ある意味ではそれまでで最も大きな歓声が、埼玉スタジアムを揺るがしたといっていい。2026年の北中米W杯出場をかけて、5日に行われた中国代表とのアジア最終予選の初戦。日本代表が大量4点のリードを奪って迎えた63分だった。  それまで1ゴール…

 ある意味ではそれまでで最も大きな歓声が、埼玉スタジアムを揺るがしたといっていい。2026年の北中米W杯出場をかけて、5日に行われた中国代表とのアジア最終予選の初戦。日本代表が大量4点のリードを奪って迎えた63分だった。

 それまで1ゴール1アシストを決めていた左ウイングバックの三笘薫(ブライトン)に代わって、伊東純也(スタッド・ランス)がピッチに立った。1月24日のインドネシア代表とのアジアカップ・グループステージ最終戦を最後に、ファン・サポーターの前から姿を消していた勇姿の帰還を誰もが待ち焦がれていた。

「やはりモチベーションが上がりましたし、本当に嬉しかった。自分が入る前からいい流れだったので、それに乗り遅れないように、という思いでした」

 大歓声に魂を震わせた伊東は、14分後にさらにスタンドを熱狂させている。それまで堂安が務めていた右ウイングバックに伊東が、堂安に代わった前田大然セルティック)が左に入った布陣で、「14番」が輝きを放ったのは77分だった。

 ペナルティーエリア内の右側でMF久保建英(レアル・ソシエダ)からパスを受けると、振り向きざまに左足を一閃。中国DFの左足に当たったシュートはコースを変えて、相手キーパーの逆を突いてゴール左隅へ吸い込まれていった。

■自然に出たゴール後の行動

 昨年10月17日のチュニジア代表との国際親善試合(ノエビアスタジアム神戸)以来、324日ぶりに決めた代表通算14ゴール目。仲間たちによる歓喜の輪から解き放たれた伊東は、ファン・サポーターが陣取るゴール裏へ深々と頭を下げた。

「自然に出ました。声援に対して『本当にありがとうございます』という感じで」

 珍しいゴールパフォーマンスの意味をこう明かした伊東は、ベンチのメンバーを含めて、復活を告げる自身のゴールを喜んでくれた仲間たちにも感謝している。

「自分が喜ぼうと思ったときには、すでにみんなが周りにいました。映像も確認しましたけど、ベンチのメンバーもめちゃくちゃ喜んでくれていて本当によかった」

 カタールで開催されていたアジアカップの期間中に、一部週刊誌で性加害疑惑と刑事告訴が報じられた。仲間たちは最後まで反対したが、最終的には日本サッカー協会の判断でチームを離脱。伊東を失った森保ジャパンは一夜明けた2月3日のイラン代表との準々決勝で敗れ、本命にあげられていた優勝を逃した。

 3月、6月シリーズでも招集外だった伊東のもとには、森保一監督から「純也を守るために呼ばなかった」と連絡が入っていた。代理人弁護士を通じて事実無根を訴えていた伊東は、推定無罪の大原則のもとで、代表を離脱した直後からリーグ戦で起用し続けてくれたスタッド・ランスで、サッカーだけに集中する日々を送った。

■「悔しい時間でしたけど……」

 2人の女性に対する準強制性交致傷容疑で、大阪地検へ書類送検されていた伊東は8月9日に嫌疑不十分で不起訴処分となった。そのうえで7月下旬から実施されたスタッド・ランスの日本ツアーにおいて、伊東が好意的に迎えられていた状況を確認した森保監督が、今回のアジア最終予選からの戦列復帰を決めた。

 その後に前田と久保のゴールもアシストし、アジア最終予選における日本の歴代最多得点更新に貢献した伊東は、約7カ月の離脱を乗り越えた心境をこう明かす。

「悔しい時間でしたけど、いまはチームに貢献していくことしか考えていない」

 すでに日本を飛び立った森保ジャパンは、10日(日本時間11日)に敵地リファーで、初戦でオーストラリア代表を破った伏兵バーレーン代表と対戦する。

 両ウイングバックにアタッカーを配置する「攻撃的な3バック」に、森保ジャパンは6月からトライしている。時間差で起用された中国戦で、突出した個の力を介してまばゆい輝きを放った三笘と伊東への次なる期待は、敵地でドイツ代表に快勝した昨年9月の国際親善試合が最後になっているピッチ上での共演となる。

(取材・文/藤江直人)

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