立川は後半途中から出場し、公式戦では初めてとなるFBでプレーした(C)産経新聞社 9月7日に熊谷ラグビー場で行われたパシフィックネーションズカップでアメリカ代表(世界ランキング19位)と対戦したラグビー日本代表(同14位、以下ジャパ…

立川は後半途中から出場し、公式戦では初めてとなるFBでプレーした(C)産経新聞社

 9月7日に熊谷ラグビー場で行われたパシフィックネーションズカップでアメリカ代表(世界ランキング19位)と対戦したラグビー日本代表(同14位、以下ジャパン)は41-24で勝利し、グループステージの1位通過を決めた。両チームの対戦は5年ぶりで、通算対戦成績はジャパンの11勝13敗1分となり、対アメリカ戦の連勝を3に伸ばした。

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 前節のカナダ戦では、勝利したものの少なからぬ課題を残したジャパン。2週間を経たアメリカ戦は、勝敗の行方もさることながら、カナダ戦で露呈した課題をどれだけ修正できるかが一つの焦点だった。

 5トライ41点を奪った攻撃はまずまずだった。相手ペナルティーからの素早い仕掛けでトライを奪うシーンもあったし、オフロードパスがうまくつながって奪ったトライもあった。サマーシリーズ、その後に続く代表合宿を経てチームが成熟しつつあることをうかがわせた。また、後半途中から出場し、公式戦では初めてとなるFBでプレーした立川理道の素晴らしいラインブレイクからのトライもあった。今後のジャパンの戦いを考えた時に、立川の起用法は一つの有効なオプションとなるかもしれない。

 一方でカナダ戦以上に目立ったのがハンドリングミス。10回以上ものノックオンを犯した他、パスが繋がらずにボールが転々とする場面が散見された。ボール保持時間、エリアの支配で大きく上回りながら、得点が伸び悩んだ原因はこのハンドリングミスの多さだ。

 蒸し暑く、選手全員が多量に発汗し、ボールが滑りやすいという悪条件下ではあったが、さまざまなパスを用いて相手ディフェンスにポイントを絞らせなことが重要な戦略の一つであるジャパンにとっては、悪条件化であってもハンドリングミスを犯さない修練が必要だ。

 この試合でも、度々いい流れを自ら断ち切る結果をもたらしたし、ハンドリングミスにつけ込まれて自陣深く攻め込まれ、トライを奪われた場面もあった。パスもキャッチも最も基本的な技術であるがゆえに、一朝一夕には急激な改善が難しい。選手個々人としてもチームとしても、最大の課題として取り組む必要があるだろう。

 ラインアウトからのモール対策も急務。アメリカの1本目のトライはジャパンの力の方向をうまくずらしてドライブし一気にインゴールに雪崩れ込んで奪ったもの。ジャパンのモールは攻めに回った時は強いが、守りの際には隙が多いことを見抜いた上で、しっかりとその弱点をついてきた。

 サマーシリーズではランキング上位国に対し優位に立っていたスクラムも、カナダ戦に続き、この試合では分が悪かった。1回押し勝ってペナルティーを奪った以外は常に劣勢に立たされていた。ランキング上位国は無論のこと、下位国もジャパンを深く研究し、弱みを的確に突く、あるいは強みを消す戦法を採ってきている。ジャパンが確実に課題を解決し、相手の研究を上回る進化を果たさない限り、ランキング上位国からの勝利はおろか、下位国に足元をすくわれることにもなりかねない。

 ジャパンの進化を支えるコンセプトは「超速ラグビー」だが、皮肉なことにその「超速ラグビー」を見事に体現していたのはアメリカの3本目のトライだった。キープレーヤーは背番号11をつけたオウグスバーガー。一つ前のブレイクダウンでしっかりと球出しに貢献した後、休むことなく逆目となる左サイドの大外に走り込んでロングパスを受け、ぽっかり空いたスペースを駆け抜けてトライを奪った。密集でのファイト、ゲインが狙える位置を見抜く目、そしてゴールラインまで走り切るフットネスとスピード、全てが噛み合った素晴らしいトライだった。こうしたシーンを数多く出現させる選手を育成することが「超速ラグビー」の実現につながっていく。

 準決勝で待ち受けるサモアは、カナダ、アメリカよりもフィジカルに勝り、隙も少ないチームだ。ジャパンよりランキング上位(13位)でもある。1週間という短い期間しかないが、少しでも課題を解決した上で、試合に臨み勝利する姿が見たい。

[文:江良与一]

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