【連載】有村智恵のCHIE TALK(第2回) JLPGAツアー通算14勝をあげ、米国ツアーに挑戦した経験もあるプロゴルファーの有村智恵の連載・第2回。2022年オフに、妊活に専念するためツアーの一時休養を発表し、現在は双子の男児の母として…

【連載】有村智恵のCHIE TALK(第2回)

 JLPGAツアー通算14勝をあげ、米国ツアーに挑戦した経験もあるプロゴルファーの有村智恵の連載・第2回。2022年オフに、妊活に専念するためツアーの一時休養を発表し、現在は双子の男児の母として奮闘しながら、30歳以上の女性プロゴルファーのためのツアー外競技「LADY GO CUP」を主宰するなど精力的な活動も続けている。

 今回は、今注目の選手や、好調をキープする堀琴音選手について、そして有村選手が思う各クラブの名手を聞いた。



NEC軽井沢72ゴルフトーナメントでも2位タイと好調をキープする堀琴音 photo by Getty Images

ーー前回、オリンピック代表選手や黄金世代の話を伺いましたが、同世代やベテランで注目している選手はいますか?

 すごいな、と思うのは藤田さいき選手(38歳/メルセデスランキング18位 ※8/12現在、以下同)ですね。

 今年の全米女子オープンの最終予選会(日本会場)を通って本戦に出場されているんですけど、全米女子オープンの予選会って、いつも4〜5月頃に開催されるんですね。その時期に1日で36ホールをプレーすると、すごく体が消耗して、その後のシーズンに響きそうで、私はなかなか挑戦できていなかったんです。それで(その年の)シードを取れなかったらどうしよう、と思ってしまったり。

 だけど、あの時期に36ホールを戦って全米オープンに行って、その後もしっかり成績も残して、ちょっと異次元の体力ですよね。それだけ気持ちが続くっていうのもすごいことだと思うので、応援もしていますし、刺激になります。年齢を言い訳にできなくなりますよね。

ーー若手選手の注目株は?

 このあいだ(資生堂レディスで)優勝した桑木志帆選手(21歳/同12位)は、ショットだけで言うと今1、2を争うくらい精度が高いんじゃないでしょうか。身体的なポテンシャルもすごく高そうなので、小技がついてくれば彼女ももっともっと成績を残せるんじゃないかと思います。

 今年は試合会場で見れていないので、みなさんと同じようにSNSやインターネットでの印象ですけど、今年のデビュー組の選手は可愛い子が多くて(笑)。政田夢乃ちゃん(24歳/同67位)可愛い! みたいな(笑)。



ルーキーの政田夢乃はNEC軽井沢72ゴルフトーナメントで惜しくも2位タイ

 それと、昨年のプロテストでトップ通過だった清本美波選手(18歳/同145位)は、私がずっと教わっていた目澤秀憲コーチに教わっているみたいで、そういうご縁もあって勝手に応援はしているんですけど。もう完全にゴルファー目線ではなくファン目線ですね(笑)。

ーー少し前の女子ツアーは個性的な選手が多かった印象ですが、最近の選手はいかがですか?

 みんな同じように私に喋ってくれるし、ファンサービスもしっかりしているし、メディア露出にも協力的です。私はもともと、アスリートだからこそ尖る時は尖って、みたいな人間だったので、だからこそ尖っていないのに成績を出せる人たちはすごいなって心から思っています。逆に尖っている選手に対しても「わかるわかる。もうそのままいって!」って思っちゃう(笑)。

【ノールックスタイルのパッティングで好調の堀琴音。アマチュアも真似できる?】

ーー最近、有村さんとも仲がいい堀琴音選手(28歳/同24位)の活躍が目立ちます。有村さんから見て堀選手はどんなプレーヤーですか?

 天才だと思っています。

 あの体のポテンシャルであの成績を残せるって結構すごいことなんです。彼女はそんなに身体的なポテンシャルが高くなくて、体幹も強くないし足腰もそんなに強くありません。「この動きやってみて」って言ってもできないことが多かったり(笑)。ですが、私たちの業界でいう"球さばき"というか、手でボールをさばく技術に天才的なものがあって、それが全てをカバーしているんです。

 だから彼女はトレーニングを積んで体力がついてきたら、相当すごいことになるとは思います。だけど、私たちがずっと彼女に言っているのは「変なトレーニングをしたらあなたのその手の感覚、ボールをさばくときのいい感覚が失われるから、すごく慎重にやらないとダメだよ」ということです。でも、あのボールさばきのうまさっていうのは、やっぱり真似できないんですよね。

 あとは、あの気持ちの強さですね。基本がせっかちで、自分のゴルフに対しての気持ちが強すぎて、周りが見えなくなったりするんです。でも、私もそうなることが多いですし、真っ直ぐになっている選手が好きなので、だから応援したくなる。分かりやすいというか、全部がゴルフのためだから、いろいろ振り切っちゃうのも許せるみたいなところがありますね。

ーー堀琴音選手といえばノールックスタイル(ボールではなくカップを見ながらストロークする)パターも話題になっています。

 パターって、体幹や体が動かないように、どっしりしておかないとバランスが崩れるんです。下を向いてボールを見ていると、体って簡単に動くんですけど、ノールックで違うところを見ていると、体があまり動きません。違う場所を見たり、目をつむったりしている方が、体のバランスはズレにくいんですよね。あのスタイルの利点は体が動かないことと、あとはフィーリングが出しやすいところです。

 フィーリングを出すっていう意味では、特にこっちゃん(堀選手)が今使っている長尺パターは、なかなかフィーリングを出しにくいんですよ。(長尺パターは)右手でボールを押すというより振り子でストロークするだけのイメージなので、構えたらラインのイメージも消えやすい場合があって。だから、ノールックスタイルの2つの利点が、その短所を打ち消しているというか。

 こっちゃんは、去年のエリエール(大王製紙エリエールレディスオープン)で、(今年の)シードがかかった最終日の17番ホール、体もストロークの軌道もすごくズレていたんですよね。緊張して余計に手も動かなくなっていたので、そういう時にはノールックスタイルってすごくいいんですよ。

 このスタイルの一番の敵は、怖さなんです。ボールを見ないことでの怖さがありますけど、それは練習を積めば解消されます。怖さと、あとは恥ずかしさ(笑)。恥ずかしさって結構あるんですよ。目をつむったりとか、何か違うことをやっているっていうのは、普通に打つのがなんかイヤだって思っているのがバレちゃいますから。でも、そこを乗り越えられるとうまくなれるので、こっちゃんもそのうちまた勝つんじゃないかなと思っています。

ーー利点が多いノールックスタイルは、アマチュアも取り組む価値がありますか?

 むしろ練習した方がいいと思います。自分の打点がどれだけズレているのかがわかります。ノールックでボールが打てないってことは、アドレスやボールのポジションが悪かったり、体の位置が悪かったりするということなので、アマチュアこそ絶対にそういう練習も取り入れた方がいいと思います。



ボールではなくカップを見ながらストローク。アマチュアにも利点があるという

【有村智恵が選ぶ各クラブ最強の選手】

ーーここからは、有村さんから見た各クラブの名手をお聞きします。まずドライバーはどなたでしょう?

 岩井明愛選手(22歳/同5位)ですね。飛ばせるのに、たぶんどんな球も打てて、高さも変えられるんですよ。曲げられるし、コントロールもできるから、やっぱり彼女かな。

 飛ばせるということはヘッドスピードが早い選手ということなんですけど、ヘッドスピードがある選手って、逆にそのスピードを落とす方が難しいので、コントロールショットが苦手だったりするんです。でも彼女は本当に自由自在にドライバーを扱えているイメージがあって、あそこまで技術とスピードが兼ね備えられている選手ってほかにいないかなと思います。

ーーなるほど。アイアンはいかがでしょう。

 誰だろう? 今はアイアンはみんな上手いですからね。ユーティリティなら堀琴音選手なんですよ。彼女のユーティリティはダントツで上手いですね。他の人のウェッジよりも近くにつけるって、本当にどういうこと? みたいな。フェアウェイウッドだと青木瀬令奈選手(31歳/同15位)は上手いな、と思います。

ーーちなみにアプローチが上手いと思う選手は?

 アプローチは上田桃子選手(38歳/同50位)ですね。桃子先輩は、技も持っているし、グリーン周りでほぼほぼミスしないイメージがあります。昔から上手いと思っていましたけど、アメリカでいろいろな状況に対応するための技を習得していたんでしょうね。

ーー最後にパターの名手を教えてください。

 やっぱり鈴木愛選手(30歳/同9位)かな。今の愛ちゃんのパッティングは、自信も持っているし、もう全部入りそうな感じがしますよね。もうひとり、私も上手いなと思っていましたけど、パターが上手い人たちが上手いって言うのは森田遥選手(28歳/同26位)なんです。鈴木愛ちゃんも言っていましたし、パターが上手い人に聞いてよく名前が挙がるのは森田遥ちゃんですね。

「有村智恵のCHIE TALK」 次回は8月20日(火)に更新予定

【Profile】有村智恵(ありむら・ちえ)
1987年11月22日生まれ。プロゴルファー。熊本県出身。
10歳からゴルフを始め、九州学院2年時に日本ジュニア12~14歳の部優勝。3年時に全国中学校選手権を制した。宮城・東北高で東北女子アマ選手権や東北ジュニア選手権、全国高校選手権団体戦などで優勝。2006年のプロテストでトップ合格。2007年は賞金ランク13位で初シードを獲得した。2008年6月のプロミスレディスでツアー初優勝。2013年からは米女子ツアーに主戦場を移した。16年4月の熊本地震を機に日本ツアーへ復帰。2018年7月のサマンサタバサレディースで6年ぶりの優勝を果たすなど、JLPGAツアー通算14勝(公式戦1勝)をあげる。
2022年に30歳以上の女子プロのためのツアー外競技「LADY GO CUP」も発足させた。
2022年11月に、妊活に専念するためツアー出場の一時休養を表明。2024年4月に双子の男の子を出産した。