8月2日、パリ南アリーナ。パリオリンピック男子バレーボール予選、日本は最終戦でアメリカと対決し3-1で敗れている。しかし獲得した1セットで、準々決勝進出を決めた。 救世主になったのが、ダントツのチーム最多得点を記録した西田有志だ。 西田は…

 8月2日、パリ南アリーナ。パリオリンピック男子バレーボール予選、日本は最終戦でアメリカと対決し3-1で敗れている。しかし獲得した1セットで、準々決勝進出を決めた。

 救世主になったのが、ダントツのチーム最多得点を記録した西田有志だ。

 西田はコートに立つと、試合開始前から動きが大きく、表情がコロコロと変わって、とにかく活発である。

 たとえばふたり一組のパス交換。オーバーハンドパスひとつにも、レシーブひとつにも気持ちが入っている。ひとつひとつのプレーに強くコミットすることによって、集中力を最大限に高めているのか。際立って敏捷だ。

 スパイク練習では、列に並んでいるだけでも、声を上げて周りを鼓舞する。自らスパイクを打つと、雄叫びを上げる。試合同然の本気度だった。そして歩いて水分補給に行くのでも肩を大きく回し、とにかく動きが止まらない。ドリンクを飲む姿にまで愛嬌があって、すべての所作がつながっているのだ。

「勝ちたい欲に負けてしまうところも、人なのであると思います。でも、自分は一歩引いて、楽に考えるわけじゃないですけど、自分たちの自由さを出せるのが強みかなって思います」

 西田は達観して言うが、そのおおらかさが"集中力の天才"ぶりにつながっているのか。

 率直に言って、試合はアメリカに押され気味だった。第1、第2セットは食らいつくのがやっと。しかし、どうにか踏みとどまることができた。それは要所で西田がスパイクを決めていたからだろう。セッターの関田誠大からのバックトスに跳躍し、左腕を振ると豪砲をぶっ放す。必殺の攻撃パターンだった。



アメリカ戦でチーム最多の18得点を挙げた西田有志 photo by Kyodo news

 真骨頂は3セット目だ。

 常に先行しながら、6-6と追いつかれると、西田がレシーブを爆撃するようなスパイクをストレートへ決める。再びリード。そのプレーがチームに活力を与えていたことは間違いない。体が重かった石川祐希に代わって途中出場の大塚達宣と対角を組むことになった髙橋藍も躍動し、アメリカがたまらずタイムアウトを取った。

【「自分たちのバレーに近づいた」】

 西田は攻撃の手を休めない。

 再び、関田のバックトスからスパイクを打ち抜く。続けて、強弓そのものになって矢のようなスパイクを決めると、飛行機のようなポーズで駆け回る。17-11、18-11と引き離した。また、19-14と差を縮められかけたところでは、関田からのトスを打って、ボールを向こう側へ吸い込ませる。直後にはブロックに成功するなど、完全にスイッチが入っていた。

 25-18。日本のベスト8入りを確実にする1セットを取りきった。

「3、4セットは打ちきるしかない、と思っていました。リバウンドを取れるようになって、日本のリズムにして......。3、4セットは自分たちのバレーに近づいたと思います。サーブでのプレッシャーを与えられるようになったのは大きかったかなと」

 西田は実感を込めて語っていた。4セット目は19-25で敗れたが、どう転んでもおかしくない内容だった。リベロの山本智大を中心にボールを拾い、ブロックフォローも堅実で、防御が攻撃を旋回させた。最後は山内晶大のサーブも決まった。

「自分たちのバレーをどうするのか、再確認したいですね。それができれば、アメリカ相手でもセットをとれたわけで、そこから勝ち筋が見えてくると思うので。しっかりクオリティを戻して、自分たちがやってきたところの自信を持ってやっていくしかないです」

 西田が言うように、アメリカ戦の3セット目こそ、必勝の形なのかもしれない。

「全員が活躍する、というチームでありたい」

 大会前から、西田は実直な姿勢で話をしていた。決して軽率なことは言わない。自分のなかに、バレーに対する真理を持っている。それは動物的で、破天荒に映るコートでの振る舞いとは大きなギャップで、そこに彼の魅力はあるのだろう。

「常に自分がやるべきことは変わらず、ずっとやり続けていますね。去年のパフォーマンスの悪さから学んだところがあって、今、このパフォーマンスを維持していられるのは、その経験があってこそかもしれません。何をやらないといけないのか、何にフォーカスしないといけないのか、それが鮮明になっていると思います」

 西田は常に思考し、それを実行し、修正しながらも立ち止まらずに続ける。そうすることで思考をクリアにし、実行の精度を上げている。際立って理知的なアスリートだ。

「次からは負けたら終わりなので。今ここで考えても、どうにかなることはない。練習をやるしかないので、全員がベストコンディションで同じ方向で戦えるように」

 西田は言う。ひとつの集大成だ。

「個人的には、今のパフォーマンスを維持すべきだと思います。チームとしては石川選手が苦しんでいるなか、大塚選手が出ていいパフォーマンスを見せた。このチームは全員で戦っているので、自分たちでプッシュし、受け身にならないように。正直、メンタルのところは大きいので、常にチームで支え合うべき。(同じチームで)やれるのはあと3試合、噛みしめながら戦っていきたいです」

 西田は「あと3試合」と言いきった。それは決勝戦までを意味している。準々決勝は8月5日だ。