クリーンアップは無安打なのに、11安打9得点の猛攻。青森山田(青森)は甲子園初戦で長野日大を9対1で破り、順調な滑り出しを見せた。 今春のセンバツでは京都国際、広陵(広島)と実力校を破ってベスト8に進出。今夏の甲子園では、優勝を狙えるだけ…

 クリーンアップは無安打なのに、11安打9得点の猛攻。青森山田(青森)は甲子園初戦で長野日大を9対1で破り、順調な滑り出しを見せた。

 今春のセンバツでは京都国際、広陵(広島)と実力校を破ってベスト8に進出。今夏の甲子園では、優勝を狙えるだけのタレントが揃っている。

 なかでも大会の主役になりうる能力を持っているのが、初戦で1失点完投勝利を収めたエース右腕の関浩一郎だ。


初戦の長野日大戦で好投した青森山田のエース・関浩一郎

 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【フィジカル強化で球速アップ】

 今夏の青森大会で最速152キロを計測したが、この日は最速146キロ止まり。制球重視で要所を締める省エネ投法の色が濃かった。試合後、関はこう振り返っている。

「暑さもありますし、初球にストライクを入れることを意識していました。ストライクをとりにいくことでヒットが多くなる(被安打8)のは仕方がないと割り切って。疲労感はあまりありません」

 ペース配分をする理由について問われると、関はこんな言葉も漏らした。

「自分たちは優勝を目指してやっているので」

 186センチの長身を間近に見上げると、凛々しい目元が印象的だ。帽子を脱ぐとツーブロックのヘアスタイルがのぞく。太い声でハキハキと受け答える姿からは、新たな甲子園スター誕生の気配が漂ってくる。

 今夏、関は急激なスピードで進化を遂げている。兜森崇朗監督は「春先から夏にかけてストレートが5〜6キロ速くなった」と語り、捕手の橋場公祐は「明らかにストレートもスライダーも速くなって、空振りがとれる確率が上がっている」と証言する。

 昨秋時点で最速145キロだったストレートが一気に速くなった理由はどこにあるのか。関に尋ねると、その秘密を語ってくれた。

「センバツからフィジカルの部分がひと回り、ふた回りくらい変わりました。体重も7キロくらい増えていますし(現在は91キロ)。体づくりの成果が今は出ているのかなと感じます」

 ウエイトトレーニングを朝と練習後の1日2回に分けて行ない、食事量も1日5〜6食に増やした。

 かつては上半身のウェイトトレーニングをしない投手が多かったが、今は全身をバランスよく鍛える投手が増えている。関は「むしろ上半身のほうが(トレーニング量は)多い」と語る。

【独特な感性を持つ本格派】

 なぜここまで鍛え込んだのか。報道陣からそう問われた関は、春のセンバツでの屈辱について語った。

「広陵戦で自分の自信のあるボールを打ち崩されて、また自信を持てるボールをつくるために頑張ってきました」

 とはいえ、関は球速にこだわりがあるわけではない。

「自分はボールの質にこだわって、多少ボール球でも振ってもらえるボールを目指しています」

 関のストレートには「2面性」がある。捕手に向かってきれいな回転で伸びていくストレートと、シュートしながら浮き上がるストレートの2種類に分かれるのだ。関の言葉を受けて、てっきり前者のストレートを磨きたいのかと思っていた。

 だが、あらためて関に尋ねてみると、そうではなかった。

「自分のなかでは指にかかった(回転のきれいな)ストレートはよくないと思っていて、シュートして自打球になるくらいがベストだと考えています。そこまでいったらこっちの勝ちなので。キレのいいストレートより、汚いほうがあとにつながるかなと」

 美しいバックスピンのかかったストレートを目指すのではなく、多少シュートさせて打者に苦痛を与えるストレートを目指す。本格派投手としては、かなり変わった感性と言えるだろう。

 関の特殊性は変化球への考え方にも見てとれる。関の武器であるスライダーの球速が上がっている点を指摘すると、こんな答えが返ってきた。

「ストレートと比例してスライダーの球速も上がっています。自分の考え方としては、『ストレートとスライダーは一緒』ととらえているので」

 その言葉だけでは理解できなかったため、重ねて「一緒というのは、ストレートもスライダーも同じ腕の振りで投げるということですか?」と聞くと、関は少し黙考した。必死に言葉を探してくれているようだった。

「感覚よりかは、『同じボール』というくらいの考え方を持っているので。セットで考えています」

 受け取り方が難しいニュアンスだったが、ストレートとスライダーを「同じボール」ととらえることで、結果的にスライダーが速い球速帯で鋭く曲がるということだろう。関に「スライダーを曲げようと思って投げていないということですね?」と確認すると、「はい」とうなずいた。

 灼熱の甲子園のマウンドに立っていても、関の表情はどこか涼しげに見えた。そんな印象を伝えると、関はこう答えた。

「センバツを1回経験させてもらっているので、そのアドバンテージはあるのかなと思います。いつもどおりの感覚で投げていました」

 甲子園初戦は関本人が「7〜8割の力感」と語り、捕手の橋場も「今日は抑え気味」と語ったようにフルスロットルではなかった。これから青森山田が勝ち進むにつれて、関のポテンシャルの全容が現れてくるように思えてならない。

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