リングアナ太田真一郎氏インタビュー 後編(中編:RIZINのリハーサルで出場選手の名を呼ばない理由>>) PRIDE時代からリングアナウンサーを務めてきた太田真一郎氏へのインタビュー。その後編では、リングアナとしてこだわっていることや、最も…

リングアナ太田真一郎氏インタビュー 後編

(中編:RIZINのリハーサルで出場選手の名を呼ばない理由>>)

 PRIDE時代からリングアナウンサーを務めてきた太田真一郎氏へのインタビュー。その後編では、リングアナとしてこだわっていることや、最も印象に残っている大会や試合、約25年間見てきた格闘技の魅力などについて聞いた。


2022年の『RIZIN.40』で行なわれた、RIZINとBELLATORの対抗戦

 photo by Motoo Naka/アフロ

【特に試合前は「絶対に噛みたくない」】

――試合前のコールが終わった後はリング下で試合を見ていると思うのですが、血しぶきなどが飛んでくる時もありますか?

太田 最近はあまりないですが、PRIDE時代は割と多かった気がしますね。最近は早めにドクターチェックが入るようになった印象ですが、昔は血が出てから試合を止めるまでが遅い時もありましたから。『Dynamite!』か、『ハッスル』だったと思いますが、曙さんの血が飛んできたこともありますね。

――太田さんは、いわゆる格闘技の"冬の時代"もリングアナをされていたんですよね。

太田 そうですね。ただ、"冬の時代"はPRIDEの消滅以降を指すと思うんですけど、僕のなかではDREAMも、ハッスルも楽しかったですよ。

――選手のコールはプレッシャーがかかると思うんですが、太田さんが失敗した記憶がありません。

太田 いや~、実はちょっと甘噛みしたりしてるんですよ(笑)。たとえば、2022年の4月16日と17日に2日連続で行なわれた大会では、ある試合で「柔術界の......」と言うところを、「じゅうじゅちゅ界の......」となってしまって。落ち込みましたね。知り合いにはバレてました(笑)。

――やはり、完璧に言いたい思いは強いですか?

太田 もちろんです。勝利した選手がマイクアピールをした後も、その雰囲気に合わせた送り出しのコメントをアドリブで言うことがほとんどなんですが、言葉がまとまらないまま口に出してしまうと、決まって噛むんです。それでも、試合が終わった後はまだいいんですが、試合前の選手紹介では絶対に噛みたくない。

 そこで噛んでしまうと、縁起がよくない気がするんです。「あいつが噛んだから負けた」なんて思う選手はいないでしょうけど、それが少しでも勝敗に影響するのは嫌なんです。だからこそ完璧にやって、選手には100%で試合に臨んでほしい。まあ、「コールでそんなに影響しないよ」と言われればそうなんですけど、僕はそう考えちゃいますね。

【『RIZIN.40』で行なわれた世紀の対抗戦】

――『超RIZIN.3』では、衣装が赤のラメ入りタキシードでした。どのような基準で選んでいるんですか?

太田 その時の自分の気分もありますけど、前の大会で着た色や、大会の規模も踏まえて決めています。実は、PRIDE時代にケイ・グラントさんから「太田ちゃん、タキシード作らない?」と声をかけてもらったんです。

 ケイさんがいつもお世話になっている仕立て屋さんが、香港に住んでいるインド人の職人さんで、「いい機会だ」と思って依頼することにしました。その職人さんがたまに日本に来る時に頼むんですが、それまでは大手の紳士服チェーンで売っているような黒のタキシードでしたね。そこからは、青、白、赤とカラーバリエーションが増えていきました。

――生地から選んで仕立てるんですか?

太田 職人さんが4、5個くらいトランクを持ってきて、そのなかに生地の見本がぎっしり詰まっているんです。「タキシードで派手なものがほしい」と言ったら、いくつか候補を出してくれて、その中から選んでいく感じです。今まで、10着以上は作っています。

――ここからは、太田さんのなかで特に印象に残っている大会、試合を教えてください。

太田 那須川天心vs武尊がメインだった『THE MATCH2022』もそうですが、RIZINで言うと、同年の大晦日に行なわれた『RIZIN.40』の BELLATORとの5対5の全面対抗戦ですね。RIZIN側の全敗でしたけど、未来が見えないような負け方ではなく、「世界にはこんなに強い選手がいるんだ」と新たな発見ができました。また、オープニングでPRIDEのテーマ曲が流れましたが、PRIDE時代は個人的に苦労したことも多かったので(笑)、いろんなことを思い出しました。

――PRIDEのテーマ曲が流れ、RIZINとBELLATORの垂れ幕が下りた瞬間、お客さんがどよめきましたね。

太田 あの旗はすごくよかったですね。でも、一緒にPRIDEを盛り上げたリングアナのレニー・ハートさんがポリープの手術を受けてあの場にいなかったので、「レニーさんのコールが足りないな」とは思いましたが。それがあればより完璧でしたね。いずれにせよ、あの対抗戦抜きにRIZINは語れません。

――大きな大会で言うと、国立競技場に9万1107人を集めた、2002年の『Dynamite!』はいかがでしたか?

太田 あの時は、僕がまだ格闘技にのめり込んでいなかったですし、「仕事のひとつ」という感じでした。国立競技場と言えばサッカーのイメージが強くて、「日本代表がここで試合をしているんだ」と思っていました。国立の芝生を触ることなんてないですからね。ブルーシートみたいなものが敷いてあったんですけど、ちょっとめくって芝生に触れたりして、「ああ、こんな芝なんだな」なんて思ってました(笑)。

『Dynamite!』は、お祭りのような雰囲気でしたね。アントニオ猪木さんがパラシュートで降りてくる演出や、夏の屋外だったこともあって、「ワッショイワッショイ」という感じの盛り上がりがありました。試合を見るお客さんの"仕上がり具合"という点では『THE MATCH2022』がすごくて、本当に異様な雰囲気でしたよ。

【格闘技の選手は"いい意味でぶっ飛んでいる"】

――普段、交流がある選手はいますか?

太田 いないですね。もちろん、選手とは目が合えば挨拶をします。タキシードを着ているので僕が誰なのかはわかってもらえていると思うんですけど、一緒に飲みに行ったりすることはありません。選手とは、距離が近くなりすぎないほうがいい場合もあるでしょうし。ただ、飲みに行ってみたい選手はいますね。

――それはどなたでしょうか?

太田 僕は中村大介選手(第7代DEEPライト級王者)が好きなんです。2年くらい前に、髙田延彦さんの還暦祝いでお会いできた時、「僕、ファンなんです。(※)西調布格闘技アリーナでの試合も見に行きました」と伝えることができました」

(※)田村潔司率いるU-FILE CAMPの西調布ジムに併設していた常設試合会場。中村は大学時代にU-FILE CAMP で格闘技を始めた。試合会場は2015年4月20日に閉鎖。

――中村選手は、PRIDE 武士道、DREAM、RIZINで戦っていて、太田さんの活動期間とも重なっていますね。

太田 中村選手を知ったのはPRIDEだったと思います。西部警察PART-II(ワンダフル・ガイズ)の入場曲もそうだし、試合では外さないといけない足のレガースを入場ではつけている、といったところが大好きです。

――レガースをつけるのはUWFのスタイルですね。

太田 そうですね。人間としても魅力があるし、それでいて強くて試合も面白い。いつか一緒に飲んで、いろんなお話をしてみたいですね。

――約25年間、リングアナとして格闘技を盛り上げ続けてきた太田さんが思う格闘技の魅力とは?

太田 シンプルに、「強いか、弱いか」を決めるところでしょうか。試合を見れば見るほど、選手は"いい意味でぶっ飛んでいる"と思います。たとえば7月の『超RIZIN.3』では、約4万8000人の観客の前で勝敗が決まってしまうわけですから。

 もちろん「強くありたい」という気持ちはわかりますけど、一般の社会では、そんなに大きな賭けをしたいと思う人は少ないはずです。でも、それを望んでリングに上がる。その異様さに惹かれてしまう部分がありますね。煽りVTRで描かれる彼らのストーリーでそのバックボーンがわかると、ますます選手に愛着が湧いてくるんです。

 本来は痛いのを見るのが嫌で、試合で血が出ると引いてしまうこともあります。それでも、あのリングに上がる選手たちは特別な存在で、そこに惹かれているんでしょう。

――多くのファンも、そこに熱狂しているんでしょうね。

太田 リングは、選ばれた選手が上がる場所です。時には、「あの選手には資格がない」なんて意見も見聞きしますが、実際にリングに立っている選手たちは、やっぱり選ばれた人間なんだと感じます。その選手たちが勝って雄叫びを上げる姿、負けて崩れ落ちて泣く姿を見ると、胸にきますね。

『超RIZIN.3』では、ケイト・ロータス選手がRENA選手に負けて、本当に悔しそうに泣いている姿を見て、もらい泣きしました。格闘技はただ試合をするわけじゃない。選手個人の物語、家族や仲間の物語でもあると思います。そこが本当に面白いし、たくさんの人に見続けてほしい。ファンのみなさんはもちろん、これからRIZINを見るという方も、選手たちの成長や葛藤などに注目しながら楽しんでほしいです。

【プロフィール】
■太田真一郎(おおた・しんいちろう)

3月20日、神奈川県生まれ。青二プロダクション所属。
テレビ、アニメ、ラジオ、そしてリングアナウンサーとして、さまざまなジャンルで活躍。テレビでは『スッキリ!!』『サンデー・ジャポン』『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』など数多くのテレビ番組のナレーションを担当。アニメ『キン肉マン 完璧超人始祖編』ではアナウンサー役を務めている。リングアナウンサーとしても約25年間にわたりPRIDE、DREAM、RIZINなどの格闘技イベントを盛り上げ、選手やファンの心に響くコールを届け続けている。