前回の箱根2区区間3位の平林は、学生最後のシーズンにすべてをかける photo by AFLO10月14日の出雲駅伝から大学駅伝シーズンがいよいよ始まる。開幕が迫るなか、箱根駅伝の初優勝を狙う國學院大の前評判がすこぶる高い。冬のロードレース…


前回の箱根2区区間3位の平林は、学生最後のシーズンにすべてをかける

 photo by AFLO

10月14日の出雲駅伝から大学駅伝シーズンがいよいよ始まる。開幕が迫るなか、箱根駅伝の初優勝を狙う國學院大の前評判がすこぶる高い。冬のロードレース、春のトラックレースで主力が結果を残し、9月20日時点で10000mの上位10人平均タイムは青山学院大、駒澤大の2強を抑えて、トップの28分21秒89。

注目の新興勢力をけん引する4年生の平林清澄にエースの矜持、キャプテンの果たすべき役割などを聞いた。

國學院大・平林清澄インタビュー 前編

【画面越しに感じるエースの強さ】

 選手寮3号室の大きなテレビ画面には、毎日のように陸上の映像が流れている。

 國學院大の平林は自ら出場したレースを漏れなく保存し、フォーム、レース展開、コースなどさまざまな視点を持ってチェックしているという。大学駅伝デビューとなった3年前の出雲駅伝から今年1月の箱根駅伝まで、"皆勤"の三大駅伝は何度見たことか。見返すたびに記憶が鮮明によみがえる。出雲路、伊勢路(全日本大学駅伝)、箱根路と同じエース区間で競い合ったライバルの先輩たちは、いつも強かった。画面越しでも思い知らされる。

「1年生のときから一緒に走ってきた駒澤大の田澤廉さん(現トヨタ自動車)、青山学院大の近藤幸太郎さん(現SGホールディングス)はすごかった。自分が描くエース像は、あの人たちのような存在。ずっと考えていたんですよ。エースと呼ばれる条件って、何なのかと。やっぱり、どの区間を走っても、どんなコンディションでも結果を残すこと。絶対に外さないこと。その選手が走れば、チームが勝てるという信頼感と安心感を持っていないといけない」

 國學院大の先輩たちにも、共通するところはある。すぐ頭に浮かぶのは、2年前に主将を務めた2学年上の中西大翔(現旭化成)。特にラストイヤーは、強さが際立った。最後の箱根駅伝だけは故障の影響で欠場したものの、4年生エースの意地を感じ取ることができた。同じ立場になり、ひしひしと感じている。

「4年生になると、結果を残す姿を見せながら、来年以降のチームにも何かを残したいと思うようになりますね。チーム全体にも、より目が向いています。いま僕の背中を見て、青木瑠郁、上原琉翔(ともに3年)、辻原輝、野中恒亨ら(ともに2年)は『平林に負けてられない』と対抗心を燃やし、順調に育っています。ただ、もう一段階レベルアップしてほしいですけどね」

 最終学年を迎えて責任感が増し、考え方も変わってきた。箱根駅伝を見返しても、当時とは違う感情を抱く。前回大会は2年連続して任された『花の2区』で区間3位。エースが集う場所で8人を抜き、順位を17位から9位まで押し上げた。総合5位に大きく貢献した走りと言っても過言ではない。

 レース直後、平林自身も「最大限にできることはしました」と明るい表情を見せていたが、いまは思い出すだけで苦虫をかみつぶしたような顔になる。

「まだやれることはあったと思います。そもそも準備の段階で失敗していますから。大会前にインフルエンザで練習を積めない時期があったので。その時点でやれることをやり切れていない。もっと上に行けただろって。あそこで負けたのは本当に悔しい。エースとしてまだ足りなかった。今季こそは勝つための準備をしないといけません」

 タイムよりも区間順位よりも、最善を尽くせたかどうかにこだわる。前回大会の2区で区間賞を獲得した青学大の黒田朝日(現3年)の名前を出しても、どこか素っ気ない。矢印は内側に向けているのだ。

「自分との勝負なんで。『もっとできた』と思った時点で、僕の中では負け。いま持っている力を最大限に発揮できれば、他の選手には負けないと思っています。今季はそれだけのことをやっています」

【目標達成のための『準備』の追求】

 言葉には自信がにじむ。課題のラストスパートを磨くだけではなく、レース中盤の走力アップに力を注いできた。余裕を持って終盤につなげるための練習は、3年目から意識して取り組んでいる。2月の大阪マラソンでも、その成果が出た。日本学生記録、初マラソン日本記録を塗り替える2時間06分18秒で優勝。学生の域を超え、日本陸上界に大きなインパクトを与えた。

「自分のなかで手応えをつかんだ部分があるので、駅伝にも生きてくるのかなと」

 ただ、慢心は一切ない。7月には10000mのトラックレースに出場し、27分58秒19と好走したものの、同じ学生である創価大のスティーブン・ムチーニ(2年)、中央大の溜池一太(3年)らに先着を許して5位。勝負に勝ちきれなかったこと、そして自らの調整に厳しい目を向ける。

「あのレースは悔しさしか残っていません。最低限の27分台を出したくらいの感じです。正直、準備がうまくいかなかったので。たとえ、あそこで自己ベスト(27分55秒15)を更新しても納得しなかったと思います。レース後に『もっといけた』と話していたでしょうね」

 平林が突き詰めているのは『準備』。最後の調整だけを指す言葉ではない。一つレースが終われば、翌日からは次の準備が始まる。毎日の練習はもちろんのこと、食事、睡眠などの生活面。ケガ予防、体調管理、メンタルの作り方などのコンディショニグまで多岐にわたる。1年時の出雲駅伝、全日本大学駅伝は万全の状態で臨めずに前田康弘監督からも叱責されたという。

「最初はその準備がヘタクソでしたから。4年間かけて経験を積み重ね、少しずつスキをなくすことができるようになっています」

 間もなく、4年目となる駅伝のシーズンが開幕する。9月24日に出雲駅伝のエントリーメンバーも発表され、ますます機運は高まってきた。過去3年の三大駅伝を振り返れば、大きく外したことは一度もない。安定して区間上位で走っているが、物足りないという。区間賞は3年時の全日本大学駅伝7区のみ。

「過去の成績を見ると、悔しいですよ。そろそろしっかり勝たないと。『平林も田澤さん、近藤さんのレベルに行ったんだな』と言われるようになりたいです。あのふたりに共通するのは、チームを絶対に勝たせるんだ、という強い思いが走りににじみ出ていたこと。本人たちがどう思っていたのかはわかりませんが、一緒に走っていた僕はそう感じました。それが本当のエースなんですよ」

 三大駅伝の個人目標は、エースが集う場所で区間賞を総なめにすること。シーズン開幕が待ちきれない様子で、「楽しみです」と声を弾ませる。見据えるのは、箱根駅伝の総合初優勝。キャプテンとして、夏合宿から徹底してきたことがある。

後編に続く

【Profile】平林清澄(ひらばやし・きよと)/2002年12月4日生まれ、福井県出身。武生第五中(福井)→美方高(福井)→國學院大。大学1年時から出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝の学生三大駅伝すベてに出場中。昨シーズンは全日本7区で自身初の区間賞を獲得、箱根では2年連続でエース区間の2区を任され区間3位の走りで8人抜きを果たし、チームの5年連続シード権獲得に貢献した。マラソン初挑戦となった今年2月の大阪マラソンでは、2時間06分18秒の初マラソン日本最高記録、日本人学生記録をマークして優勝を果たした。マラソン以外の主な自己ベストは5000m13分55秒30(2021年)、10000m27分55秒15(2023年)、ハーフマラソン1時間01分23秒(2024年)。