久保建英はラ・リーガのバレンシア戦で今季2度目の得点を記録してマッチMVPに輝き、調子を取り戻してきていることを証明した。それでもチームは第8節終了現在14位と困難な状況に直面している。今回は、スペイン紙「アス」およびラジオ局「カデナ・セル…
久保建英はラ・リーガのバレンシア戦で今季2度目の得点を記録してマッチMVPに輝き、調子を取り戻してきていることを証明した。それでもチームは第8節終了現在14位と困難な状況に直面している。
今回は、スペイン紙「アス」およびラジオ局「カデナ・セル」でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、苦境を脱するために久保の果たすべき役割を指摘してもらった。
【リーダー的存在になろうとしている】
久保建英はすでにレアル・ソシエダでリーダー格の選手になっている。ピッチでのパフォーマンスに加えてメディア的な側面からも、彼が真のスターであると私たちはすでに理解している。
久保建英は今季2点目を決めてバレンシア戦勝利に貢献した
photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
その一方で、チームが正しい方向に進むために、彼がロッカールーム内でも重要な役割を果たしていることを、私たちはこれまで理解できていなかった。
今季開幕後の困難な状況下で、またもや躓いてしまったラ・リーガ第6節のバジャドリード戦(0-0)後の彼の発言から、その一面を見出すことができた。
「僕が重要な存在かどうかはわからないが、試合後に(みんなに)話しにいくのは、この悪い瞬間から抜け出すためにチームを引っ張りたいからだ。自分が一番重要かはわからないけど、最も意欲的な選手のひとりであるのは間違いない」
久保のこのような意思表明は、とても興味深い。シーズン開幕から凡庸な結果しか残せていない危機的状況にあるチームのなかで、彼がリーダー的存在であろうとしているのは、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)にとって非常にありがたいことだ。
リーグ戦序盤のさまざまなスタッツがチームトップである点は、ラ・レアルの成績不振が彼に起因していないことを示している。もし、ほかの選手たちも昨季のようなパフォーマンスを発揮し、久保のように貢献できていれば、今とは違う状況になっていたはずだ。
久保はラ・レアル加入後、初めて厳しい事態に直面しているが、その姿勢は変わっていない。起用されるポジションに関係なく、自分が得意とする "足元のボールに魔法をかける" プレーをやり続けているし、今後も続けてくれるはずだ。それがほかの選手との違いを生み出している。久保がベストパフォーマンスを発揮できれば、ラ・レアルは大きな恩恵を受けることができるだろう。
【2トップであればトップ下よりFWがいい】
バジャドリード戦で久保は中盤ダイヤモンド型の4-4-2のトップ下に入り、ドリブルを仕掛け、FWと連係し、決定的なクロスやスルーパスを供給した。しかし、2トップのオーリ・オスカールソンとシェラルド・ベッカーはそのチャンスを生かせず、チームは勝利を掴めなかった。
久保はトップ下でプレーした場合、スペースを見出すことができるし、質の高いパフォーマンスを披露できるだろう。しかし、このトップ下がベストのポジションだとは思わない。
それは、彼自身が2トップに入って、サイドや中央で動き回るほうがより効果的と思うからだ。トップ下だとプレーのスペースがかなり狭まるため、相手に読まれやすくなってしまう。
久保はすでに昨シーズン、アンデル・バレネチェアと2トップでプレーしているし、2022-23シーズンにはアレクサンデル・セルロート(現アトレティコ・マドリード)とお互いを完璧に理解し合ったコンビを形成していた。
久保の機動力、スピード、クオリティーは2トップで大いに生かせる。また、イマノル・アルグアシル監督がヨーロッパリーグのニース戦のように5-3-2を選択した場合でも、彼はFWで力を発揮できると見ている。とはいえ、あのシステムはチームが置かれた状況を考慮したものであり、シーズンを通じて繰り返されることはないと私は思っているが......。
ただ、チームの利益を考えると、ベストなポジションはこれまでどおりの4-3-3のウイングでのプレーだろう。それは、サイドで自由にプレーし、中央に向かって走るスペースがあり、クロスやゴールに直結するプレーをする彼のスタイルに適したシステムだからだ。
彼の資質は、ウイングの位置から止めるのが難しい華麗なドリブルを斜めに仕掛けて、シュートを打つ時に発揮されると私は信じている。スペースを得た久保にエンジンがかかれば、相手DFは守るのが容易ではない。
【データ面でもチームを引っ張る選手と証明】
私が冒頭で「久保は危機的状況におけるリーダーだ」と述べたのは、そのことを数字が証明しているからだ。決して空言ではない。困難を抱えるこのシーズン序盤において、彼が攻撃面の重要なスタッツでトップに立っていて、データ面から見てもチームを引っ張るリーダーとなっている。
これまで行なわれたラ・リーガ8試合で、オスカールソンと並びチームトップの2ゴールを挙げているが、特筆すべきはシュートの成功率が非常に高いことだ。ラ・レアルで一番多くシュートを打っている選手ではなく、4本のシュートで2ゴールを決め、その成功率は50%となっている。彼にこれ以上の効率アップを求めるのは、酷だろう。
被ファウル数の多さも、彼が臆することなく攻撃の中心であり続けている点を証明しており、チームトップとなる17回のファウルを受けている。
また、それだけでは不十分であるかのように、チームで最も多くのデュエルに勝っているのも注目に値する。これまで33回勝利しており、イマノル監督はその献身的な戦いぶりを高く評価している。
その一方で久保の改善すべき点は、パスの成功数だ。マルティン・スビメンディの380本に対し、久保は144本。彼にはまだ磨かなければならないことがある。しかし、彼にはそれに取って代わる類稀な突破力という武器があり、ドリブル突破をチーム最多の11回成功させている。これは2番目に多いスビメンディの倍以上の数字で、ほかの選手との違いを見せている。
おそらくそのプレースタイルのせいで、ボールロスト数は112回とチームで一番多い。これに近い数字を残しているのは、久保同様に攻撃の最後の局面でリスクを冒しているセルヒオ・ゴメスとなっている(106回)。
先日3-0と大勝したバレンシア戦は、まさに久保のあらゆる側面が表われた試合となった。攻撃陣で最もアクティブな選手となり、今季2度目の得点を記録した。頻繁にプレーに関与し、右サイドバックのジョン・アランブルとのコンビネーションで多くのチャンスを生み出した。今回は先制点を奪ったあとのゴールパフォーマンスで何も主張することなく、チームメイトと一緒に喜びを分かち合っていた。
イマノル監督は終盤、無理に出場させ続けて起こり得るケガを回避するために、久保を交代させた。それは久保がチームを牽引するリーダー的存在の選手だからであり、相手ペナルティーエリア内で効果的にプレーできる選手を失うリスクを冒すことなどできないからだ。
それは、私が言っているのではない。数字がそれを物語っている。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)