90分間で放ったシュート数が14対11。そのうちゴールの枠をとらえたのが8対5。いずれのスタッツでも光州FC(韓国)を上回った川崎フロンターレが、ホームのUvanceとどろきスタジアムを熱狂させかけたのは45分だった。 光州の先制点とな…
90分間で放ったシュート数が14対11。そのうちゴールの枠をとらえたのが8対5。いずれのスタッツでも光州FC(韓国)を上回った川崎フロンターレが、ホームのUvanceとどろきスタジアムを熱狂させかけたのは45分だった。
光州の先制点となった22分のPKにつながるミスを犯したDF高井幸大が、気持ちを奮い立たせながらボールを敵陣へもち運んだ直後。高井の縦パスを受けたボランチの山本悠樹が、振り向きざまにスルーパスを最前線へ通した。
ターゲットは1トップの小林悠ではなく、右サイドハーフで先発していた瀬川祐輔。1日に行われたAFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)の東地区リーグステージ第2節。川崎の最大の決定機は右コーナーキックへ変わった。
右足で放ったシュートを、光州の守護神キム・ギョンミンの左膝で防がれてしまった瀬川は「自分の技術不足、僕の責任です」と悔しそうに振り返った。
「悠樹(山本)からいいボールが出てくると思っていた一方で、悠樹のパスが相手に触られるかもしれないと一瞬、思ってしまって。そのときの対応も考えながらの裏への抜け出しだったので、反応が半歩ほど遅れてしまった。相手のゴールキーパーが飛び出してくるのは見えていて、右に浮かせようと思ったけどちょっと難しかった。しっかりとボールを浮かせていたら、入っていたと思う」
■「もっと早く気がつくべきでした」
ぎりぎりの攻防は相手キーパーに軍配があがった。もっとも、ここで素朴な疑問が残る。サイドハーフの瀬川が、なぜ光州ゴール前の中央にいたのか。
「あの時間帯はいろいろな選手が降りるとか、裏を狙うといった形で、ポジションを決めずにビルドアップに関わっていた名残で、空いているところに走りました」
流動的なポジショニングが奏功したと明かした瀬川は、さらにこう続けた。
「前半の30分すぎくらいから、相手がマンツーマンでくる分、形を決めずに流動的に走りながらパスを回していました。それまでは立ち位置を決めてプレーしようとして、相手にはめられ続けていた。さらに予想以上に相手のビルドアップの質も高く、うまくはめられなかった。そこにストレスを感じすぎていたなかで、選手同士で話して変えていったんですけど、もっと早く気がつくべきでした」
5-1で快勝した9月27日のアルビレックス新潟戦に続いて、公式戦で先発フル出場を果たした山本も、敗因を「前半のすごし方です」と振り返る。
「ビルドアップするチームに対して、マンツーマンでこられると苦戦するのがわかっていた。そこで前半をある程度、しょうがないと割り切れるかどうか。押し込めば相手の全員が戻る、というスカウティングも入っていたので、ああいう(流動的な)攻撃を前半のもっと早い段階からできれば。そのへんはまだまだかなと思う」
■山本悠樹が「真ん中の選手の役割」と話すもの
光州の2トップがアグレッシブに規制をかけてくるなかで、川崎は両センターバックに左右のサイドバックのどちらかが加わるか、あるいは山本が下がるなどして即席の3バックを形成。ビルドアップを工夫しながら対抗しはじめた。
ハーフタイムには選手間で話し合い、マンツーマンへの対策をさらに徹底。後半は足が止まる場面が多くなった光州を押し込む時間帯が増えた。山本が続ける。
「うまくいかない時間に『こうするんだ』と示すのは、真ん中の選手の役割。ミスをしてでも、いろいろと試行錯誤していかなきゃいけなかった」
ベンチの指示やハーフタイムを待つのではなく、プレーする選手たちがピッチ上で主導して、苦境を変える勇気もサッカーでは求められる。ACLEで連勝発進を逃した悔しさは、6試合を残す同東地区のリーグステージ、最終盤に入るJ1リーグ戦、そしてベスト4に残るYBCルヴァンカップでの川崎の躍進につながっていく。
(取材・文/藤江直人)