今季はフルタイムでDHとしてプレーし続けている大谷。(C)Getty Images「守備でチーム貢献のできていない指名打者(DH)をMVPとしていいのか?」 今季のメジャーリーグのナショナル・リーグのMVPを巡って、上記の論争がヒー…

今季はフルタイムでDHとしてプレーし続けている大谷。(C)Getty Images

「守備でチーム貢献のできていない指名打者(DH)をMVPとしていいのか?」

 今季のメジャーリーグのナショナル・リーグのMVPを巡って、上記の論争がヒートアップしている。渦中にいるのは、異彩を放ち続ける大谷翔平(ドジャース)だ。

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 昨年9月に執行した右肘側副靭帯損傷手術のリハビリもある今季の大谷は、マウンドに立たず、打撃に専念。開幕からフルタイムでDHでの出場を続け、現地時間9月3日時点で打率.292、44本塁打、98打点、46盗塁、OPS.993と軒並みハイアベレージを記録。さらに史上初となる「シーズン50本塁打・50盗塁」の金字塔も現実的な目標として捉えている。

 ここまでの図抜けた打撃成績を考慮すれば、「MVP受賞は必然」と言えなくもない。しかし、実際のところ受賞は簡単ではないという見方は強い。というのも、メジャーリーグでは過去に純然たるDHがMVPを獲得した例がないのだ。

 過去のMVP受賞者で、最もDHとしての出場率が高かったのは、1979年のドン・ベイラー。年36本塁打、リーグトップの139打点でエンゼルスを初の地区優勝に導いた大砲のDHとしての出場率はわずか40%だった。

 名だたる強打者たちが一度も受賞できなかった。「史上最強のDH」として名を馳せたデビッド・オルティスも、54本塁打、137打点の打撃二冠王に輝いた2006年でさえも投票結果は3位。それほど容易ではないのである。

 評価が高まらない理由は、やはり「守備に就かない」という点が大きい。近年のメジャーのMVP投票で重要視されるようになっている指標「WAR」において、他のポジションと貢献度を比較する際にDHは例外なくマイナス評価が下される。よって守備に就く野手より圧倒的な打力を見せなければならない。

 では、今季の大谷はどうか。現地メディアでもシビアな指摘は飛んでいる。米ポッドキャスト番組『Locked On Mets』の司会を務めるライアン・フィンケルスタイン氏は、“贔屓球団”の遊撃手フランシスコ・リンドーア(メッツ)を推挙した上で「オオタニが今季のリンドーアよりもMVP価値があると評価するつもりはない。オオタニは指名打者として毎試合、約7分から10分間プレーするだけだ。リンドーアよりも、はるかに簡単な仕事をしている」と発言した。

「今のオオタニを否定することは難しい」の声も

 無論、大谷を評価する意見もある。すでに史上初の「43-43」を達成し、さらに記録を伸ばそうとする打棒は、相当なインパクトがあるためだ。米メディア『The Athletic』のケン・ローゼンタール記者は、「肘の大手術からの回復を図るオオタニは今シーズン、エリートクラスの先発投手として守備面でプレーしていない。しかし、彼はどの選手よりもはるかに優れた攻撃面でMVPの最有力候補だ」と一石を投じている。

「今のオオタニはユニークなケースを作っている。史上6人目の40-40プレーヤーとなっている。偉業達成の裏には6月16日に左手を骨折して約2か月欠場したチームメートのムーキー・ベッツに代わって1番打者に入ったことでより走力をもたらすようになった。MLBは、昨シーズンに盗塁を促進させるルール変更(ベースの拡大とプレートを外せる回数の規制)を行ったが、これまで50-50に達した選手はいない。彼が歴史を作りそうな状況だ。

 2022年にはオオタニが打者として34本塁打でOPS.875、投手として166イニングで防御率2.33の成績を残したにもかかわらず、アーロン・ジャッジがシーズン最多記録となる62本塁打を放ったため、彼を(MVP争いで)否定するのが難しかったのと同じように、今のオオタニを否定することは難しいだろう」

 娯楽性の尽きないMVP論争は果たしていかなる結末を迎えるか。もしかすると、大谷が史上初の「50-50」という大記録を残した瞬間に決するのかもしれない。いずれにしても、その行く末をワクワクしながら見守りたい。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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