ベガルタ仙台の森山佳郎監督、横浜FCの四方田修平監督、アルビレックス新潟の松橋力蔵監督と、育成年代でコーチとしてのノウ…
ベガルタ仙台の森山佳郎監督、横浜FCの四方田修平監督、アルビレックス新潟の松橋力蔵監督と、育成年代でコーチとしてのノウハウを身に着けてきた指揮官の奮闘が目立つ2024年Jリーグ。中でも、頭抜けた成果を残しているのが、J1トップを走る町田ゼルビアの黒田剛監督だ。
ご存じの通り、黒田監督は2022年末まで青森山田高校監督を30年近く務め、柴崎岳(鹿島)や松木玖生(ギョズテペ)らタレントを育て上げてきた。高校サッカーの指導者がここまでの成功を収めるというのは紛れもなく大きなサプライズと言っていい。
だが、ユース年代で黒田監督とも何度も対戦し、切磋琢磨してきた森山監督にしてみれば、特に驚きはないようだ。
「黒田さんは何十年も監督として試合をこなしてきた指導者。高円宮杯プレミアリーグU-18、高校総体、高校選手権、フェスティバル、海外遠征など年間100試合はゆうに超えていると思いますし、プロのトップチームの監督やコーチに比べても、こなしてきた試合の数が全く違います。
その中でいろんな出来事に直面したでしょうし、そのたびに対処法を考えたはず。選手も毎年違いますから、いろんなタイプを見ながらどんな声掛けをしてきたらいいか、どう組み合わせたらいいかを模索し、最適解を見出してきたはずです。
その積み重ねは物凄く大きい。監督としてのキャリアは育成・トップというカテゴリーは関係ないと思います。ただ、育成指導者の方がよりメンタル面や人間的な部分に働き掛けないといけないのは確か。その経験値も今に生きているはずです」と彼は自分自身と重ね合わせるところが少なくないようだ。
■求められる幅広い指導力
ただ、直近の約10年を日本サッカー協会(JFA)で過ごしてきた森山監督にしてみれば、仙台に来てからの方が幅広い指導力を求められると感じることも多いという。
JFAでU-17日本代表を率いていた頃は、代表合宿に中村憲剛(川崎FRO)、阿部勇樹(浦和ユースコーチ)、内田篤人(解説者)のようなロールモデルコーチを呼べた。ストライカー専門コーチとして大黒将志(枚方FCコーチ)らに来てもらうことも可能だった。しかしながら、地方のJクラブにそこまでの余裕はない。限られたスタッフが最大限の力を発揮して、選手を伸ばし、チームを勝たせなければいけないのだ。
「我々を含めて日本サッカー界全体が直面している左サイドバック(SB)問題にしても、SBのスペシャルコーチがいて、必要なプレーを教えられるような環境があればいいですけど、人とお金の余裕がないのが現状。となれば、1人のコーチがいろんなポジション特性を理解し、それを選手たちに教えられるようにならないといけないと思います。
今の仙台も自分の下にコーチ3人(片淵浩一郎、今野章、西洋祐)、GKコーチの植田元輝、フィジカルコーチの村岡誠、アナリスト兼コーチの出口拓馬という少数精鋭でやっています。それぞれが力をつけて、プラスアルファの指導ができるようになることが大事。そうなるように意識的に取り組んでいきます」
選手を伸ばし、スタッフを成長させ、そのうえでJ1昇格を勝ち取るというのは非常にハードルの高い仕事。そのやりがいを森山監督は仙台に来て初めて感じている。もちろん数多くの困難や苦しみもあるだろうが、Jクラブのトップチームの監督にしかできないこともある。全てを新鮮に感じながら、彼は新たなキャリアを積み重ねているのだ。
【もりやま・よしろう】
1967年11月9日生まれ、熊本県出身。現役時代はサンフレッチェ広島などでプレーし、サッカー日本代表としてもキャップ数を重ねる。引退後は指導者の道を歩み、サンフレッチェ広島ユースでコーチと監督を歴任。その後、日本サッカー協会で育成年代の監督を務め、U―17日本代表監督としてFIFA U―17ワールドカップに出場した。今季からベガルタ仙台の監督を務める。
※記事内のデータはすべて8月9日執筆時点
(取材・文/元川悦子)
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