カストロとの打ち合いを繰り広げたフルトン。試合後にはブーイングも受けたが、米記者は試合内容をどう評価したのか。(C)Getty Images “やや打ち合いすぎた”フルトンに求められるもの ステ…

 

カストロとの打ち合いを繰り広げたフルトン。試合後にはブーイングも受けたが、米記者は試合内容をどう評価したのか。(C)Getty Images

 

“やや打ち合いすぎた”フルトンに求められるもの

 スティーブン・フルトン(米国)は、激しい打撃戦の末、何とか生き残った。

 現地時間9月14日に米ラスベガスのT-モバイルアリーナで行われたフェザー級10回戦で、元WBC、WBO世界スーパーバンタムバンタム級王者フルトンがカルロス・カストロ(アメリカ)に2-1(96-93、95-94、94-95)で判定勝ち。昨年7月に井上尚弥(大橋)に8回TKO負けして以来となった久々のリングで辛くも復帰戦を飾った。

【動画】井上尚弥戦からの再起で辛勝も…フルトンのダウンシーンをチェック

 カストロのジャブと右に苦しんだフルトンは、5回に右ストレートを浴びてダウン。さらに8回にもショートの右を被弾してピンチに陥った。それでもより的中率の高いパンチを繰り出し、なんとかポイントを稼いで勝利を手繰り寄せたが、フェザー級での初陣は安定感に欠けた感は否めなかった。

 通算戦績を22勝(8KO)1敗としたフルトンの戦い方は正しかったのか。以前よりも打たれ脆く感じたことに、井上戦のダメージは影響していたのか。そして、フェザー級でも世界戦線を戦い抜けるのか。

 これらの疑問を解き明かすため、ラスベガス在住のボクシング・ジャーナリストであるショーン・ジッテル氏に意見を求めた。米専門メディア『FightHype.com』のレポーターを務め、厳格な全米ボクシング記者協会(BWAA)からビデオグラファーとしては史上初めてメンバーに迎えられたジッテル記者は、今後のフルトンに依然として期待を抱きつつ、やはり不安も感じたようだった。

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 厳しい試合になりましたが、カストロ戦はフルトンの勝ちでよかったとは思います。序盤はフルトンの方がやや優勢であったし、5回にダウンを喫してポイント差は狭まったのかもしれませんが、終盤に至るまでほぼ互角の展開だった。だとすれば、フルトンが前半に奪ったポイントで逃げ切ったと見るべきです。

 とはいえ、フェザー級でのフルトンが、これまでもよりもやや小柄に見えたのも事実です。試合に向けたファイトウィーク中のイベントを通じて彼は「KOしてみせる」と豪語し続けていた。それは井上に一方的な形で敗れた後で、自身の健在ぶりをKO勝利という形で示したかったからでしょう。

 フィラデルフィア出身のフルトンはもともと血気盛んな選手であり、打ち合いを好むところもあります。2021年11月のブランドン・フィゲロア(アメリカ)戦では激しいミックスアップの末に勝利を飾りました。ただ……今回の試合ではやや打ち合いすぎた感は否めません。

 カストロとパンチを打ち合うよりも、もっと足を使って、見極めていっても良かったのではないかというのが私の意見です。もちろん状況に応じて打ち合いは必要ですが、時にバックステップも駆使し、スキルを生かしてアウトボクシングをした方が有効な戦いができたのではないでしょうか。

この先にフルトンが戦うべき相手は誰か?

 カストロ戦でのフルトンは5ラウンド、8ラウンドと2度にわたって右パンチを浴び、深刻なダメージを受け、少々打たれ脆くなっているようにも見えました。

 前戦で井上に強烈なノックアウトをされた影響があったのかは現状ではわかりません。実際、フルトンのパンチ自体はシャープだったように見えましたし、ダメージよりも昇級後の階級で抗戦的に戦い続けたことが響いたと見るのが妥当かもしれません。126パウンドがリミットのフェザー級という新しい環境で、自身よりパンチ力のある選手と相手の得意とする距離でパンチを交わせば、効かされてしまったとしても不思議ではありません。

 さらに付け加えると、長期間のブランクは様々な形で災いをもたらすものです。それはタフネスにも関係があるというのが私の見方でもあります。同じく14日の興行のアンダーカードで行われたWBA世界スーパーミドル級暫定王座決定戦では、昨年3月以来の実戦となった元IBF世界スーパーミドル級王者ケイレブ・プラント(アメリカ)が序盤に、無名のトレバー・マカンビー(アメリカ)のパワーに手を焼いていたように見えました。

 ところが、ラウンドが進むにつれ、プラントは相手のパンチに慣れ、マカンビーに効かされなくなっていきました。同じようにフルトンもフェザー級でもっと定期的にキャリアを積めば、タフネスも安定するかもしれません。

 いずれにしても、この階級ではもうカストロ戦のように中間距離での戦いに長時間を割くべきではないのでしょう。体格的にスーパーバンタム級時代のアドバンテージはなく、今後もパワー負けすることは考えられます。フェザー級で戦い続ける限り、世界レベルのほぼすべての試合でフルトンはパワー面でハンデを負うことになります。

 もちろん、フルトンはフェザー級でもマッチアップ次第で一定の成功を収められるとは思います。ただ、長身で、中間距離の戦いを得意とするWBO王者ラファエル・エスピノサ(メキシコ)との対戦は避け、スーパーバンタム級時代に一度は下した経験のあるIBF王者アンジェロ・レオ(アメリカ)、WBC暫定王者フィゲロアらとのリマッチに向かう方が得策かもしれません。

 フェザー級でのフィゲロアはフルトンよりかなり大きいかもしれませんが、それでもこの再戦は勝算のあるカードだとは思います。これから先、サイズ、パワー面のディスアドバンテージを克服し、フルトンがフェザー級という戦場でどんな戦果を収めるかを私も注目していきたいと思っています。

[翻訳・構成:杉浦大介]
[取材協力:ショーン・ジッテル(FightHype.com)]

 

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