭目となる。

前年ダービー馬による4歳での天皇賞・秋制覇となると、1984年以降で84年ミスターシービー、99年スペシャルウィーク、2007年メイショウサムソン、08年ウオッカ、18年レイデオロの5頭。ダービー以降、勝ち星がない馬はいない。着外が続くタスティエーラは挽回できるだろうか。

3歳代表は皐月賞馬ジャスティンミラノ。皐月賞馬の同一年、天皇賞・秋勝利は、2021年、コントレイルとグランアレグリアを下したエフフォーリアのみ。ダービー2着はジャスティンミラノと同じで、重なるものがある。

11月最初のGIはエリザベス女王杯。古馬解放後の1996年以降で連覇達成はメジロドーベル、アドマイヤグルーヴ、スノーフェアリー、ラッキーライラックの4頭。ブレイディヴェーグが勝てば、3歳→4歳の連覇となる。これはアドマイヤグルーヴ、スノーフェアリー以来13年ぶりだ。

連覇といえば、ナミュールのマイルCSも。これまで連覇した馬はニホンピロウイナー、ダイタクヘリオス、タイキシャトル、デュランダル、ダイワメジャー、グランアレグリアの6頭。牝馬による連覇はグランアレグリアしかない。NHKマイルC覇者によるマイルCS制覇は、意外にもミッキーアイルが5歳時に勝ったのみで、近年ではシュネルマイスターも2、5、7着と勝てなかった。ジャンタルマンタルはレース史上初の同一年制覇を目指す。同3歳馬・アスコリピチェーノは京成杯AHを快勝して好発進。2歳女王のマイルCS制覇が叶えば、こちらもレース史上初だ。

ジャパンC以降の展望は次回の後編に続く。秋のGIシリーズを楽しむうえでも、「メモリアル・記録」にぜひ注目していただきたい。

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◆著者プロフィール

勝木淳 競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬ニュース・コラムサイト『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)などに寄稿。