「日本の野球はすごいなと感じます」 6月22日、神奈川県平塚市で実施された大学日本代表候補合宿の初日を終えた段階で、堀井哲也監督(慶應義塾大監督)はそう語った。主力を担う可能性が高かった宗山塁(明治大)がコンディション不良で招集されず、誤算…

「日本の野球はすごいなと感じます」

 6月22日、神奈川県平塚市で実施された大学日本代表候補合宿の初日を終えた段階で、堀井哲也監督(慶應義塾大監督)はそう語った。主力を担う可能性が高かった宗山塁(明治大)がコンディション不良で招集されず、誤算も大きかったのではないか。そう尋ねた時、堀井監督はこう答えたのだ。

「宗山くんだけじゃなく、金丸くん(夢斗/関西大)、清水くん(智裕/中部大)......。3人の穴はでかいです。それでも、代わりの選手が出てくるじゃないですか。痛いんですけど、やっぱり日本の野球はすごいなと思いますね」

 宗山はいなくても、昨年も大学日本代表として活躍した西川史礁(青山学院大)や渡部聖弥(大阪商業大)といった大看板は残っている。そして「新世代の大学JAPANの顔」と言うべき逸材も台頭している。創価大3年の立石正広だ。


東京新大学リーグ屈指の強打者、創価大の立石正広

 photo by Kikuchi Takahiro

【代表候補合宿の紅白戦で大爆発】

 身長180センチ、体重87キロ、右投右打の内野手(一塁・三塁)。その打撃力について、1学年上の渡部はこう評する。

「打球速度は速いしコンタクト率が高くて、同じ右打者として『めちゃくちゃいいな』と感じますね」

 昨年12月に愛媛県松山市で実施された大学日本代表候補合宿でも、立石は紅白戦で5打数2安打2打点と存在感を放っている。

 そして半年後の今年の代表候補合宿では、立石はさらなる大爆発を見せる。紅白戦で8打席に立つと、6打数5安打3打点2四球。5安打は合宿参加者のなかで神里陸(國學院大)と並ぶ最多タイだった。

 その内容も濃かった。今春台頭した実戦派左腕・榮龍騰(帝京大)からレフトオーバーの2点タイムリー二塁打。ドラフト上位候補の速球派右腕・篠木健太郎(法政大)からレフト前ヒット。同じくドラフト上位候補の大型右腕・寺西成騎(日本体育大)からもレフト前ヒット。身長193センチの来年のドラフト候補右腕・高須大雅(明治大3年)からセンター前ヒット。変則サイド右腕・鈴木豪太(大阪商業大3年)からはショートへのタイムリー内野安打。ハイレベルかつタイプの異なる投手を次々に打ち込んだのだ。

 紅白戦終了後、立石に感想を聞くとこんな答えが返ってきた。

「自分のいる東京新大学リーグは、レベルは低くないんですけど、今回呼ばれたのが自分ひとりだけだったので。ナメられないよう、負けたくない思いがありました」

 東京六大学リーグや東都大学リーグといった名門大学に所属するエリートへの対抗意識があるのか。そう尋ねると、立石は「自分は行きたくても行けなかったので」と意外なことを打ち明けた。

「試合に出られる大学に行って、経験を積んだほうがいいということで創価大に入学しました。そのおかげで、いっぱい試合を経験させてもらいました」

【今春のリーグ戦序盤は大不振】

 山口・高川学園では高校3年夏に甲子園に出場しているが、高校通算10本塁打と飛び抜けた実績はなかった。サク越えホームラン自体、高校3年春になって初めて打ったという。「バットを振ることは好きでした」と語るものの、高校時代の体重は72〜73キロと細く、圧倒するような飛距離はなかった。

 立石のスタイルが大きく変わったのは大学進学後だった。きっかけは「1年生の時に活躍できなかったから」と本人は振り返る。

「どうやって打球を飛ばそうか......と考えて、そこでつまずきました。何かを変えないといけないと思って、『打席のなかで強く振って、ボールに当てる』というスタイルに行き着きました。打球スピードが速ければ、野手のエラーもあるわけですから」

 立石の打撃フォームを見ると、その特異性に誰もが気づくはずだ。

 広くスタンスをとって、低い重心でボールを呼び込む。一瞬で体幹をターンしてバットを振り抜くと、そのフォロースルーは美しい軌跡を描く。日本人のスラッガーというより、メジャーリーガーのスラッガーを想起させる豪快なスイングだ。

 立石は自身の打撃フォームについて、こう語っている。

「あまり重心を動かすと目線がブレるので、その点は意識しています。あとはシンプルに、最低限の力で強い打球を打つことを考えています」

 昨年、大学2年になった立石は春のリーグ戦で5本塁打を放つなどブレイク。一躍脚光を浴びる存在になった。

 ところが、ひと冬越えた今春、立石は大不振にあえいだ。序盤の4試合を終えた段階で打率は.071。チームも3節連続で勝ち点を落とすなど、思わぬ低迷を続けた。立石は「最悪でした」と振り返る。

「タイミングがバラバラで、打撃が崩れていました。松山の合宿が終わってから、『警戒されるんじゃないか?』とか、いろいろと考えすぎました。フォームも足を上げたり、いろいろやったりして、崩れてしまって」

 結果的に「気持ちを割り切ってからよくなった」と状態を持ち直し、終わってみれば打率.297、3本塁打を記録している。

【少しでもメジャーをかじりたい】

 昨年の松山に続いて2回目の参加となった代表候補合宿では、2日目以降も持ち前の打撃力をいかんなく発揮した。代表監督の堀井監督も「リーグ戦の前半は苦しんだと聞いていたんですけど、だいぶ復調して成長がうかがえる内容でした」と評価した。

 東京新大学リーグのレベルの高さを証明できたのではないか? 立石にそう尋ねると、「そうであればいいんですけど」という微笑とともに、こんな答えが返ってきた。

「それは周りが決めることなので。自分はとくに考えずに頑張るだけですね」

 今後の課題を聞くと、立石は技術面と肉体面のポイントを語り始めた。

「もっとボールに対してきれいに回転をかけた打球を打ちたいです。レベルが上がると球が速い投手が多くなるので、今はトップを早めにとって潰すイメージで打っています。回転をかけられれば、打球に角度が出ると思うので。あとトレーニングはただパワーをつけるだけでなく、機敏さをキープしながら体づくりをしています。守備は全然自信がないんですけど、プロに行くためには二遊間を守れるようになりたいですね」

 プロへの思いがこぼれたため、念のためプロ志望なのかを確認してみた。すると、立石は「メジャーに行きたいんです」と大志を語った。

「野球の一番上の世界がメジャーリーグですから。今は大学で頑張っていますけど、いつ行ってもいいように......という思いで練習しています。たとえ1年でもいいので行きたいです。少しでもメジャーをかじりたいんですよね」

 メジャーリーグをかじりたい──。そんな言葉を初めて耳にして、ぷっと吹き出してしまった。

 6月24日に発表された大学日本代表24名のメンバーのなかには、当然のように「立石正広」の名前が記されていた。7月からチェコ、オランダを転戦したヨーロッパ遠征は序盤の5試合に「4番・一塁」で先発したものの、不振のため終盤はベンチを温める試合が多くなった。

 チームはプラハベースボールウィーク、ハーレムベースボールウィークともに無敗で優勝を遂げたが、立石個人にとっては苦い国際大会デビューになってしまった。

 それでも、立石正広の冒険は始まったばかりだ。東京新大学リーグという日の当たりにくい環境から、世界へ──。壮大なスケールの物語は、第2章へと突入していく。