「タケ(久保)はボールを運び、ゴールに向かう。アシスト、もしくはシュートのところで、とにかくバリエーションが多い。ほとんど生来的に周りと協調し、プレーの可能性を広げられる」 昨年10月、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)史上最高のサイドバッ…
「タケ(久保)はボールを運び、ゴールに向かう。アシスト、もしくはシュートのところで、とにかくバリエーションが多い。ほとんど生来的に周りと協調し、プレーの可能性を広げられる」
昨年10月、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)史上最高のサイドバックと言われるロペス・レカルテにインタビューする機会があった。ダルコ・コバチェビッチ、バレリー・カルピン、シャビ・アロンソらとチャンピオンズリーグに出場し、ベスト16進出に貢献したレジェンドは、「久保の連係面の才能」を説明していた。
「同じように優れたレフティとは何回もやったけど、もし自分が左サイドバックで、今のタケと対戦することがあったら悩ましい。(プレー)オプションがたくさんあるから、それに対処するのは大変だよ。サイドだけでなく、トップやトップ下など自在にポジションを変えることもできるし、フレキシブルな攻撃が一番、脅威だ」
9月5日、埼玉スタジアム。2026年W杯アジア最終予選、7-0で大勝した中国戦での久保のプレーは、レカルテの言葉を思い出させた――。
中国戦にフル出場、日本の攻撃をリードした久保建英 photo by Kazuhito Yamada/Kaz Photography
先制点、久保は左足のキックで左CKを遠藤航の頭にピンポイントで合わせている。前半終了間際には、この試合を決定づけた三笘薫の2点目で、堂安律の"アシストのアシスト"。ダメ押しの5点目では、伊東純也の復帰を祝福するアシストを記録した。そして7点目は自らが伊東からのパスを受け、相手より一歩前に出ると、エリア内で左足を振って豪快に決めている。
久保のプレーは、敵を完全に凌駕していた。中国人選手にとっては、絶望そのものだっただろう。相手がどのように"城門を堅く閉ざし"ても、翻弄していた。
単純なサイドの突破力では、左サイドに入った三笘薫が際立っていたかもしれない。三笘は単独のドリブルで、相手を引き連れながら、確実にクロスを流し込む軌道を作れる。さらに誘いを懸けながら、切り返すことでき、強烈な「個」を感じさせる。
一方、久保はもっとふてぶてしく老獪(ろうかい)で、相手をわざと引きつけ、その引力によって、周りを生かしていた。「連係」の質の高さこそ、彼をワールドクラスの入り口に誘うものと言えるだろう。ひとりでふたりを相手にできる崩しの力もあるが、むしろ「見せ球」に使うことによって、より簡単に相手を奈落の底に突き落とすのだ。
【左利きだけのリズム、感覚、アイデア】
「タケとは長い時間プレーしているので、彼のやりたいことはわかっているし、感じ合える部分があるんじゃないですかね」
堂安律はそう言って、久保との関係性を説明していた。
「タケのよさを生かして、自分のよさを生かして、と思っていましたね。左は薫君の強烈な個があるので、右では連係を出しながら、違う形で攻める感じで......。それはチーム戦術で落とし込んでいて、ハーフタイムにもそういう指示が出ていました」
中国戦で堂安は右ウイングバックに入ったが、従来のポジションに収まらず、積極的にインサイドへ入り、ゴール前にも飛び出した。久保といい距離感を作り、お互いの左利きだけの間合いがあった。2点目は久保がサイドでふたりを引きつけた後にボールを戻し、それをフリーで受けた堂安がファーサイドに入れ、三笘がヘディングで合わせたものだ。
ラ・レアルでも、久保は左利きの選手たちと協調することで、力を引き出された。左利きだけのリズム、感覚、アイデアがあるのだ。
「(敵)ふたりが(自分に向かって)来たので、フリーの堂安選手につけて。(左足でファーに落とすボールを入れた)あれは(ラ・レアルでやはり左利きの)ブライス・メンデスともやる同じ形です。相手を引きつける力は、自分の特長でもあるので」
久保はそう言って、堂安との阿吽の呼吸を解析していた。
「今は余裕もあるので。"俺が、俺が"すべてではない、と思っています。ギラギラもしていますけど、サッカーはチームスポーツで、いろんな選手のよさを出そう、と意識していますね。三笘選手だったらシンプルに、堂安選手だったらコンビネーションを使って、それでボールが返ってきて、信頼も得られる。よさを出すことがアシストにもゴールにもつながって、伊東選手も、『(シュートを)打とうと思ったけど、タケが見えた』と言ってくれました」
コンビネーションを重ねることによって、久保は森保ジャパンで欠かせない存在になっている。伊東や堂安というポジション的なライバルとも共闘関係を作った。もっとも、そこに鎌田大地が入っても、あるいは左サイドが三笘から中村敬斗に代わっても、彼は違う形を作り出せるだろう。連係面の広がりこそ、久保の本質だからだ。
「代表は、みんなライバルだと思っています。でも、活躍しないと困りますし、活躍はうれしい。それが日本代表の強化につながるので。自分は、苦しい時にチーム救いたい」
最後に久保はそう言った。黒子に収まるつもりもない。その真価は、世界を舞台にした戦いで問われる。
9月10日、日本はオーストラリアを下したバーレーンと敵地で戦う。