8月6日、パリ南アリーナ。パリオリンピック卓球女子団体の準々決勝で、早田ひな、平野美宇、張本美和の3人からなる日本は、危なげなくタイを3-0と下し、準決勝に進んでいた。「金メダル」 明確な目標を掲げる日本は、そこへ向かって力強く前進した。…

 8月6日、パリ南アリーナ。パリオリンピック卓球女子団体の準々決勝で、早田ひな、平野美宇、張本美和の3人からなる日本は、危なげなくタイを3-0と下し、準決勝に進んでいた。

「金メダル」

 明確な目標を掲げる日本は、そこへ向かって力強く前進した。そんな彼女たち3人の強さの理由とは――。



卓球女子団体で準決勝に挑む(左から)平野美宇、早田ひな、張本美和 photo by JMPA

 日本は格上だが、タイ戦には十分に警戒して臨んでいた。

 第1試合のダブルス、早田・平野のペアは集中していた。序盤から、それぞれがよさを生かし合い、確実にゲームを取って優勢に展開。早田が長身から繰り出すサウスポーのフォアドライブで相手をたじろがせ、平野が柔らかな手首の作用を最大限に利用したバックハンドでいやらしい回転をかける。

 早田はシングルスで左前腕をケガしており、治療を受けながらのプレーだったが、連係によって弱点を消していた。

「(早田とはダブルスを)組んだこともあるし、同い年でよくわかっていますし、お互いがカバーしながら、一戦一戦、頑張りたいです。(早田のケガは)練習ではできていたので、試合では"気にせずにふだんどおり"と心がけて」

 平野は1回戦のポーランド戦後にそう話していたが、タイ戦ではコンビネーションがさらに成熟していた。相手も揺さぶってくるが、平野が打ち返すボールのコースをうまく絞ったことで、早田は足を使って位置を変えながら、回り込んで強烈なフォアで圧倒。3-0で勝利し、少しも隙を与えなかった。

「タイのエースダブルスとの試合だったので、どちらかというとチャレンジャーの精神で、向かっていく気持ちで試合ができました」

 早田は試合を振り返って、こう続けている。

「昨日(1回戦のポーランド戦)よりも戦術だったり、動きだったり、いいところが多かったと思います。今日は回り込みで打ったボールが点数につながったと思うし、それが(これからも)相手の脅威になるかなって。私は動けるところは動いてフォアで打つっていうのと、平野選手がコース取りをうまくやってくれるので、(球筋が)読みやすいなって思っています」

【マイペースの張本、粘り強い平野】

 第2試合のシングルスには、16歳の張本が登場した。センス抜群で、度胸もあるのか、ひとつひとつのプレーに浮き沈みがない。第1ゲームはさすがに硬さもあったが、決して動じず、デュースに持ち込むと、12-10と制した。その後は相手を完全に上回って、3-0で勝った。

「いろんなパターンも準備してきました。(シングルスで早田が銅メダルを勝ち取り)"次は自分の番だ!"って」

 そう意気込んでいた張本はマイペースが武器だろう。いつの間にか、相手を自分のリズムに引きずり込む。

 張本の第1ゲームで、目立ったのはコートサイドに陣取った早田の姿だった。得点が決まるたび、ケガをしていない右腕を天高く突き上げ、甲高い声で声援を送り、ヒザをバタバタと強く叩いた。そしてタイムアウトで戻ってきた張本に、コーチ顔負けで時間ギリギリまで熱く細かくアドバイスを送っていた。

 それを頷きながら聞いていた張本は、拮抗したゲームを勝ち取った。

 第3試合に登場した平野は、多彩なサーブが冴えていた。実直で技巧的、粘り強い卓球で、じわじわとリードを広げる。打ち返されても崩しているだけに、ラリーでは有利だった。相手のボールがネットを越えられず、徐々に点差を広げ、3-0と確実に取った。

 平野が2本を取り、この団体を牽引していたが、三者三様であることが、日本の強さと言えるだろう。それぞれ"私が取る!"という自覚が強く、その闘志が伝わってくる。

「(ほかのふたりの活躍は)頼もしい、のひと言ですね」

 早田はそう言ってから、こう続けた。

「でも、私もダブルスをしっかり取らないと、そのあとのふたり(の試合)にも緊張が出てくるので。役目をしっかり果たさないといけない。自分もできることをやって、ふたりの負担にならないようにしたいですね。この試合にかけているし、『ひなちゃんも頑張っているなら』って、ふたりにわかってもらえるように。3人で頑張っていけたら、と思います」

 5分がやっとだった練習は、1時間できるようになった。しかし、練習の入りは通常、試合の1時間半前だが、この日は4、5時間前。治療、アップ、テーピング巻き直しなどに時間はかかる。100%であるはずはない。

「金メダルという目標があるので、痛みだって耐えられます。めげていられない。いろいろサポートしてくれた方にも、結果で恩返しできたらいいなと思います」

 早田は前のめりになって、言葉に気持ちを込めた。ただ、悲壮感はない。ケガをしていても、できることがひとつ増えるたび、「やっぱり、卓球って楽しいなと思いました」と明るい声で言う。高潔で不屈、黄金の精神を感じさせる選手だ。

 三位一体というより、三者三様が力になっている。

〈金メダル〉

 その1点で、強く結びつく。8月8日、彼女たちはメダルをかけて準決勝ドイツ戦に挑む。