【連載】有村智恵のCHIE TALK(第9回・後編) 過去の連載記事はコチラ 先日行なわれたAIG女子オープン2024(全英女子オープン)で、ラウンドリポーターとして現地の熱狂を伝えた有村智恵プロ。有村プロも出場した2013年大会以来の"聖…

【連載】有村智恵のCHIE TALK(第9回・後編) 

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 先日行なわれたAIG女子オープン2024(全英女子オープン)で、ラウンドリポーターとして現地の熱狂を伝えた有村智恵プロ。有村プロも出場した2013年大会以来の"聖地"開催となった今大会を、あらためて振り返ってもらった。


今年の全英女子オープンの舞台となった

「聖地」セントアンドリュース photo by Getty Images

>>前編【長さ100ヤード超の世界最大級のグリーン、ヘルバンカー、強風 有村智恵が聖地「セントアンドリュース」を語る】を読む

――そのほかで、セントアンドリュースで印象的だったコースはありますか?

 語ろうと思えば全部語れるというか(笑)。今回、18番ホールがすごく面白かったな、という印象でした。バンカーも何もないんですよね。横幅も(隣接している)1番ホールのフェアウェイまで入れたら100ヤードくらいあって。ラフもブッショもないホールなので、バーディーホールなんですけど、距離も短いし、風向きがちょっとフォロー目なので、みんなティーショットがグリーン近くまで行っちゃうんです。

 それで何が起こるかというと、グリーンがエッジから急激に上がっていて、2段グリーンとも言えないぐらいのすごいスロープがあるので、(グリーン手前から)パターで打てるところまで(ティーショットが)行けば、パターで段越えのパットが打てるんですけど、中途半端な距離が残ってしまうと、すごく難易度が高いロブショット、または転がして段を登らせるアプローチが残ってしまうんです。

 最終日の18番ホール、(優勝争いをしていた)リリア・ヴは、バーディーを取らなきゃいけなかった。彼女はたぶん、残り40、50ヤード前後ぐらいの、ちょっと中途半端な距離が残っていて、そこからだと(フルショットで)打てないから、ボールを止めるのが難しく、ちょっと奥に行ってしまいました。もちろん、それでもうまいショットだったんですけど、ティーショットがあと10ヤードか20ヤード手前だったら、バックスピンで止められていたはずで、また違った展開になったんじゃないかな、とも思います。(スピンがほどけるとボールの)跳ね方までは計算できませんし、あれが最後に命運を分けたな、と思いながら見ていましたね。

――近すぎてもバックスピンがかけられないものなんですね。

 フルショットに比べると、(緩めて打つと)スイングスピードも落ちるので、クラブを綺麗に入れたとしてもかなり難易度は高いです。あの時は、段を越えてからピンまで4~5ヤードあったかないか、だと思うので、その幅に落として止める距離感もすごく難しくなります。

 ちょうど17番から18番にかけて最終組を見ていて、(リリア・ヴが)とくに悩むこともなく、キャディさんと会話することもなく、ドライバーを抜いたので、私も「ドライバーで打つんだ......」と思ったんです。それで、やはり残りが40ヤード50ヤードくらいだったので、(ティーショットで)ほかに何か違う選択肢もあったんじゃないかなと思っちゃったんですね。3番ウッドで刻んで、フルショットの距離を残したほうがよかったんじゃないかな、とか。

【ここは本当にキャディの技量が試される場所】

――そこも含めてのコースマネージメントですか?

 私は彼女のゴルフをあまり知らないので、ドライバーの飛距離も把握していなくて、純粋に「あまり飛距離が出る選手じゃないのかな?」と思いながらドライバーショットを見ていたのですが、いざセカンド地点に行ってみたら......、という感じでした。17番ホールでいいパットを決めて、その勢いのままいきたかったのかもしれません。本人が一番悔しいと思うんですけど、何かひとつ選択を変えていたら、結果も違っていたかもしれませんね。

 それまでの3日間、ほぼ同じようなセッティングだったので、毎日同じようなことをやっていたはずなんです。ティーショットがグリーン近くまで行って、この距離のアプローチが残る、というのはわかっていたはずなので、何を考えてあの選択にしたのかはわからないんですけど、自分だったら必ずキャディさんと相談していたと思います。

――セントアンドリュースのような難コースはもちろんのこと、やはりキャディさんの力は重要ですね。

 大切ですね。現地に知り合いのキャディさんもいらっしゃって、「ここは本当にキャディの技量が試されるところだね」って圧をかけてしまいました(笑)。幸い、今大会は風向きが毎日一緒でした。風の強さはマチマチでしたが、基本的な風向きは、私が現地に着いた火曜日からずっと一緒だったんです。アウトコースが左からで、インコースは右から。

 でも、選手からの見え方として、フェアウェイが広々と見えるところってほぼないので、フェアウェイに落とすためには、違うホールの全然違う目印に打っていかなければいけなくて、それってすごく勇気がいることなんです。

「こんな左に打って大丈夫なのかな?」と思いながらも、キャディさんを信じて、勇気を持って打っていかなければいけないのですが、逆風が来た時は、昨日までは左を向いていたのに、今度は急に、昨日までだったら絶対にOBになるであろう右の方向を向いていかばければいけない――ということが起こった時に、キャディさん頼りになってくるというか。どの辺りを向いたらいいのかや、この風でポットバンカーに入らないところに落とすには何ヤード打ったらいいかなど、全部を選手が計算しているとキャパオーバーになってしまいますから。

 それと、私も経験したので現地に行く選手には伝えましたが、全英女子にはプロアマ戦があるんですよ。他の海外メジャーでも開催されることはありますが、たとえば全米女子オープンにはプロアマがありません。プロアマがある場合、練習ラウンドをできる時間がすごく限られてきます。その限られた時間のなかで、大量の情報を頭に入れておかなければならないので、キャディさんがどれだけコースを知っているかはとても大事になります。

 岩井千怜ちゃんのキャディさんは、私がもともとずっとお世話になっていたキャディさんなんですけど、現地には(姉の)岩井明愛ちゃんのキャディさんもいて、チームで動いているから、明愛ちゃんのキャディさんと分担してコースチェックをしたり、お父さん含めた3人でコースチェックに行ったりしていたみたいで。それによってたくさん情報収集もできるし、共有もできるので、いいやり方だね、と話をしていました。

【セントアンドリュースの難しさとは】

――あらためて、セントアンドリュースの難しさ、他のコースとの違いは何でしょう。

 アウトコースから出て行って、インコースを折り返して帰る、行って帰ってくるというコース設計が、物理的にどういうことかと言うと、隣のホールが常に片側1ホールしかない、ということです。アウトコースを出たら左側にしかホールがなくて、インコースも同じですけど、その逆(右側)がコース外、というホールが永遠に続くんです。風が強いのは他のリンクスコースも同じ条件としても、他のリンクスだと、両サイドにホールがあって、思いきって打って行ける状況があると思いますが、セントアンドリュースにはそれがありません。

 コース外(OB)の上を思いきって打っていかなければいけないと思ったら、たとえば2番ホールや3番ホールだと、折り返しの17番、16番ホールを大いに使って打たなければいけない、という状況を強いられるのは、このコースの特徴として大きいかなと思います。とにかくコース自体が細長い。だから、横風が来た時に、狙いどころも難しいですし、ショットにも勇気が必要になります。

●インタビューのフルバージョンはこちらから
https://youtu.be/7RD-lcCtkm8

【Profile】有村智恵(ありむら・ちえ)
1987年11月22日生まれ。プロゴルファー。熊本県出身。
10歳からゴルフを始め、九州学院中2年時に日本ジュニア12~14歳の部優勝。3年時に全国中学校選手権を制した。宮城・東北高で東北女子アマ選手権や東北ジュニア選手権、全国高校選手権団体戦などで優勝。2006年のプロテストでトップ合格。2007年は賞金ランク13位で初シードを獲得した。2008年6月のプロミスレディスでツアー初優勝。2013年からは米女子ツアーに主戦場を移した。2016年4月の熊本地震を機に日本ツアーへ復帰。2018年7月のサマンサタバサレディースで6年ぶりの優勝を果たすなど、JLPGAツアー通算14勝(公式戦1勝)をあげる。
2022年に30歳以上の女子プロのためのツアー外競技「LADY GO CUP」も発足させた。
2022年11月に、妊活に専念するためツアー出場の一時休養を表明。2024年4月に双子の男の子を出産した。