今後の人生について語る馬淵優佳さん photo by Ishikawa Takao馬淵優佳 インタビュー後編 飛込選手として二度目の競技人生を終え、新たな道に進もうとしている馬淵優佳さん。インタビュー後編では競技への関わり方と今後の人生につ…
今後の人生について語る馬淵優佳さん
photo by Ishikawa Takao
馬淵優佳 インタビュー後編
飛込選手として二度目の競技人生を終え、新たな道に進もうとしている馬淵優佳さん。インタビュー後編では競技への関わり方と今後の人生について話を聞いた。
●インタビュー前編 『父・馬淵崇英に初めて反抗した日 現役引退後に父が涙ながらに語った言葉とは』>>
【育んだ自分と向き合う心】
――パリ五輪出場が叶わなかった時に、競技を続けるという選択肢はあったのでしょうか。
まだ現役を続ける選択肢もあったんですが、やるからにはオリンピックを目指さないといけません。苦しくてもオリンピックに出たいという目標があったから頑張ることができていました。この気持ちを次のオリンピックまでキープできるかというところに疑問がありました。
その気持ちが少しでも落ちると、演技に出てきてしまって、ケガをしてしまったりします。飛込においては気持ちの面はすごく大事です。気持ちをキープできないのであれば、やったとしても自分が苦しいだけ。子どもも大きくなってきていますし、もうここで次のステップにいこうと思いました。
――2024年2月に引退を発表されてから約半年の間、子育てと平行してどのような活動をされてきましたか。
テレビでのコメンテーターや、飛込の解説もやらせていただいています。今後は飛込の指導もやっていきたいと思っています。ベースは競技の指導、次の世代を育てることに重点を置きつつ、自分が表に出ることによって、飛込の普及活動もしていきたいです。競技人口がそもそも少ないので、少しでも環境を整えて、いろんな人に興味を持ってもらうことが、飛込の発展につながると思います。
――飛込の楽しさや魅力はどんなところですか。
うまくできた時には自分でわかるんです。プールに入った瞬間、これすごくいいと。それができた時には気持ちいいですね。練習中でもいい演技に対してみんなが拍手をしてくれるんです。それがうれしくて認められている感覚もあります。それがやっていてすごく楽しいところです。
――飛込を通して馬淵さんはどんなことを学びましたか。
飛込を通して、自分と向き合う心が強くなりました。飛込は自分との闘いで、メンタルコントロールがすごく必要。自分の心が乱れてしまうと演技に出てしまいますから。不安は自分で作り出してしまっているので、それをどうコントロールしていくかが大事です。人によってその不安への対処法は違っていて、とにかく練習に励む人もいますし、自分なりのルーティンを見つけ出す人もいます。
飛込は高いところから水に飛び込むので、当然怖さがあります。新種目にもどんどん挑戦していかなくてはいけないので、怖くても飛ばなくてはいけないんですが、新種目が上手に飛べるようになるとうれしいですし、開放感があります。ただその前に怖さを克服しなくてはいけません。一回苦しみを乗り越える必要があるんです。その意味では精神力や忍耐力が鍛えられますね。
【父の元で指導者の道へ】
――さきほど今後は指導を行なっていくということでしたが、具体的なところは決まっていますか。
一度目の引退の後に指導者資格を取得していますので、今後は父(馬淵崇英氏)に学びながら指導者を目指していく予定にしています。
――どんな指導者を目指したいですか。
選手たちは、競技だけで人生が終わるわけではありません。その後も人生は続きますし、そこでは自分で考え、道を拓いていかなければなりません。だから競技においても、指示に従うだけの選手にならないように指導する必要があると思っています。答えを与えずに自分で考えることが大切ですし、考える力を身につけないと強くなれないとも思っています。競技力向上にプラスして、そこも育てていきたいなと思っています。
――お父様はとても厳しいコーチでしたよね。
父は競技力向上を全面に押し出した指導者です。そこに関しては第一線で活躍してきましたし、知識もありますので、どう教えたらいいのかはすごく頼りにしています。実際に指導をする時には、自分なりに考えて自分の方法も模索していきたいと思っています。ただ競技が競技だけに無理にでもひと押ししないといけない時もあると思うんです。今後コーチとしてやっていくなかで、そこがまずぶちあたる壁かなと思っています。
【自信を持って進みたい】
――これからハードな人生が待っているのかなと思います。どんな気持ちで挑んでいきたいと思っていますか。
飛込の競技人生を通して、精神力、忍耐力、一歩を踏み出す勇気、恐怖に負けない気持ちなど、本当にたくさんのことを学びました。これから長い人生、いろんなことが起こると思いますが、自信を持って進んでいきたいです。今までの競技人生で得た経験を持って、強く生きていきたいなと思います。
――3歳から始めた一度目の競技人生、26歳からの二度目の競技人生、そしてこれからのコーチ業は、競技においては三度目の人生ということになるのでしょうか。
そうですね。一度目の競技人生は未熟でしたが、二度目の競技人生を通して、昔の自分よりは強くなったかなと思います。
特に女性は年齢を重ねることをネガティブに捉えがちだと思っていて、実際、私はまだ29歳ではありますが、誕生日がくるのが嫌だなと思うことがありました。ただ年齢を重ねることは経験を重ねることでもあるので、かっこよく年齢を重ねたいです。若さもいいけど、年をとることもいいなと思って人生を送っていきたいですね。
――目標はありますか。
オリンピック選手を育てること。そしてその選手をスターにしていくことが目標です。それから競技のすそ野を広げつつ、飛込をもっと有名にしたいです。そのためにはスター選手を作っていかないといけないですし、自分はテレビに出させていただいているので、広める活動をしていきたいです。まだまだ未熟ですが、少しでも飛込界に貢献できたらうれしいです。
――すそ野を広げるための活動として、何か考えていることはありますか。
子どもたちを対象にした飛込教室だけでなく、大人の飛込教室を開くなど、何か新しいことをやりたいなと思っています。私は飛込って体にいいと思っているんですよ。飛ぶだけじゃなくて、泳いだりもしますし、ストレッチをしたり、マット運動をしたり、トランポリンの練習もあります。健康面でも体づくりの面でもピッタリな競技だと思います。恐怖を乗り越えて、その先にある達成感、気持ちよさを得られますので、精神面にもいいのかなと。健康や体づくりで水泳をやる人はいても、飛込をやる人はほぼいないので、そのきっかけを作りたいと思っています。
【Profile】
馬淵優佳(まぶち・ゆか)
1995年2月5日生まれ、兵庫県出身。3歳から水泳を始め、小学時代から飛込に励む。2009年に東アジア大会3メートル飛板飛込で銅メダルを獲得。2011年に世界選手権代表選考会の3メートル飛板飛込で優勝をし、世界選手権に初出場。2017年、22歳で競泳日本代表の瀬戸大也と結婚して引退。2018年に第1子、2020年に第2子を出産し、2021年、26歳の時に競技復帰を決断。2022年8月、日本選手権の1メートル飛板飛込で優勝、3メートル飛板飛込で4位、3メートルシンクロ飛板飛込で2位となる。2023年4月の翼ジャパンダイビングカップ兼国際大会派遣選手選考会の3メートルシンクロ飛板飛込で優勝。2024年2月に現役引退を発表した。