レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のイマノル・アルグアシル監督は、非常に難しい舵取りをしている。 10月3日、ヨーロッ…
レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のイマノル・アルグアシル監督は、非常に難しい舵取りをしている。
10月3日、ヨーロッパリーグ(EL)リーグフェーズ第2節だった。本拠地にベルギーの強豪アンデルレヒトに迎えると、序盤に先制するも逆転されてしまい、反撃及ばず1-2と敗れている。後半は、一気の3人交代でイニシアチブを取って攻め続けただけに、「5-3-2でスタートした布陣自体が失敗だった」という批判も浴びることになる。
しかしながら、アルグアシル監督にも事情がある。
アンデルレヒト戦の前、ラ・リーガのバレンシア戦は、久保建英の大車輪の活躍で、3-0と見事に勝利を収めている。ラ・レアルらしいコンビネーションが生まれ、ひとつのモデルとなるべきだろう。
イゴール・スベルディア、ナイフ・アゲルドのセンターバックは安定していたし、ジョン・アランブル、ハビ・ロペスのサイドバックは全力ファイト。マルティン・スビメンディのプレーメイクはワールドクラスで、ルカ・スチッチ、セルヒオ・ゴメスが左利きのよさを融合させ、ミケル・オヤルサバルは献身的にスペースを作り、アンデル・バレネチェアは得意の突破を見せた。久保が攻撃を引っ張ったのは言うまでもない。
しかしアンデルレヒト戦は、この布陣から、GKアレックス・レミーロを除いて先発を10人丸ごと入れ替えて挑まざるを得なかった。
「中2、3日の試合が続くと、選手はケガも含めて消耗が激しい。レベルの高いラ・リーガで取り返しのつかないことになりかねない」
そんなクラブの結論から、アルグアシルはターンオーバーを取り入れている。ただ、ビッグクラブではないだけに、どうしても"Bチーム"は力が落ちてしまう。だからといって、Aチームを使い続ければ綱渡りの消耗戦となり、最後はすりきれる。

アンデルレヒト戦に後半開始から出場した久保建英(レアル・ソシエダ) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
敗れたなかでも明るい兆しと言えるのは、システムを4-3-3に戻し、久保がピッチに立った後半、試合を圧倒的優位に進めていた点だ。
【後半開始から攻撃が活性化】
久保がラ・レアルの"攻撃のリーダー"であることは間違いない。バレンシア戦はそれを証明していた。アンデルレヒト戦ではリードされた展開でピッチに立って、攻撃を牽引。自らが右サイドでボールをキープし、ドリブルで仕掛けることによって、全体を有利にしていた。
後半直後、久保はオーリ・オスカルソンとのワンツーで、シュートをお膳立てしている。48分には、左からのクロスをブライス・メンデスがヘッドでフリックしたところ、左足ボレーで狙った。いきなり攻撃が活性化した。
久保は右サイドで、セネガル代表ムサ・エンディアイエと何度も1対1になっている。この勝負をクロス、シュートで翻弄。一度は鋭い切り返しでエンディアイエをスライディングで滑らせ、一度は警戒して距離をとってきたところ、ニアを左足で撃ち抜いた。まさに手玉にとる格好だった。
エンディアイエは、信じられないといった顔つきで膝に手をつき、味方には「カバーしろ」と喚いていたが、30分で交代を命じられることになっている。
久保が右サイドを蹂躙することで、左や中央でも、アドバンテージを作ることができた。右サイドから中央をドリブルで横切って、ラインを乱れさせ、ラストパスするのも、彼の得意のパターンだ。そして82分には、左からのクロスを再びメンデスがヘディングでフリックしたところ、今度は右足で狙ったが......。
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、久保に対して両チーム最高の星ふたつをつけていた。地元メディアの評価は変わらずに高い。チームが低調のなか、特筆すべきだ。
「久保を投入し、システムを変えたことで、劇的に改善した。ボールを支配し、攻め立てることができた。ただ、ゴールが遠く......」
スペイン大手スポーツ紙『アス』はそう報じている。足りなかったのは、ゴールだけといったところか。
言うまでもなく、エースである久保には、たとえどんな状況でも(後半からのプレーであっても)、ゴールが求められる。しかし、それを作り出すプロセスを何度も見せられたことは、明るいニュースだろう。開幕直後のチームは、攻撃そのものがノッキングしていただけに、危機的な状況だった。しかし、選手たちは着地点を見つけつつある。
バレネチェアは馬力のある突破が戻ってきたし、オスカルソンはキープ力の高さやポストワークと左足シュートで大器の片鱗を見せつつある。ケガや不調から回復し、新入団選手のプレーがフィットしたら、まだまだ反撃は可能だろう。
ELの戦いは1分1敗となり、厳しいスタートになった。しかし、やりくりをしながらの戦いではこれが精一杯だろう。反撃の兆しが見えた試合を、次につなげられるか。
10月6日、次戦はラ・リーガで強敵アトレティコ・マドリードとの対決になる。久保にとって相性は悪くない相手だ。