ラリーとは、ドライバーだけでなく助手席に「コ・ドラ」と呼ばれるコ・ドライバー(ナビゲーター)が同乗している競技である。雑木林の中を猛スピードで駆け抜けるイメージが強いが、実際に直近でそのスリルを体感できるのがラリーの醍醐味だろう。筆者がもっ…
ラリーとは、ドライバーだけでなく助手席に「コ・ドラ」と呼ばれるコ・ドライバー(ナビゲーター)が同乗している競技である。雑木林の中を猛スピードで駆け抜けるイメージが強いが、実際に直近でそのスリルを体感できるのがラリーの醍醐味だろう。筆者がもっているラリーの知識はこの程度である(滝汗)。
そんなラリー素人丸出しの駆け出し自動車ライター、黒木美珠が初めて目の当たりにした「ラリー北海道」の取材記をお届けしたい。
ラリーについては読者の皆様の方がかなり精通されていることだろう。私がここでラリーの理論をあれこれ語っても意味がないだろうから、完全に初心者目線で感じたラリーの魅力に焦点を当ててお伝えしたいと思う。
2024年9月6日金曜日
早朝6時55分羽田発のANA4761便で帯広に降り立った。
天気は快晴。さすが晴れ女(自画自賛)。
レンタカー屋でスバル・インプレッサを借り、公式車検が行われている北愛国交流広場へ向かう。車窓には雲ひとつない青空が広がり、北海道の大地を包んでいる。
ちなみに些細な話だが、メディア関係者のクルマがスバル車だらけで驚いた。インプレッサ、アウトバック、フォレスター、XVなど種類も豊富だ。雪のないこの時期でも四駆が人気なのか、それともレンタカー屋がスバル車を多く揃えているのだろうか。そんな疑問をベテラン編集者に投げかけてみたところ、「以前、レンタカー屋とラリー北海道がコラボしてスバル車のレンタカーが増えたんだ。それにラリーの影響で一般車でもスバル車が多いんだよ」と教えてくれた。
なるほど、地域全体がラリーを好意的に受け入れてくれていると感じた。
北愛国交流広場に到着すると、すでに各チームは作業に取り掛かっていた。SUPER GTのような固定のピットはなく、翌日の本番に向けた公式車検を行っていた。大きな公園の広場に設置された各チームのテントでの整備風景は、サーキットレースに見慣れた筆者には非常に新鮮に映った。
テントこそ簡易的だが、エンジニアたちがフロアジャッキを使って手動で車を持ち上げ、素早く作業を行う姿は、選手以上にかっこよく見えた。
その後、ラリードライバーたちの小学校訪問に同行取材。地域貢献活動の一環として3年ほど続けている取り組みだそうだ。
子どもたちは目を輝かせ、無邪気に質問をしており、その純粋な姿がとても微笑ましかった。
最後には将来ラリードライバーになりたいと手を挙げる子供たちが多く、私も思わず手を挙げたくなった。
次に、会場を帯広駅北多目的広場へ移し、ラリーショーとセレモニアルスタートが行われた。
帯広駅前のひと区間を通行止めにし、ラリーカーが並ぶ様子は、まるで街中で行われるグリッドウォークのようだ。
熱狂的なラリーファンはもちろんのこと、一般の通行人も興味深げに見つめていたのが印象的だった。普段、レースでは入場料を払って会場に足を運ばなければ間近で車を見ることはできないが、このように身近でラリーカーを見ることができるイベントは、新たなファンを獲得する上で効果的だと感じた。
いよいよセレモニアルスタートが始まる。国歌斉唱に続き、大会オリジナルソングの生演奏が行われた。このような独自の演出があるのは驚きだ。
無事に金曜日のイベントが終了し、尊敬する自動車ジャーナリストであり、ラリードライバーとしても活躍する清水和夫さんにお話を伺う機会があった。そこで、ラリーの難しさについて聞いてみた。
「まず、ラリーとレースの両方を経験してきた中で感じる違いは、レースは目の前の敵が見えることです。例えば、ピットから『星野さんに何秒負けているぞ』とか言われると、具体的に分かるんです。でも、ラリーは単独で走るので、相手がまるで潜水艦のように見えない。結局は自分との戦いになるんです」
清水さんは、ラリーでの挑戦についてさらに語る。
「『このくらいでいいだろう』と攻めたつもりでも、蓋を開けてSSのタイムを見たら、ガーンと負けていたりする。だからといって、自分の実力以上のことをやろうとすると事故に繋がる。だから、自分の限界、95%の力がどこにあるのかを常に意識しながら走っています。それを超えたくはないですからね。ラリーは、レース以上に自分との戦いなんです」
その言葉に対し、私は「自分との戦いの中で、何か支えになっているものはありますか?」と尋ねてみた。
すると清水さんは微笑みながら、「鋭い質問ですね。うちの女房からの言葉が支えになっています。彼女は『気をつけてね』というよりも『しっかり踏んでこいよ』と送り出してくれるタイプで、昔からこういう仕事をしていることもあり、常に背中を押してくれます」と語ってくれた。
その強いパートナーシップが、清水さんの挑戦を支える大きな力になっているのだろう。
2024年9月7日土曜日
曇り時々晴れ。いよいよ本番がスタートする。
朝7時、帯広駅前のホテルを出発し、陸別オフロードサーキットに到着。
気温は16度。さすが日本一寒い町、陸別だ。
筆者は半袖Tシャツで来ようとしていたのだが、防寒着を持っておいでと言ってくれた編集部のアドバイスに感謝した。関東の暑さをまだ引きずっていた自分を反省。
ラリー北海道は全日本ラリー選手権全8戦中で2戦しか開催されない未舗装路(グラベル)のコースだ。ラリー初心者の私にとって、砂埃を巻き上げながら林道を駆け抜ける姿は「これぞラリー!」というイメージそのもの。テンションが上がらないわけがない。
会場は山の中にあり、まずSS2(RIKUBETSU LONG 1)は、山を駆け降りてくる車両をパノラマビューできる観客席から観戦。斜面を下る姿がはっきり見えるので、ラリー初心者にはピッタリのポジションだ。砂埃をたてながら猛スピードで斜面を降りてくる姿は圧巻だ。
しばらく見ていると、何十台も同じコースを走るので、ライン取りやブレーキングポイントの違いなど選手のドライビングの差が少しずつ見えてくる。「この選手、めちゃくちゃ上手いな」とか「少し慎重に走ってる?」なんて考えてみたり。
ものすごい音を立てて走る車もあれば、ハイブリッドやPHEVの静かな車もあり、ラリーの多様性に驚いた。
悪路をものすごいエンジン音を立てながらぶっ飛ばしてこそラリーだと思い込んでいたが、いろんなラリーの形があるんだなと新しい発見だ。
次は、SS5のウォータースプラッシュ(川超え)を見に、場内シャトルバスで移動。
SS5の最初の5台くらいまでは散水車が水をバシャバシャと飛ばしていたが、途中で水を供給するポンプのエンジンが故障! え・・・マジか。
そんなトラブルがあっても観客の方からブーイングはない。むしろ、その状況すら楽しんでいる様子。これがラリーの醍醐味なのか? 観客が他のモータースポーツよりも寛大で辛抱強いような印象を受けた。
SS5のゼッケン90番台の車両が通過する頃にようやくポンプが復活し、無事に水が出た!
観客からは大歓声が上がり、車が大きく水を跳ね上げるたびにさらに盛り上がる。なんだかD1グランプリの「魅せる走り」にも通じるものがあると感じた。やっぱり見応えのあるシーンがあると盛り上がる。
こうして、筆者のラリー初心者の観戦初日は大興奮のうちに終了。このユニークで熱狂的な競技、ハマりそうだ。
2024年9月8日日曜日
雲ひとつない快晴。
朝6時半にホテルを出発し、まずはSSS池田へ移動。
ここは使わなくなった野球場を利用した0.5kmのショートコースで、昨年から新設されたという。野球場の観戦席からラリーを観戦するというユニークなスタイルだ。
短いコースながらも、パイロンの間を縫うように車体を巧みに操って走る車は大迫力だった。地元の観客も多く、地域全体でお祭りのように楽しんでいる様子が見受けられた。砂埃を上げながら駆け抜ける車両が通るたびにワッと歓声が上がった。
その後、北愛国交流広場へ移動。サービスパークにて清水和夫さんのブースの隣にいらっしゃった天野智之さんとお話しする機会があった。全日本ラリー最多チャンピオン記録を持つという、まさにレジェンドのような存在。筆者はドキドキしながら名刺交換をし、「今回、完全にラリーを知らない赤ちゃん状態で参りました。初心者から見たラリーとは、といった視点で記事を書かせていただきます」と、ビビリ散らかしながら自己紹介した。
すると天野さんは笑顔で「そういう立場はすごくありがたいです。現在、自動車ジャーナリストやライターをしている方も、ラリーについては知らない方が多いです。まずは知ってもらえるのが嬉しいし、それを正しく発信してくれる方がいるのはとてもありがたいですね」と言ってくださった。
その言葉に感激した。ラリー界の頂点に君臨する人物が、こんな新参者にも暖かく対応し、話を聞いてくれるなんて。天野さんはその圧倒的な実績にもかかわらず、とてもフレンドリーで、話をする時間を取ってくれた。
また、清水さんも天野さんのことを尊敬しており、彼をラリーの目標としているとのことだ。
レジェンド同士が互いにリスペクトし合う姿に、筆者は深く感動した1日となった。
初めてラリーをスタートからフィニッシュまで観戦したが、ラリーという競技は、コ・ドラの存在も重要だが、最終的には自分との戦いなのではないかと感じた。一台ずつ順番に走るため、自分がライバルより速かったのか遅かったのかわからないという点も、ラリーの面白さだ。
そして女性ドライバーや女性コ・ドラが多いのも意外で、「私もいつか・・・」なんて気持ちが湧いてきた。
今回の取材で終わらせるのではなく、これからもラリーを追いかけ、その先に、いつか自分自身もラリーに参加する未来を描けたらと願う筆者である。
(Miju Kuroki)
黒木美珠/Kuroki Mijyu
1996年生まれの自動車系YouTuber、自動車ライター、そして自動車インフルエンサー。幼少期からクルマに親しみ、SUPER GT観戦や、祖母のホンダS2000でのドライブを通じてクルマへの情熱を育む。洗車専門チャンネルを立ち上げたことをきっかけに、約95日間の車中泊での日本一周旅や、メーカー試乗会での新車紹介動画など、クルマに関わる幅広い内容を発信。クルマの性能だけでなく、作り手の想いも伝えるジャーナリストを目指している。
黒木美珠のAUTO SOUL JAPAN 旧みじゅ【車と洗車ちゃんねる】
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