9月7日、埼玉・熊谷ラグビー場にて行なわれた「アサヒスーパードライ パシフィックネーションズカップ(PNC)2024」の第2戦で日本代表(世界ランキング14位)はアメリカ代表(同19位)と対戦。会場には10,667人のファンが集まり、30…
9月7日、埼玉・熊谷ラグビー場にて行なわれた「アサヒスーパードライ パシフィックネーションズカップ(PNC)2024」の第2戦で日本代表(世界ランキング14位)はアメリカ代表(同19位)と対戦。会場には10,667人のファンが集まり、30度の蒸し暑さのなかでキックオフとなった。
日本代表は前半からエディー・ジョーンズHCが掲げる「超速ラグビー」を展開。SO李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)がキックをうまく使いながらトライを重ね、前半を24-10で折り返した。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
身長202cmの体躯を誇るワーナー・ディアンズ
photo by Saito Kenji
後半、相手FWに押されて7点差まで詰め寄られたが、それも冷静に対応して試合を運び、最終的には41-24で勝利を収めた。ジョーンズHC再任後の国内テストマッチ初勝利を飾り、PNCはカナダ戦に続く2連勝でプールBを1位通過した。
平均体重で5kg以上重いアメリカに対して、日本はモールで簡単にトライを許すシーンもあった。ジョーンズHCは「相手に簡単にボールを渡してしまった場面があり、課題は山積みだ」と笑顔なく答えるも、「ボールを大きく動かさず、ダイレクトなプレー、ハードなキャリーを心がけて、汗でボールが滑るなかでも順応できた」と選手たちを称えた。
6月から本格始動したエディージャパンは、このアメリカ戦までに5回のテストマッチを行なっている。そのすべての試合に先発し、唯一、80分間フル出場しているのが、22歳のLOワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)だ。
「毎試合80分プレーすることは、コーチ陣からの信頼を感じるし、自信にもつながっている。これからも自分のパフォーマンスに集中したい」(ディアンズ)
カナダ戦では2トライを挙げてPOM(プレーヤー・オブ・ザ・マッチ)に輝き、続くアメリカ戦でも21回のタックルで両チームトップの数字を記録。「フィジカルに強い相手に対しては、ディフェンスでいいプレーができた。でも、アタックではもっとボールを持ちたかった」と試合を振り返った。
【19歳で初キャップを獲得した逸材】
身長202cmのディアンズはラインアウトでコーラー(サインを出す選手)を務め、マイボール獲得率は100%を記録。さらには相手ボールをスチールして、強力なモールを止めてマイボールにするなど、攻守にわたって存在感を発揮した。
ディアンズは試合後、「ずっと超速ラグビーを展開するのではなく、カナダ戦よりも時間帯によって試合のスピードをコントロールできた。トライを取られても次の仕事に集中できた。ミスを減らせばもっといいラグビーができる」と手応えを語った。
来日したのは中学2年生の時。父がNECグリーンロケッツ東葛のS&Cコーチに就任したため、ネットボールのトップ選手である母とともに日本に移住した。ニュージーランドではバスケットボールもしていたが、日本に来てからラグビーに専念。高校からラグビーの強豪・流通経済大柏に進学したことで、飛躍的な成長を遂げた。
高校卒業後は大学に進まず、東芝ブレイブルーパスに入団。2021年11月にジェイミージャパンに招集され、19歳で初キャップを獲得した。当時のジェイミー・ジョセフHCの指導について「厳しかったが、ポテンシャルを引き出してくれた」と振り返る。
ブレイブルーパスでもレギュラーの座を掴んだディアンズの存在感は日に日に強まり、昨年のワールドカップでは21歳の最年少で選出。控えながら4試合に出場した。2023-24シーズンのリーグワンでも17試合に先発してブレイブルーパスの初優勝に大きく貢献し、自身も2年連続で「ベスト15」に名を連ねた。
22歳のディアンズは現在16キャップ。FW陣ではHO坂手淳史(埼玉パナソニックワイルドナイツ)に次ぐ2番目に多いキャップ数を誇る。
ディアンズを高く評価するジョーンズHCは太鼓判を押す。
「彼のポテンシャルは非常に大きい。2メートル超えの体を持ち、ラインアウトのコーラーとして大きな責任も担っている。これからも経験を積みながら、ゆくゆく世界トップのロックになるのは間違いない」
【ラインアウトでも「超速」を目指す】
ブレイブルーパスの先輩でもあるFLリーチ マイケルのように、ディアンズは将来、日本代表のキャプテンを務めることにも意欲を見せる。
「チャンスがあればキャプテンをやってみたい。自分のプレーでチームメイトを引っ張っていくリーダーになりたい」
ジョーンズHCの求める「超速ラグビー」について、ディアンズの意見を聞いてみた。
「超速ラグビーはちょっとずつうまくなってきている。アタックもディフェンスもよくなってきているので、次はきつい時間帯でもっとできるか、が課題ですね」
指揮官もディアンズに対して、ラインアウトでも「超速」を求めている。
「ラインアウトはスピードと一番高いところで取ること。動きの速さも大事だが、ジャンプとリフトに集中することにもフォーカスしてほしい。そこにも『超速ラグビー』が色濃く出てくる」
日本代表は9月15日に行なわれるPNC準決勝でサモア代表(同13位)と対戦する。ディアンズは「フィジカルな試合になると思うが、超速ラグビーをさらにフィットさせ、勝利に貢献したい。PNCで優勝すれば、オールブラックスとの対戦(10月26日/横浜・日産スタジアム)につながるはず」と意気込む。
いまや日本代表に欠かせない存在となりつつあるディアンズ。2027年ワールドカップだけでなく、2031年、そしてそのさらにその次の大会に出場する可能性もあるだろう。
日本語はペラペラで、試合前の国歌も大声で歌う。日本をこよなく愛するニュージーランド生まれの22歳。子どもの頃からの夢だった「世界一のロックになる」想いを抱きながら、グラウンドに立つたびにその歩みを大きく前に進めている。