リングアナ太田真一郎氏インタビュー 前編 PRIDE、DREAM、RIZINと、リングアナウンサーとして約25年間、格闘技の名シーンを彩ってきた太田真一郎氏。煽りVTRから太田アナのコール、選手の入場曲までが脳内で再生できるファンも多いだろ…
リングアナ太田真一郎氏インタビュー 前編
PRIDE、DREAM、RIZINと、リングアナウンサーとして約25年間、格闘技の名シーンを彩ってきた太田真一郎氏。煽りVTRから太田アナのコール、選手の入場曲までが脳内で再生できるファンも多いだろう。試合の重み、選手の背景、ファンの熱量を短いコールに凝縮して届け続けてきた太田アナに、7月28日に行なわれた『超RIZIN.3』を中心に話を聞いた。
『超RIZIN.3』でメインイベントを戦った平本蓮
photo by 東京スポーツ/アフロ
【『超RIZIN.3』は負けた朝倉未来の大会でもあった】
――現在、アニメ『キン肉マン 完璧超人始祖編』(CBC・TBS系)で実況アナウンサー役も務めていますね。
太田 PRIDEやRIZINでリングアナウンサーをやってきた流れで呼んでいただきました。リングアナと実況アナウンサーは別物なのですが、任せていただき本当にありがたいです。リングアナの仕事を振り返ると大変なことも多くて、「やめたい」と思ったこともあるんですけど、頑張ってやってきてよかったです。
――その大変だったこととは?
太田 PRIDE時代のリングアナは、ケイ・グラントさん、レニー・ハートさん、僕の3人でした。僕はリング上のコール以外にも、勝者コールとか試合中の進行のアナウンスも全部やっていたので、とにかくバタバタしていた。だからPRIDEでは、そんなに試合の中身を覚えてないんですよ。読む文章を自分たちで作ったりしていたので、試合を見ている余裕がなかったんです。
――RIZINは20試合を超える大会もありますし、負担は増えたんですか?
太田 いえ、今はリングアナが増えたので、偉そうにふんぞり返って試合を見ていますよ(笑)。
――さいたまスーパーアリーナに4万8117人を集めた『超RIZIN.3』は、太田さんから見ていかがでしたか?
太田 格闘技には、『THE MATCH 2022』のキャッチコピーにもあったように、「格闘技とは敗者を決めるための残酷な決闘である」という側面があります。勝者がいて敗者がいる。『超RIZIN.3』は、まさに負けた朝倉未来選手の大会でもあったんじゃないかなと思うんです。
朝倉選手は引退を表明していて、この先どうなるのかはわかりません。それでも、あえて"朝倉選手"と言い続けたい。本当にゆっくり休んでいただきたいですけど、まだ彼が見せてない何かがある、という思いはありますね。
【平本蓮のコールでまさかの事態】
――メインイベントの朝倉未来vs 平本蓮のリングアナウンサーは太田さんでした。どんな気持ちでリングに上がりましたか?
太田 メインだからといって特別な意識はないですけど、やはり気持ちがいいですね。お客さんが平本選手や朝倉選手を目にして自然と盛り上がってくれるんですが、まるで自分のコールが盛り上げたかのように感じられて、すごく嬉しかったです。
――見ている側からすると、太田さんのコールも会場の熱気を生み出しているように感じます。
太田 そう言っていただけるのは本当に嬉しいです。「ミスはできない」というプレッシャーは少しありますが、選手の背中を少しでも押すことが自分の役割だと思っているので、それを全力でやるのみです。
ただ、『超RIZIN.3』のメインコールではピンチもありました。青コーナーの平本選手をコールする際、『平本~~~』と言った瞬間に目を閉じてしまったんです。次に『蓮』と言おうと思って目を開けたら、平本選手がコーナーにいなかったんですよ。『あれ!?』と思って振り返ったら、反対コーナーの朝倉選手に近寄る彼の姿が見えた。それでターンするような感じで『蓮~~~!!』とコールしたんですが、あれは本当に焦りましたよ(笑)。
――そんなことがあったんですね。まったく気づきませんでした(笑)。
太田 映像を見てもらうと、僕が振り返っているのがわかると思います。コールは、必ずしも選手に向かってしなきゃいけないわけではないんですけど、僕は選手に向かってコールをしたい思いがあるので。
――選手入場の際、太田さんはひとり目の選手をコールしたあと、ニュートラルコーナーに戻りますよね。あの時は何をされているんですか?
太田 基本は「両選手とも頑張れ」という気持ちで入場を見ていますね。リングまで猛ダッシュするキム・スーチョル(初代ONE世界バンタム級王者)を見て「入場早い!」と驚いたり、「タイ・エマリー(オーストラリアの女子格闘家)のダンス長いなぁ。もうそろそろ入ってきていいよ」と思ったりもしています(笑)。
【那須川天心vs武尊も緊張】
――太田さんは、2002年に国立競技場で行なわれた『Dynamite!』(入場者数9万1107人)、東京ドームでの『THE MATCH2022』(入場者数5万6399人)も経験しています。今回の『超RIZIN.3』の入場者数は4万8117人でしたが、そのど真ん中に立っていかがでしたか?
太田 『THE MATCH2022』も空気感は異様でしたが、今回のメインの朝倉選手と平本選手の試合で、平本選手が入場してくる時には青コーナー側が、朝倉選手の時は赤コーナー側が揺れて大声援が起こっていました。その様子を見て、背中にすっと冷たいものが走りましたね。「すごいところに立っているんだな」と。
ただ、4万8117人のお客さんの顔は、リング上からは見えないんです。自分にスポットライトが当たっていて、客席のほうは真っ暗。そして「ただいまより......」と話し始めて、選手に向かってコールするだけですから、意外と気にならないんです。昔、後楽園ホールで『ハッスル』のコールをした時は観客の顔がよく見えて......観客数は(RIZINなどに比べると)少ないですが、あの時は緊張で震えましたね。
――お客さんがよく見えるから後楽園ホールは緊張する、というのは、選手からもよく聞きます。
太田 ただ、先ほど、大きい会場のほうがお客さんが見えなくて「気にならない」と言いましたが、『THE MATCH2022』のメインイベント、那須川天心vs武尊は緊張しました。東京ドームがあんなに異様な盛り上がりを見せる試合は、本当に稀だと思います。「これは間違えられない」という思いが、いつもよりも強かったですね。あの試合のコールをできたのは、すごく幸せです。
(中編:RIZINのリハーサルで出場選手の名を呼ばない理由>>)
【プロフィール】
■太田真一郎(おおた・しんいちろう)
3月20日、神奈川県生まれ。青二プロダクション所属。
テレビ、アニメ、ラジオ、そしてリングアナウンサーとして、さまざまなジャンルで活躍。テレビでは『スッキリ!!』『サンデー・ジャポン』『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』など数多くのテレビ番組のナレーションを担当。アニメ『キン肉マン 完璧超人始祖編』ではアナウンサー役を務めている。リングアナウンサーとしても約25年間にわたりPRIDE、DREAM、RIZINなどの格闘技イベントを盛り上げ、選手やファンの心に響くコールを届け続けている。