6月22日、バッティングパレス相石スタジアムひらつかのスタンドで、旧知のNPBスカウトから「今回は誰を取材しようとしているの?」と話しかけられた。 取材予定だった複数の選手名を挙げると、スカウトは島田舜也(東洋大3年)の名前に敏感に反応し…

 6月22日、バッティングパレス相石スタジアムひらつかのスタンドで、旧知のNPBスカウトから「今回は誰を取材しようとしているの?」と話しかけられた。

 取材予定だった複数の選手名を挙げると、スカウトは島田舜也(東洋大3年)の名前に敏感に反応した。

「あぁ、島田くんはいいねぇ。今年の大学3年生のなかで一番いいかもしれない」


最速153キロを誇る東洋大の島田舜也

 photo by Shimada Shunsuke

【気づいたらこうなっていた】

 昨年、大学2年生だった島田のボールを見た時は衝撃を受けた。身長185センチの長身から放たれる、捕手のミットに向かってぐんぐん加速していく体感のストレート。よほどのことがない限り、2年後のドラフト1位指名は堅いと感じた。

 その一方で、木更津総合に在学した高校時代には、ここまでの迫力を感じなかったのも事実だった。そんな印象を本人に伝えると、「高校時代は全然たいしたことがなかったので」という反応が返ってきた。それでは、大学で何かきっかけをつかんだのだろうか。だが、島田はかぶりを振って「気づいたらこうなっていたんで」と笑った。

「フォームは高校時代から変わりましたし、体重が高校時代の78キロから90キロまで増えたこともボールが変わった理由なんだろうとは思います。でも、『これをしたから』と断定できるものはないんですよね」

 6月22日から3日間にわたり、45人の精鋭が神奈川県平塚市に集結した大学日本代表候補合宿。投手陣には中村優斗(愛知工業大)、寺西成騎(日本体育大)、篠木健太郎(法政大)といった今秋のドラフト上位候補がいたが、3年生も粒ぞろいだった。

 結果的に代表入りを果たすことになる身長193センチの大型右腕・高須大雅(明治大)に、うなるような快速球を武器にする左腕の渡邉一生(仙台大)。ほかにも伊藤樹(早稲田大)、外丸東眞(慶應義塾大)、市川祐(日本大)、高木快大(中京大)、野口練(近畿大)といった実戦派がひしめいた。

 合宿中のウォーミングアップで、こんなシーンがあった。ライト付近の芝生で体をほぐす選手たちのなかで、島田は突然、両手を地面に着けて倒立をはじめた。身長185センチ、体重90キロの巨体にもかかわらず、島田は両足を空に向ける体勢をキープする。その姿には美しさすら感じた。

 なぜ倒立をするのか、島田に聞くとこんな答えが返ってきた。

「自分は重心を大切にしていて、立っている時だけではなく逆の重心も大事だと考えています。たとえばどんな打球がきても対応できるように、自分の軸がブレないようにしています。倒立だけじゃなくて、片足スクワットとか、いくつか重心を確認するメニューがあるんです」

 東洋大には日本ハム、巨人でプレー経験のある乾真大コーチがおり、乾コーチから重心を確認する練習法を教わってきたという。同じく重心を重視する山本由伸(ドジャース)のドキュメンタリー番組を視聴したり、今回の合宿中に愛知工業大の中村と重心について会話を交わしたりするなかで、島田は「やっぱり重心は大事だな」という結論に達したという。

【無念の日本代表落ち】

 ただし、島田は大学代表候補止まりで、メンバー選考から落ちている。合宿初日の紅白戦で2イニングを投げ、被安打6と打ち込まれたのが大きく響いた。

 合宿2日目の練習終了後、宿泊先へと向かおうとする島田に声をかけた。「昨日は落ち込んでいるだろうと思って、声をかけられなかったんです」と打ち明けると、島田は「いやいや、全然大丈夫ですよ」と笑って、こう続けた。

「球速だけじゃダメなんだって、身に沁みて味わいました」

 紅白戦で最初に打席で相対したのは、渡部聖弥(大阪商業大)。今秋のドラフト上位候補であり、昨年から大学日本代表としてキャリアを積んできた強打者である。

 島田は立ち上がりから最速153キロを計測したストレートで、渡部のバットを押し込んでいく。早々に2ストライクと追い込んだが、フォークをかろうじてバットに当てられるなど仕留めきれない。最後は148キロのストレートを渡部にとらえられ、センター前へと運ばれた。

 出鼻をくじかれ、てっきり意気消沈したのではないかと想像していたが、島田はあっけらかんと「おぉ〜、打たれるかって感じでした」と振り返った。

「最初は真っすぐで差せていたんですけど、変化球があまりよくなくて、最後は真っすぐが甘く入ったので、まあ打たれるよなと。あれくらいのバッターになると、一発でとらえてきますよね」

 つづいて大学選手権で7打席連続安打をマークした石飛智洋(天理大)には、ライト前ヒットを許した。その後は1アウトをとったものの、一死一、二塁のピンチの状態で強制終了。この合宿では投手は1イニングあたり20球までの球数制限があり、上限に達したためだ。

 2イニング目は繁永晟(中央大3年)、柳舘憲吾(國學院大)、山縣秀(早稲田大)にシングルヒットを浴びて1失点。最後は2巡目となる渡部にライト前ヒットを許したが、ライトを守る西川史礁(青山学院大)がノーバウンドのバックホームで走者を刺して3アウトに。三塁側ベンチに戻った島田は「ホントにスイマセン!」と叫んだ。

「試合が始まる前、『このチームで勝とう』と言っていたのに、自分が失点して点差を広げられてしまったので(試合は1対3で敗戦)。打たれてしまって申し訳ないなと思って、謝らせてもらいました」

 結果的に1失点で済んだとはいえ、アウトは4つしか奪えず、被安打は6を数えた。それでも、島田は明るいトーンでこう総括した。

「球速だけじゃダメだし、コントロールがアバウトすぎても打たれる。あとは組み立てもうまくできなければ打たれるとわかりました。打たれたのは悔しいけど、全然ダメだとは思いません。これくらいが今の実力だなと感じています」

 今回は大学日本代表入りを逃したといっても、プロスカウトが高く評価したように島田が2025年のドラフト1位指名候補であることは変わらない。

 島田は自分自身をどのように評価しているのだろうか。そう聞くと、苦笑交じりにこんな答えが返ってきた。

「ドラフト1位でプロに行けるように目指しています。ほかにもすごいピッチャーはいますけど、負けちゃダメだし自分のほうが上だと思ってやっています。うわべでは仲良くしているんですけど、心のなかでは『自分が上だ』と思っています。そう思っていないと、負けちゃうんで」

 島田が在籍する東洋大は現在、強豪がひしめく東都大学野球連盟の2部リーグで戦っている。「まだ1部で投げたことがない」と島田自身が語るように、大舞台での実績はまだ乏しい。

 それでも、このまま順調にステップを踏んでいけば、島田舜也の名前は大きくクローズアップされるようになるはずだ。この大器には、それだけの魅力が詰まっている。