さかのぼること5月26日、西武は45試合を消化した時点で15勝30敗、首位と15.5ゲーム差をつけられ、成績不振を理由に松井稼頭央監督の休養を発表した。以後、渡辺久信GMが監督代行として指揮を執ったが、窮状は変わらなかった。西武を再建する…
さかのぼること5月26日、西武は45試合を消化した時点で15勝30敗、首位と15.5ゲーム差をつけられ、成績不振を理由に松井稼頭央監督の休養を発表した。以後、渡辺久信GMが監督代行として指揮を執ったが、窮状は変わらなかった。西武を再建するには何が必要なのか。また、次期監督は誰がいいのか。かつて西武で監督を務めた経験のある解説者の伊原春樹氏に聞いた。
松井稼頭央監督のあと、監督代行として指揮を執った渡辺久信GMだったが、現状を変えることはできなかった
photo by Koike Yoshihiro
【主力級の大型トレードが必要】
── 渡辺GMが監督代行となった以降も、チームは29勝58敗(※9月22日現在)と状況は変わりませんでした。
伊原 誰を監督にしたらいいかの問題ではなく、やはりそれ以前の編成の問題だと思います。西武は2019年から渡辺久信がGMを務めています。いわゆる"ゼネラル・マネージャー"は戦力を整え、勝てるチームをつくらなくてはいけない。チームの編成こそが、結局は一番大事だということです。
── チームの功労者であり、4年間指導者経験を積み、満を持して指揮官となった松井稼頭央監督が、就任2年目の今年5月にまさかの休養となりました。
伊原 チーム編成の責任を取らせる形として、本社や球団上層部が渡辺GMを監督代行に指名したのだと思いますが、結果は以前よりも悪くなっている。松井稼頭央を休養させなくてもよかったのではと思います。
── 昨シーズンは、平良海馬投手が11勝、高橋光成投手と今井達也投手が10勝、隅田知一郎投手が9勝を挙げ、チーム防御率はリーグ2位。さらに、大学ナンバーワン左腕と評されていた国学院大の武内夏暉投手をドラフト1位で獲得し、開幕前は優勝候補に挙げる解説者もいました。
伊原 投手力はいいですが、山川穂高のFA移籍以前に、森友哉も2022年オフにオリックスに移籍しており、打撃陣の補強は急務でした。しかし、今季編成が獲得してきた大砲候補の両外国人(ヘスス・アギラー、フランチー・コルデロ)がまったく機能しませんでした。その結果、投手に負担がかかり、いい投球をしても勝ちにつなげることができなかった。チーム事情を考えれば、山川は絶対に残すべきでしたし、松井監督の休養の話が出た時に「もう1年待ってください」と言うべきだった。
── チームを再建するには、大補強が必要ですね。
伊原 先発投手は新人の武内が期待どおりの働きをするなど、実際に頭数は揃っていました。たとえば、先発と他球団の主力打者をトレードするなど、抜本的な改革をしないといけないと思います。一軍と二軍を行ったり来たりの"エレベーター選手"を交換しても、大勢に影響はないのです
── 1993年オフに、西武の秋山幸二さん、渡辺智男さん、内山智之さんと、ダイエー(現・ソフトバンク)の佐々木誠さん、村田勝喜さん、橋本武広さんの大型トレードを断行しています。
伊原 西武はその94年に佐々木、村田、橋本らが活躍して優勝を遂げています。その後も佐々木は中心打者、橋本は中継ぎ投手、西武の貴重な戦力として活躍を続け、チームの活性化が図られました。
【次期監督に適任なのは?】
── 一方で、注目の次期監督候補には、辻発彦氏、伊東勤氏、秋山幸二氏、工藤公康氏、平石洋介氏らの監督経験者に、西口文也氏の内部昇格の声が挙がっています。
伊原 いろいろ名前は出ていますが、西武の新監督には西口が適任ではないでしょうか。選手としての実績も十分で、現役引退後は2017年から二軍投手コーチ、一軍投手コーチ、二軍監督を歴任しています。現在の一軍でプレーしている選手の多くは西口が育成した選手ですし、チーム状況も把握しています。
── では、GMはどのような人が適任でしょうか。
伊原 監督は与えられた戦力で現場の陣頭指揮を執る人。GMが戦うための戦力を整える編成部の"心臓部"を担う人です。この両輪がうまく機能してこそ、チームというのは強くなるわけです。だから並の手腕や、まったくの外部の人ではなく、マネジメント経験のある西武OBが務めるのがベストだと思います。
── 具体的に誰が相応しいと思いますか。
伊原 西武黄金時代をチームリーダーとして経験した石毛宏典が、一番適任だと思います。統率力も決断力も持ち合わせています。かつて西武監督就任を打診されましたが、現役に固執してダイエーに移籍しました。その後、オリックス監督を務めたあとは、独立リーグ・四国アイランドリーグの創設に尽力しました。彼が現状の西武戦力を鑑み、打力を中心に補強を推進していけばいいと思います。
── 「灯台下暗し」的なところでしたが、たしかに適任かもしれません。
伊原 監督人事はもちろん大事ですが、それ以前にGMですよ。彼なら、本社や球団首脳にも正論を言えると思います。西武の現状を打開するには、そのぐらいでなくてはいけないと思います。いずれにせよ、黄金時代を復活させてもらいたいものです。
伊原春樹(いはら・はるき)/1949年1月18日、広島県生まれ。北川工高(現・府中東高)から芝浦工大を経て、71年にドラフト2位で西鉄に入団。76年巨人に移籍し、78年ライオンズに復帰。80年限りで現役引退。81年から99年まで西武で守備走塁コーチなどを務め、黄金期のチームを支えた。2000年に阪神コーチ、01年に西武コーチを経て、02年西武監督就任、1年目でリーグ優勝を果たす。04年にオリックス監督、07年から10年まで巨人ヘッドコーチを務め、 14年に西武の監督に2度目の就任を果たした。現在は解説者として活躍中