17歳の女子高生が、なんと世界の舞台で「ベスト15」に選ばれるという快挙を成し遂げた。 8月9日から26日までアイルランドで開催された第8回女子ラグビーワールドカップに、「サクラフィフティーン」こと15人制の女子日本代表は15年ぶり4度目…

 17歳の女子高生が、なんと世界の舞台で「ベスト15」に選ばれるという快挙を成し遂げた。

 8月9日から26日までアイルランドで開催された第8回女子ラグビーワールドカップに、「サクラフィフティーン」こと15人制の女子日本代表は15年ぶり4度目の出場を果たした。しかしながら、予選プールではフランス、アイルランド、オーストラリアにいずれも敗戦。さらに順位決定戦でもイタリアに敗れたが、最終戦で香港からW杯通算3勝目となる白星を挙げて11位で大会を終えた。


女子ラグビーW杯で

「ベスト15」に選ばれた17歳の津久井萌

 そのサクラフィフティーンで「9番」を背負って5試合すべてに先発し、日本の高速アタックを一手に担っていたのが、高校生で唯一のW杯出場となったSH(スクラムハーフ)津久井萌(東京農大二高3年)だ。2000年3月生まれの17歳での出場は、日本だけでなく出場した全12チームのなかでも最年少。また152cmの身長も、W杯に出場した選手のなかでもっとも小柄だった。

 津久井が憧れる選手は、男子日本代表のSH田中史朗(パナソニック)。その彼を彷彿とさせる俊敏なプレーが持ち味で、パスさばきも速くて正確だ。しかも、身体の大きな海外選手にも「得意というか好きです!」という低いタックルを武器とし、W杯でも果敢に繰り返していた。

 そして大会終了後に「ドリームチーム」が発表されると、SHのポジションには「M.TSUKUI」の名前が記されていた。つまり、その高いパフォーマンスが評価されて、今大会の「ベスト15」に選出されたのだ。これは、2015年の男子W杯終了後にFB(フルバック)五郎丸歩(ヤマハ発動機)が選出されたドリームチームと同様のものであり、ポジション別の最優秀選手賞と言ってもいいだろう。

 知らせを受けた津久井本人は、まさか自分が「世界のベスト15」に選出されるとは想像していなかったようで、「本当にビックリしました! チームメイトのみんなから『おめでとう』と言ってもらいました!」と破顔しながら心境を語った。

 その他の「ベスト15」の内訳を見てみると、W杯で5度目の栄冠に輝いたニュージーランドから6名、惜しくも準優勝だったイングランドから3名、予選プールで日本に快勝した3位のフランスから2名、4位のアメリカから2名、5位のカナダから1名だった。6位以下のチームから選出されたのは、日本の津久井ただひとり。今回の選出がいかに快挙だったか、よくわかるだろう。

 津久井は5歳のとき、1歳上の兄の影響で群馬・高崎ラグビースクールに通うようになった。小さいころから彼女はSHひと筋だったという。進学した花園常連の強豪校・東京農大二高では男子と一緒にプレーし、高校2年時にはニュージーランド留学も経験。ラグビー王国でパスの精度やSHとしての判断力を磨いた。そして昨年9月、彼女のプレーを見た15人制日本代表の有水剛志ヘッドコーチ(HC)が、7人制日本代表のアカデミー生にも選ばれていなかった津久井を抜擢した。

 W杯での活躍を見れば、指揮官の選手を見る目は正しかったと言えよう。有水HCは「(ベスト15を受賞した実力を持っていることは)間違いないです。1年前にW杯でベスト15を取るとはイメージしていなかったですが、個人でボックスキックの練習に励むなど、自ら学んで成長していきました。手前味噌ですが、日本代表でどんどんうまくなった。賢い選手です」と語る。

 中3日で5試合を戦うW杯のハードなスケジュールのなかでも、津久井のテンポのいい球さばきは海外のSHの選手と比べても群を抜いていた。個人的に印象に残っているシーンは、予選プール3戦目となったオーストラリア戦の後半12分。自分より大きな相手を低いタックルで仕留めてボールを奪い、そのまま走って相手を引きつけてからパスを出し、最後はCTB(センター)黒木理帆のトライを演出した一連のプレーだ。津久井のラグビー理解度の高さ、スキルの正確さが光ったシーンだった。

 予選プール初戦で大敗したフランス戦では、個々のフィジカルやスピードの違いを実感したという。「自分たちはチャンスで(トライを)獲りきれないが、強いチームは獲りきれる」。世界の強豪との差を感じたと、津久井は語る。

 ただ、初めてのW杯で自信になったこともあった。津久井は「自分のいいプレーができているときは、日本代表もいいアタックができていることが自信になった」と胸を張る。その一方で、「ちょっとでも(判断が)遅くなったときは迷惑をかけてしまった。中3日で強豪と5試合対戦するので、もっとタフにならないとベストパフォーマンスできない」と、しっかりと反省することも忘れなかった。

 高校3年生の最後の夏休みは強化合宿とW杯の「ラグビー漬け」で、ほとんど遊ぶ時間もなかったという。アイルランドに持っていった夏休みの宿題は、1ページも進めることができなかった。

 それでも、初の大きな国際舞台を経験した17歳は、「(次のW杯の)4年後、ベスト8に行くために何ができるかを考えるようになりました。個人的な部分を伸ばして、チームに勢いを与えられるようにもっと経験を積んで、どんな状況でも冷静な判断ができるようになりたい」と先を見据える。そして、「海外でもプレーしてみたい」とも。

 W杯で「ベスト15」に選出された津久井は、17歳で世界的プレーヤーの仲間入りを果たした。「自分のパスがトライにつながったら楽しい!」と語る彼女の大きな瞳は、すでに2021年に開かれる次のW杯に向いている--。