9月21日、ラグビー日本代表(世界ランキング13位)は大阪・東大阪市の花園ラグビー場で行なわれた「アサヒスーパードライ パシフィックネーションズカップ(PNC)2024」決勝でフィジー代表(同10位)と激突。 3連勝でファイナル進出を果た…

 9月21日、ラグビー日本代表(世界ランキング13位)は大阪・東大阪市の花園ラグビー場で行なわれた「アサヒスーパードライ パシフィックネーションズカップ(PNC)2024」決勝でフィジー代表(同10位)と激突。 3連勝でファイナル進出を果たした日本代表にとって、実に5年ぶりの優勝がかかる重要な一戦を迎えた。

 フィジーは昨年のワールドカップでベスト8入りを果たした強豪で、今大会も優勝候補の筆頭。格上のチームを相手に「超速ラグビー」を掲げる日本は、自ら仕掛けてペースを握るプランで臨んだ。


5試合連続でトライを記録しているディラン・ライリー

 photo by Saito Kenji

 先にトライを奪ったのは日本。お互いPG(ペナルティゴール)を1本ずつ決めて3-3となった前半20分、日本はスクラムを起点に展開し、CTBディラン・ライリー(埼玉ワイルドナイツ)が巧みなステップで相手をかわして裏にキックすると、そのボールを自らボールを拾ってゴールラインへ。テストマッチ5試合連続となるトライを決めた。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 しかし、前半38分に日本の選手がシンビン(10分間の一時退場)となった影響が響き、後半は徐々にフィジーのペースへ。フィジカルの強い相手に主導権を奪われた日本は、後半に4連続トライを許して17-41で敗戦した。

 試合後、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)はこう振り返った。

「今日、私たちが相手より優れていた部分はひとつもありませんでした。日本はほかのチームと異なる、速いプレースタイルを見せなければならない。実践するには、冒険も勇気も必要です。ただ、時にプレッシャーがそれを奪うこともあります。今日の試合は、特に若い選手たちにとってすばらしい教訓になったことでしょう」

【日本でポテンシャルが一気に開花】

 ジョーンズHCは厳しいコメントを残した一方で、高いパフォーマンスに目を細めた選手もいた。先制トライを決めたライリーについては、「最初に合宿に来た時より動きがシャープになってきた」と高く評価している。

 ただ、本人は悔しそうに試合を語った。

「勝つつもりでしたが、負けて残念です。PNCのこれまでの 3試合は、とてもいいパフォーマンスが続きました。でも、今日はできなかった。フィジカルの強い相手のプレッシャーにうまく対応できなかった」

 エースとして日本を牽引したライリーは南アフリカ出身の27歳。10歳で家族とともにオーストラリアへ移住し、そこでラグビーを始めた。5人兄弟の末っ子で家族は誰もラグビーをやっていないが、ライリーは才能を伸ばしてメキメキと頭角を表あらわした。その後、U20オーストラリア代表に選出されるまで上り詰めるも、結局ラグビー強国でプロ選手になることは叶わなかった。

 そんな折、埼玉ワイルドナイツを率いる世界的名将ロビー・ディーンズ監督から声がかかった。ライリーはそのチャンスに手を伸ばし、2018年に入団する。

「日本に来たことは、僕にとっても家族にとっても、大きな決断だった。だけど、自分を成長させるために必要な挑戦であることはわかっていた。だから日本に来て、プロのラグビー選手になる夢を続けようと思った。今の僕にチャンスを与えてくれた日本に感謝しています」

 チャンスを掴み取ったライリーは、そこから一気に成長していった。ワイルドナイツでは2020年から「不動の13番」となり、2022年にはチームの優勝に大きく貢献するとともにトライ王も獲得。ライリーは日本という新天地で、ポテンシャルを大きく開花させた。

 ワイルドナイツの環境が、ライリーの能力をさらに大きく伸ばしたことも事実だろう。

「ロビーが僕を導いてくれただけでなく、SO/CTBベリック・バーンズ、WTB/CTBディグビー・イオアネ、FLデビッド・ポーコックなど、ワラビーズ(オーストラリア代表)でキャリアを積んできた選手が多くの自信とヒントを与えてくれた。

 また、PR 稲垣啓太、HO堀江翔太、SO松田力也などの日本代表選手、そしてスプリングボクス(南アフリカ代表)やオールブラックス(ニュージーランド代表)の選手たちとワイルドナイツで一緒にプレーできたことで、さまざまなことを吸収できた」

【トライ後に笑顔を見せることはない】

 トップレベルの選手から学んできたライリーが、桜のジャージーを着て躍動するまでに時間はかからなかった。

 日本代表資格を取得するやいなや、2021年10月に行なわれたオーストラリア代表戦で初キャップを獲得。スピードと決定力でたちまち存在感を示し、昨年のワールドカップも日本代表BK陣の中軸として全4試合に出場した。

 ただ、昨年のワールドカップで周囲の期待どおりの活躍ができたかといえば、そうではなかった。それは本人も自覚しており、「自分のパフォーマンスに完全に満足していたとは思わない。自信のないプレーもあった」と振り返る。

 ワイルドナイツに戻ったライリーは、決定力をさらに高めるべく研鑽に励んだ。その結果、昨シーズンはトライランキング2位タイの14トライを記録し、トップリーグ時代から4シーズン連続で「ベスト15」にも選出された。

 ちなみにライリーはトライ後、笑顔を見せることはほとんどない。そんな姿をファンは、チームメイトのPR稲垣啓太を引き合いにして『新・笑わない男』と称して親しんでいる。

「ちょっとシリアスで集中したい時もあるでしょ? 僕は笑っていないのが好きなんだ。グラウンドにいる時は、自分の仕事に集中してベストを尽くさないといけないから」

 リーグワンでの高いパフォーマンスを見た名将ジョーンズHCも、ライリーを放っておくことはなかった。新生エディージャパンにライリーも招集された。

 ライリーにジョーンズHCの目指すラグビーについて聞いてみた。

「ひと言で言うと(ジェイミー・ジョセフ前HC時代とは)まったく違う。若い選手を呼んでいることも、エナジーをすごく感じている。リーダー的な役割も増えてきているので、若い選手の成長をヘルプしていきたい。

 ジョーンズHCはチーム全員とコミュニケーションしていて、選手に対する責任の取り方も上手。『お前ならできる。信じればできる』などと言って自信をつけてくれますが、求められるものと違うことをやると、強く指摘される。会うと優しくていい人でした」

【3年後のワールドカップは特別な地】

 PNCを終えた日本代表は、3週間ほど休養を取ったあと、10月26日のオールブラックス戦に向けて合宿を再開する。ライリーは「連続して4試合も経験できたのはいいこと。間違いなく、この数週間で成長が見られた。フィジー戦も多くのポジティブなことがあった。間違いから学んでいるかぎり、私たちはうまくなっていくはず」と前を向いた。

 2027年のワールドカップは、家族が住んでいるオーストラリアでの開催となる。もちろん、ライリーの思い入れは強い。

「チャンスがあればもちろんプレーしたい。オーストラリアはラグビーを始めた地。日本はプレーする機会を与えてくれた場所。そのふたつを合わせたオーストラリア大会は、特別な機会になる」

 ラグビーファンが注目するPNCで、トライゲッターとしての実力を世界に知らしめた。新生エディージャパンに欠かせない世界レベルの13番となったライリーは3年後、「特別な地」でトライを奪った時、ようやく笑顔を見せてくれるだろうか。