左コーナーキックからMF久保建英がインスイングで放ったクロスに、ニアでフリーになっていたキャプテンのMF遠藤航が完璧な…
左コーナーキックからMF久保建英がインスイングで放ったクロスに、ニアでフリーになっていたキャプテンのMF遠藤航が完璧なヘディングシュートを見舞う。
埼玉スタジアムに中国代表を迎えた、北中米W杯出場をかけた5日のアジア最終予選初戦の開始12分。日本代表の先制点が決まった直後に前田遼一コーチがベンチから飛び出し、笑顔を弾けさせながら喜びを爆発させていた。
試合後の会見で森保一監督が残した言葉に、その光景の理由が凝縮されていた。
「セットプレーからの攻撃は前田コーチのもと、ミーティングとトレーニングとを通して、イメージを共有したところを出せたと思っています」
セットプレーから生まれるゴールが極端に少ない傾向は、第1次森保ジャパン時代から何度も指摘されてきた。ゴールの可能性すら感じさせない状況を何とか改善させようと、一時はセットプレー担当として菅原大介氏が緊急入閣している。
そして、昨年3月に船出した第2次森保ジャパンでは、元日本代表FWの前田コーチがセットプレーの攻撃面を担当。周到にデザインされたセットプレーから、初めて決まったゴールだったからこそ、担当コーチを誰よりも喜ばせた。
■遠藤航が解説するセットプレーのデザイン
実際にどのようにデザインされていたのか。遠藤が説明してくれた。
「僕に対するマークをみんなでブロックして、自分をフリーにしていくような形ですね。あれだと相手はかなりマークにつきづらかったと思います」
久保が蹴る時点で、遠藤にはMFリー・ユェンイーがマークについていた。遠藤の近くにいたDF板倉滉、DF町田浩樹、FW上田綺世にもそれぞれマークがついていた状況で、直後にバスケットボールのスクリーンプレーのような状況を作り出した結果として、遠藤はリー・ユェンイーのマークから逃れてフリーになった。
もっとも、それだけでゴールが生まれたわけではない。森保監督が続ける。
「セットプレーからゴールが決まるのは、キッカーの質が素晴らしいからでもある。実際には点差が開きましたが、拮抗した試合になると思っていたなかで、セットプレーによる先制点が日本を有利な試合展開に導いたのは間違いない。今後もオープンプレーとともに、セットプレーの準備も徹底していきたい」
スペインへ新天地を求めて6シーズン目。レアル・ソシエダで主軸を担って3シーズン目の久保が、キックの精度も含めて、著しい成長の跡を見せていると指揮官は目を細めた。固定されなかったキッカーが、ようやく定まった効果でもある。
■久保建英「僕はいつでも準備できている」
チーム事情もあり、今シーズンのレアル・ソシエダではキッカーを担っていない久保は、イマノル・アルグアシル監督の名前をあげながら思わず苦笑する。
「監督が見てくれていたらいいんですけど。僕はいつでも準備できているし、今日も練習通に蹴れました。これを機にセットプレーでいろいろな形が増えてくれば」
久保がキッカーを担うセットプレーの新たなデザインに、192cmといま現在の森保ジャパンで最長身の高井も組み込まれ、川崎の下部組織出身同士によるホットラインが開通する。日本のアジア最終予選史上で最多得点記録を更新した中国戦をへて、ごく近い将来に実現するかもしれない光景が鮮明に浮かび上がってきた。
(取材・文/藤江直人)