GPシリーズ記者会見に出席した(左から)佐藤駿、鍵山優真、三浦佳生、山本草太、友野一希 Photo by KYODO NEWS【MCは宇野昌磨】 9月30日、都内。2024―25シーズン開幕のフィギュアスケート記者会見、壇上ではドレスアップ…


GPシリーズ記者会見に出席した(左から)佐藤駿、鍵山優真、三浦佳生、山本草太、友野一希

 Photo by KYODO NEWS

【MCは宇野昌磨】

 9月30日、都内。2024―25シーズン開幕のフィギュアスケート記者会見、壇上ではドレスアップした選手たちが質問に答えていた。それぞれの衣装で、"新たに始まる"熱気を放ちながら。

 MCは、昨シーズン限りで競技者としてリンクを去った宇野昌磨だった。
 
 宇野は選手一人ひとりの答えを受け、それに自分の体験を重ねながら独特のセンスで返した。生来的な機転の良さもあるのだろうし、現役時代から言い回しは独自で、さらに"人を悪く言わない"人柄もあるのだろう。どれだけタイトルを手にし、どれだけ人気選手になろうとも、少しも気取らず、自然体な振る舞いができる。
 
「めっちゃ、上からになってしまいますけど、昌磨くんも大人になったなって」

 世界女王である坂本花織が宇野のMCぶりを語ると、会場が優しい笑いに包まれた。

 それに対し、宇野は照れたような表情を浮かべる。飾らないキャラクターが、誰からも愛される。同時に、現役選手たちから心底リスペクトされている。 

「失敗ってポジティブな言葉ではないですけど。挑戦に失敗はつきものだと思います。だから、選手の皆さんはマイナスな気持ちで考えないで、全力で失敗してください」

 宇野は2026年のミラノ・コルティナオリンピックに向けたプレシーズンを戦う選手たちに、そうメッセージを送っている。それは宇野自身のスケートへの姿勢そのものだった。常に練習が試合で試合が練習で、その繰り返しの中、成功だけを求めず、スケートそのものを追求し続けた。その戦いは唯一無二で、だからこそ熱狂を呼んだ。

 その宇野がいなくなった初めてのフィギュアシーズンが幕を開けた。

 はたして、ポスト宇野の行方は―――。

 この日の会見、男子は全日本選手権で2位の鍵山優真を筆頭に(宇野が優勝)、同3位の山本草太、同4位の三浦佳生、同5位の佐藤駿、同6位の友野一希の5人が登壇した。

「日本人選手」

 多くの選手がお互いをライバルだとしたが、日本男子フィギュアスケートが世界でもトップであることは間違いない。昨年の全日本では、フリーでは最後、5、6人が次々に高い点数を出し、順位を塗り替えて、かつてない激戦となった。この5人に割って入れそうなのは、世界でもイリア・マリニン(アメリカ)、チャ・ジュンファン(韓国)、アダム・シャオ・イム・ファ(フランス)、ジェイソン・ブラウン(アメリカ)など5、6人だろう。

【「宇野選手の代わりにはなれない」】

「(会見で)みんな顔を合わせることができて、この中で気持ちを高めて、争っていく強い覚悟を持ちました」

 会見に出席した鍵山は、囲み取材でその気持ちを語っている。昨シーズンの世界選手権では2位。4回転を連発したマリニンには敗れたが、4位だった宇野を上回り、必然的に「ポスト宇野」と目される。ただ、鍵山本人はその気負いはない。

「僕が宇野選手の代わりになることはできないです。僕ひとりで(男子フィギュア界を)背負っていくつもりはないですし。日本男子みんなが強くなって、切磋琢磨している状況なので、(人気とは別に)パフォーマンスのところしかできないですけど、少しでもスケートの魅力が伝わったらいいなって思ってやっています」

 実に誠実な答えだろう。実際、一人ひとりが選んだプログラムを滑り切るしかない。

「今までは"思い切りの良さや疾走感で滑る"って感じでしたが。自分もハタチを越えて、これからは大人っぽく、シニアの貫禄のある滑りを目指せたら、と考えています。4回転ルッツは単発ではよくなっているし、フリーではフラメンコ初挑戦で、足の細かいステップだけでなく、手の表現も入れられるように。インターバルトレーニングも取り入れました」

 そう語る鍵山は着々と変貌を遂げ、新たな姿を見せようとしている。王座に最も近いことは間違いない。

 一方、山本も王者の座に肉迫する。ジュニアまでは天才的スケーターとして名声を誇っていたが、足首の骨折でキャリアは急転。しかし懸命に再起をかけ、しばらくは悔しい試合が続くも、一昨シーズン、グランプリファイナルで2位に入り、高らかに復活を示した。

「洗練」

 それを新シーズンの目標に掲げたが、よりコンプリートな演技を目指す。苦難を乗り越えたスケーターは勝負強い。

 そして伏兵は、氷上で格闘する気概を見せる三浦だろう。

「後先考えないジャンプ」(宇野)

 そんな表現もされるほど、少しもブレーキをかけない。その大胆さは彼の代名詞。そうした色がつくこと自体、表現者としては可能性だ。

「自分の場合、割り切ってやったら、割とうまくいくって思っています。成功と失敗の間にあるギリギリの駆け引きの中で。やりたいスケートを前面に出していきたいです」

 三浦は不敵に言う。

 他にも、佐藤、友野は実力者と言える。高橋大輔の背中を追う三宅星南(全日本選手権9位)も、どこまで迫れるか。女子のように十代の選手の台頭が乏しいのは気になるが...。

「フィギュアはひとりでたくさんの人に囲まれてリンクに立ちます。それは孤独で。でも、だからこそ感動させられるのかなって」

 そう言った宇野の極意に近づけるのは誰か。新シーズンが火ぶたを切った。