8月5日、パリ南アリーナ。パリオリンピック男子バレーボール準々決勝、日本はイタリアに2-3とフルセットの末に敗れている…

 8月5日、パリ南アリーナ。パリオリンピック男子バレーボール準々決勝、日本はイタリアに2-3とフルセットの末に敗れている。成績は東京五輪と同じベスト8だが、金メダルを狙えるチームだっただけに......。

「悔しかったですね。ここ(パリ五輪)で勝つため、僕は(東京五輪から)3年間やってきて、勝つことができなかった。まだ差があったのかな、と純粋に悔しかったです。3年間、もっと成長できたんじゃないかって......」

 取材エリアの髙橋藍は、そう言って悔しさを滲ませた。試合が終わった直後、コートでは誰よりも怒っているようだった。1、2セットを連取し、3セット目も24-21とマッチポイントを握ったにもかかわらず、逆転で敗れたのだ。

 自他ともに認める「負けず嫌い」の髙橋は、この敗北をどう受け止めたのか?



イタリアに敗れた直後、悔しそうな表情を見せる髙橋藍 photo by JMPA

 イタリア戦の2セット目に、相手のサーブミスで20-21になったところだった。コートに立つ髙橋の顔つきが変わる。

「相手がミスしたら、そこにつけ込まなければならない」

 それは戦いの鉄則である。世界最高峰のイタリア・セリエAで"勝負の天才"としての感覚が研ぎ澄まされた髙橋は、そこに勝機を見出したのだろう。端正な顔に猛気を纏わせ、大声で味方を叱咤。"このセットをこの流れで必ず取る"という気配を濃厚に出した。

 その気合が周りに伝播したのか。

 同じくセリエAでプレーしてきた石川祐希がすかさず反応し、クロスに打ち込む。そして関田誠大のバックトスから西田有志が豪快なひと振りで、23-23の同点にした。山本智大が奇跡的な腕一本のディグを見せると、石川が逆転のスパイク。相手はたまらずにタイムアウトを取ったが、流れは止まらない。最後は石川がオープントスを打ち抜き、25-23とものにし、観客に向かって雄叫びをあげた。

「(金メダルを目指していたので)みんな一番プレッシャーがかかったのが、予選ラウンドだったと思います。そこで考えすぎて、いつもどおりのプレーが出せなくて、噛み合いませんでした。それが準々決勝に勝ち進んで、ようやくみんな吹っ切れて、切り替えられていたと思うんですが......」

 そう髙橋は言った。

【「ふだんなら確実に取れているはず」】

 そしてターンニングポイントになった3セット目の終盤が訪れる。

 再び勝負どころ、と感じたように、髙橋は覇気を漲らせていた。オールラウンダーらしく、すばらしいディグを見せ、石川の得点につなげ、23-21とリードを広げた。さらに彼がサーブで崩した展開から、石川のプッシュにつなげ、24-21とマッチポイントにしている。

 しかしこの時、2セット目の追い上げのような緊張は生まれず、"これで勝った"という緩和した空気が流れる。

「3セット目、点差がありながら取りきれなかったのが一番だと思います。誰のせいとかじゃなくて、チーム全体が"いける"って感じたと思うから、隙ができてしまって。最後の1点を勝ち取る力が足りなかった」

 髙橋はそう振り返っている。

「3セット目は、ここで終わらせる、というつもりでした。2セット目は逆転で取ることができていたし、3セット目も、イタリアに勝ちきる、と臨んでいましたが......」

 日本はリズムを失って、このセットを25-27と逆転負けした。取るはずだった3セット目を逃し、勝利の女神にそっぽを向かれる。信じられないことに、3セットを連続で落とすことになる。第5セットは得点数では拮抗したものの、失った流れは戻ってはこなかった。

「オリンピックは、他の大会と比べると相手の気持ちの強さも違います。今日もそうでしたけど、ラスト1点が取れない。ふだんなら確実に取れているはずだったんですが、そこも相手は1点を取らせないために死に物狂いでやってくる。それがオリンピックの特別な部分だと思うので、他の大会と比べて勝ちきるのが難しいですね」

 髙橋はそう語ったが、心底を探ってみたくなった。

――「負けず嫌い」が性分の髙橋選手は、この負けをどう受け止めましたか?

 思いきって訊ねると、彼はこう答えた。

「悔しいですね。勝てなかったので、自分のプレーに満足していないです。勝つために、さらに(プレーを)追い求めるべきだし、強くなっていかないといけないと思います。素直に、この悔しさをバネにして次につなげていかないと」

 その答えは嘘ではないが、やや定型的に思えた。そこで二の矢を放った。

――プレーしていたイタリアが相手なのは運命的で、彼らの負けず嫌いがわずかに上回ったということでしょうか?

 髙橋の表情に小さな動きが生まれ、やや明るい声になった。

「イタリアには、(ジャンルカ・)ガラッシだったり、(マティア・)ポトロだったり、同じチームでやっていた選手がいました。他にも、シーズン中にも常に対戦していた選手ばかりで、このオリンピックでイタリアに当たるというのは特別な感じはありました。だからこそ負けたくなかった、というか......。

 ガラッシとは『楽しんでやろうね』と話していましていけど。やっぱり、自分たちが負けてしまい、次がない、というのが非常に悔しくて。イタリアだったからこそ、勝ちたかった、という思いはめちゃめちゃありましたね」

 本音に近づいたか。その悔しさの度数は、彼にしかわからない。イタリアで勝負どころを磨いた彼にとって、悪夢に近い結果だろう。

「ニッポンコールも聞こえて、背中を押されました。ありがたいし、うれしいこと。皆さんの前で勝ちたかったですが......オリンピックで勝つ選手になっていきたいって思います」

 髙橋は、今後に向けた思いを口にした。負けず嫌いは、勝つまで決して諦めない。