サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、U-23アジ…
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、U-23アジアカップで日本と優勝を争った、成長著しいサッカー新興国と日本の知られざる「因縁」――。
■2連勝で勝ち点6「10月に決めるか?」
2024年10月は、ウズベキスタンのサッカー史で最も重要な月になるかもしれない。ワールドカップのアジア3次予選A組。2連勝でスタートして勝ち点6でイランと並ぶウズベキスタンが、ホーム2連戦でイラン、そして初戦でカタールに完勝したUAEと対戦する。
ウズベキスタンのサッカーが急速に伸びていることは、今年5月にカタールで行われたAFC U-23アジアカップを見れば明らかだろう。日本との決勝戦を前に主力3人が離脱しながらも優勢に試合を進め、シュート数では18対8と日本を圧倒した。日本は山田楓喜(東京ヴェルディ)が見事なシュートを決めたが、GK小久保玲央ブライアンのPKストップがなければどういう結果になったかわからない。
初出場となったパリ・オリンピックでは1分け2敗でグループ最下位に終わったものの、2010年代の後半から、ウズベキスタンはU-20やU-23のレベルではアジアでもトップクラスの実力を見せ始めていた。それがいよいよフル代表の年代に上がり、悲願のワールドカップ初出場へと突き進んでいるのが現在のウズベキスタン代表なのだ。
10月の2試合の会場はいずれも首都タシケントのミリー・スタジアム。ウズベク語で「ナショナル・スタジアム」を意味し、スタジアムの正面には英語で「NATIONAL STADIUM」という大きな英語の看板が出されている。2012年に完成したサッカー専用スタジアムで、当初は「ブニョドコル・スタジアム」と呼ばれていたが、2018年に改称された。収容3万4000人。10月の2試合、とくに、ともに2連勝で迎える10月10日のイラン戦は、熱狂的なファンで埋まるに違いない。
さて、ミリー・スタジアムが位置するのは、タシケントの都心から南へ6キロほどの地区。そこから車でわずか数分のところに、私たち日本人に深い意味のある場所がある。「抑留日本人墓地」である。
■抑留者の「約1割」が死亡、帰国の「完了」は
第二次世界大戦後、中国の東北地方(満州)などから60万人近くの日本兵がソ連によって抑留された。シベリアでの森林伐採や建設事業の労働力として連行されたもので、後にシベリアにとどまらず、旧ソ連の各地に移送されて何年にもわたって過酷な労働を強いられた。そして厳しい気候と劣悪な食事、住環境のため、抑留者の約1割が亡くなったという。最終的に「帰国」が完了したのは1956年。終戦から11年も経た後だった。
抑留日本兵は中央アジアのウズベキスタンにも2万3000人が移送され、ダムや運河建設などの重労働に使役された。そしてウズベキスタン内だけで884人が亡くなった。ミリー・スタジアムから車なら約5分のヤッカサライ地区にある「日本人墓地」は、日本に帰ることができずこの地で果てた人びとを埋葬し、慰霊する場なのである。
1997年秋にワールドカップ1998フランス大会の「アジア最終予選」が行われ、日本代表は韓国、UAE、カザフスタン(当時はアジアサッカー連盟=AFC所属だった)、そしてウズベキスタンと同組になった。ホームのウズベキスタン戦で予選をスタートする日本は、アウェーでUAEと戦った後にホームに韓国を迎え、その後、中央アジアに飛んでカザフスタン、ウズベキスタンと連戦という日程だった。
■シベリア抑留者のひとり「父」からの手紙
その中央アジア連戦の取材に出発する前、私は父に電話してウズベキスタン戦の取材のためにタシケントに行くことを話した。父はシベリア抑留者のひとりで、シベリアのバイカル湖の近くで1年間働かされた後、タシケントに移されたことを聞いていたからだ。
すぐに達筆の父から手紙がきた。
「前略。アラブ首長国連邦は毎日40度の暑さとのこと。仕事と暑さで苦労させられたと思いますが元気ですか。(中略)今度は私が2年在住したウズベキスタンの首都タシケントでウズベキスタン戦があるとのこと。50年前ですが、同国人は日本人と顔も頭髪(黒)も似ており、日常生活や食事も日本によく似ていて私らには親切でした。果実の名産地です。刺しゅうは名産で、帽子は美しいです。シベリアと異なり、いま想えば夢のようです。後日話を聞かせてください。楽しみにしています」
最初はとても意外な気がした。「夢のよう」とまで書いているからだ。しかし、読み返すと「いま想えば」という語句は、後から挿入したものだった。父は1948年に帰国したが、3年間の強制労働の厳しさ、苦労が、逆に「夢のよう」という言葉から浮かび上がる気がした。